【製品レビュー】SEQUENTIAL Trigon-6

3つのVCOとラダー・フィルターによる
重厚かつ濃厚なアナログ・サウンドが魅力の
“6”シリーズに加わった最後の1台

デイヴ・スミス氏が晩年に手がけていたProphet-6、OB-6に続く最後の“6”、それがTrigon- 6だ。シンセ・サウンドを作る上では心臓部とも言えるフィルターにラダー・フィルターを採用し、オシレーターは3 基搭載した。デイヴ・スミス氏の設計するシンセの定番とも言えるポリ・モジュレーションのモジュレーション先も7ポイントと、サウンド作りの幅が広くなることは容易に想像できるだろう。言うまでもなく、重厚で濃厚なサウンド作りを可能にしたスーパー・アナログ・シンセサイザーTrigon-6は、想像以上のモンスター・シンセだった。

まず、こだわったと言われるラダー・フィルターは、いわゆるモーグMinimoogなどに搭載されているそれとは少し印象が異なる。ラダー・フィルターの場合、レゾナンスを上げていくと個性的で気持ちの良い発振はするものの、音が痩せるといった印象がある方も多いと思う。しかし本機に搭載されているラダー・フィルターは、レゾナンスを上げてフィルターのカットオフを下げていくと、オシレーターの波形によっては高い周波数帯に倍音、不規則倍音が生まれる。アナログ・シンセサイザーでは合成しにくい、不規則倍音を含んだ金属系、ベル系サウンドなどを簡単に作ることができるのだ。リング・モジュレーションやポリモジュレーションを駆使することなく、FMさながらの金属的な音作りができるフィルターに、このTrigon-6の妙があるのだ。シンセ好きならば、これが新しいタイプのラダー・フィルターであることがすぐにわかるだろう。

次に特筆すべき点はオシレーターだ。1ボイスにつき3VCOという、とても贅沢な仕様になっている。単純に計算すると、6ポリフォニックなので18オシレーターを鳴らせるというわけだ。分厚く濃厚なモンスター・サウンドを作るには、十分すぎるスペックだ。さて、このオシレーター・セクションで最も注目すべきパラメーターが、FDBK/DRIVEノブだ。左に回すとフィードバックがかかり、右に回すとドライブする。DRIVE側はまさにオーバードライブ・サウンドが得られるが、FEEDBACK側は原音すらも破壊するようなポリ・モジュレーション以上に音の変化をつけられるパラメーターとなっている。Trigon-6の最も特徴的なパラメーターの1つであることは明白だ。生成される破壊的サウンドは、ダブステップを起点とするトラップやベース・ミュージックなどでは重宝すること間違いなしだ。まさに現代の音楽プロダクションのワークフローを突いているシンセサイザーと言えよう。ちなみこのFEEDBACKは自己発振もする。音階こそ持たないが、ノブを振り切るとパーカッシブな特徴的なサウンドも簡単に作れる。

ここで気づいたのが、OSC2、3のピッチ幅だ。上下に5度とハーモニー重視になっている。もう少し広いレンジが欲しいところだが、このシンセサイザーは3VCOであることから、このレンジ幅でも十分多彩な音作りができる。OSC2、3のピッチ・ノブの振り切りで、心地良いハーモニー・サウンドが簡単に作れる仕様になっているというわけだ。ただ、OSC3はKEYBOARDスイッチをオフにすると鍵盤に応じてピッチの変化はしないものの、上下に約13度程度と大きくピッチ変化する。すなわち、OSC3をLFO的な使い方をする際に困ることはないのだ。ちなみにオシレーター・シンクをかけた際には、±5度のピッチ変化は音が破綻しないちょうど良いシンク・サウンドが得られるレンジになっている。ノイズは若干高域成分が落ちたピンクノイズとホワイトノイズの中間といったサウンドで、音作りの際にザラつきや芯を持たせるノイズとしてはとても使いやすい。

1ボイスにつき新設計の3つのVCOを搭載。また、特徴的なラダー・フィルターもボイスごとに装備されている

そしてシーケンシャル社のお家芸とも言えるポリ・モジュレーションだが、前述したとおりモジュレーション先が少し多めの7ポイントが用意されている。ここで特筆すべき点が、Trigon-6の特徴ともなり得るもの、モジュレーション先にオシレーター・セクションに用意されたFEEDBACKがあるのだ。OSC3をアマウントしても、FILTER ENVをモジュレーションしても、確実に個性的なサウンドがアウトプットされる。そして、ここでTrigon-6ならではの独特なラダー・フィルターを通せば、キラリと光るシンセ・サウンドが曲中に馴染むことだろう。

最後に、キーボード・プレーヤーには嬉しいアフタータッチ機能も非常に充実している。このセクションで興味深いのが、FXのミックスにアフタータッチをモジュレーションすることができることだ。アフタータッチでエフェクトの量を調整することで、今まで聴いたことがないような斬新なサウンドを得られる。筆者が面白いと思ったのは、ディレイのミックス量をアフタータッチでコントロールすると、なんとも浮遊感のあるサウンドが生まれるのだ。さらに、他のシーケンシャルのシンセでも定番のビンテージの挙動を再現するVintageノブ、64ステップ・シーケンサーやアルペジエーターなども搭載されている。

余談ではあるが、実はこのTrigon-6、オシレーター・セクションやラダー・フィルターの採用など、かのモーグ社のMemorymoogにとても設計思想が近いのである。特にオシレーター・セクションのOSC2、3の±5度のピッチ変化の量など、触れば触るほどMemorymoogを彷彿させる。Trigonとは三角を意味し、ポリフォニック・シンセのレジェンドProphet-5、OB-8、Memorymoog、この3つの遺伝子を受け継ぐ機種をこの“6”シリーズでまとめたということは、デイヴ氏は何かメッセージを遺したかったのでは……と。邪推ではありますが。(文:江夏正晃/FILTER KYODAI/marimoRECORDS)

シーケンシャル伝統のポリ・モジュレーションはデスティネーションが7ポイント用意され、幅広いサウンド・メイキングができる

製品情報

SEQUENTIAL Trigon-6

価格●567,500円

Specifications

●鍵盤:フルサイズ・セミウェイテッド・4オクターブ・キーボード(ベロシティ、アフタータッチ搭載)●オシレーター:ボイスごとに3基のディスクリートVCOを搭載●ローパス・フィルター:ボイスごとに2/4ポールを切り替え可能なディスクリート・レゾナント・ローパス・ラダーフィルター●フィルター・エンベロープ:4ステージ(ADSRタイプ)エンベロープ・ジェネレーター●アンプ・エンベロープ:4ステージ(ADSRタイプ)エンベロープ・ジェネレーター●LFO:5種類の波形(サイン波、ノコギリ波、逆相ノコギリ波、矩形波、ランダム)●アルペジエーター:5種類(Up、Down、UP+Down、Random、Assign)●シーケンサー:最大64ステップのポリフォニック・ステップシーケンサー●パッチ・メモリー:500ユーザープログラム+500ファクトリープログラムを100プログラム×10バンクに記憶●入出力端子:オーディオ出力、ヘッドフォン出力、MIDI(IN/OUT/THRU)、USB、サステイン●外形寸法:807(W)×323(W)×117(H)mm●重量:9.5kg

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