ルックスもサウンドも魅力の現行シンセサイザー ~ Buchla & Tiptop Audio Programmable Complex Waveform Generator Model 259t

『FILTER Volume.08』掲載特集“シンセサイザーのデザイン”では、魅力的なルックスを持ち個性的なサウンドが出せるシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開！

デザイン性と操作性を兼ね備え複雑な音作りができる
現代版のオシレーター・モジュール

アメリカ西海岸、バークレーで生まれた個性派シンセサイザーのブックラ。ティップトップ・オーディオとのコラボで、アイコニックなルックスは継承しつつ、より使いやすく、そしてクリエイティブに生まれ変わったのがProgrammable Complex Waveform Generator Model 259tだ。ブックラと言えば、異端なイメージの強いシンセサイザーだが、本機は使いやすさと音楽性が備えられた現代版のオシレーター・モジュールになっている。

シルバー・パネル・ベースで、青で統一されたノブ類やシルク印刷はひと目で“ブックラ”とわかるデザインだ。また、ジャック類で重要なポイントに、赤や青、黒、グレーのプラスチック・カバーがされているのもブックラらしいデザイン仕様と言える。さらにインプット類が下段に、アウトプット類が上段に配置されているのもとてもわかりやすい。本機の特徴でもあるプリンシパル・オシレーターとモジュレーション・オシレーターが整然と左右に並び、その真ん中にモジュレーター・セクションが配置されている。信号の流れを考えながら音作りできるデザインになっていることは、操作すればすぐにわかるだろう。さて、そんなデザイン性と操作性を兼ね備えた本機を掘り下げてみよう。

プリンシパル・オシレーターには3つのアウトプットがあり、サイン波、矩形波、そして右側に配置されたHarmonics／Timbreセクションを介したFinal出力を備える。一方で、モジュレーション・オシレーターは三角波、モジュレーション用途の使用を前提としたCV出力、そしてノコギリ波、矩形波、三角波で切り替え可能なSignal出力を持つ。そして本機の最も重要なモジュレーション・セクションには、Ampl.mod.、Pitch mod.、Timbre mod.のトグル・スイッチが用意されている。これらを自在にプログラムすることで、ブックラのシンセらしい特徴的なサウンドを作り込むことができる。そしてプリンシパル・オシレーターのHarmonics／Timbreセクションも本機の重要なパラメーターであり、いわゆるウェーブシェーパー的使い方で倍音構成を変化させたりしながら音色を作り込むことができるのだ。

実際に触ってみて驚かされたのが、音作りの幅の広さだ。本機でサウンド・メイキングする上で重要となってくるのがモジュレーション・セクションだ。Ampl、Pitch、Timbreを同時に変調させることができるので、偶然性から特徴的なサウンドが次々と作れる。そして特筆すべきはPhaseLock機能だ。複雑にモジュレーションをかけていくと、音が濁ったりサウンドにうねりが生じたりする。その際にこのPhase Lockを使うと濁りやうねりが消え、プリンシパル・オシレーターのピッチを変化させるとブックラらしい特徴的なサウンドが生まれてくるのだ。他のシンセなどではあまり見ない、さすがブックラといった独特なシンセ機構だ。このように他社のシンセとは一線を画す機能が組み込まれているが、各パラメーターの配置デザインがとてもわかりやすいので、初心者でもすぐに音作りできるだろう。

そしてもう1つの本機の特徴でもあるのがARTフォーマットへの対応だ。現時点ではティップトップ・オーディオのART対応モジュールである“OCTOPUS”と“ART QUANTIZER”のみの対応となるが、本機が音楽スケールを用いた楽曲制作をできるメリットは大きい。

ブックラのレガシーを保ちつつ、現代版に進化した本機は、独特な思想のモジュレーション・オシレーターや、今までになかったARTフォーマットへの対応により、音作りの可能性の幅を大きく広げたと言える。ただし、ここまで本機の特徴をたくさん書いてきたが、やはり一番の魅力は創作意欲をかき立ててくれるブックラらしいデザインであり、多くのユーザーを魅了することは間違いない。
文：江夏正晃（FILTER KYODAI／marimoRECORDS）