強力なフィルターを搭載した現行機種レビュー 〜 YAMAHA MONTAGE M
『FILTER Volume.10』掲載“強力なフィルターを搭載した現行機種レビュー”では、サウンドメイキングで活躍するフィルターを搭載したシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種のフィルターの特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開!
アナログ的なうねりを作り出し太さを維持する専用フィルターを装備

AN-X音源の搭載によって、MONTAGE Mはハイブリッド・フラッグシップとしての性格を大きく変えることとなった。従来のAWM2、FM-Xに加え、新たにアナログ・モデリング音源“AN-X” が統合され、物理的なアナログ回路の挙動を、時間変化まで含めて再現する方向性がさらに明瞭になったのだ。ヤマハは回路ごとの非線形性を入念にアナライズしたと述べており、その結果、オシレーターの太さや倍音生成の癖、そしてピッチの微細な揺れ(アナログ漂遊)が従来のソフトウェア的なバーチャル・アナログに比べて格段に自然な挙動を実現している。
AN-Xは3オシレーター構成で、SAW、PW、TRI、SINEといった基本波形に加え、PWMやSYNCなどFM的な歪みを作る機能が統合されている。特に印象的なのは、オシレーターの位相ずれやドリフト量を独立して管理できることで、ビンテージ・シンセのようなVCO の揺らぎだけでなく、現代的な安定したバーチャル・アナログ・サウンドまで幅広く作れるのが特徴だ。ユニゾン・モードにした時の位相管理も音楽的によく設計されており、デチューンを大きくずらしても飽和しすぎず、複数の実機アナログを重ねたような密度を得られるのが嬉しい。
そして今回最も注目すべき点がフィルター・セクションである。MONTAGE Mでは従来のMulti-Mode Filterから24dB/12dB の切替、LPF/BPF/HPFの質感がそれぞれ大幅に改善されているように感じた。特にAN-X専用フィルターは、共振のピークが倍音としっかり相互作用するアナログ的なうねりを作り出し、レゾナンスを上げた際に音色が極端に細くならず、低域が残る特性がある。これは近年のハードウェア・アナログのトレンドに近く、実機同様にレゾナンスを鳴らしながら太さを維持する音作りが、瞬時の音量差を回避できる優れた機構だ。
また、Mシリーズではフィルターの非線形回路モデリングが強化されており、入力レベルに応じて飽和感が気持ちよく変化する。ドライブを上げた時の倍音生成がとても自然で、単に歪ませるのではなく、アナログ回路特有の入力量によって特性が変わる挙動まで再現されている点は、今回のMONTAGE Mを評価する上で最も重要な部分である。実際、オシレーターの出力レベルを変えるだけでフィルター後の質感が変わり、音色設計に“レベル構築”という新しく楽しい軸が生まれる。
操作面では、タッチ・スクリーンの大型化に加え、フィルターやAN-Xの詳細をより視覚的に確認できるUI が再構成され、モジュレーション・ルーティングの把握が容易になった。特にAN-XのENVやLFOは、ワンページで全体像を俯瞰できるため、複雑なモジュレーションでも深い階層で迷うことが少ない。LFOの高速化もあり、アナログでは難しいオーディオ・レート付近のモジュレーションで、デジタルならではのシャープな揺れを作ることもできる。
従来のMONTAGEユーザーにとって大きな恩恵は、アナログ系のリード/ベース/パッドが、プリセットの段階で即戦力レベルに引き上がったことである。FM-Xの複雑な倍音とAN-Xのアナログ質感をレイヤーした際の音の厚みと情報量は、単なるデジタルとアナログ風の足し算には留まらず、ヤマハ独自のモデリング精度が生むハイブリッド・シンセの完成形のように感じられるだろう。一方で、AN-Xのキャラクターはやや整った印象があり、ビンテージ特有の癖や予期せぬ破綻を強く求めるユーザーには物足りなさを感じるかもしれないが、それも含めてヤマハの電子楽器に対する安心感の象徴なのではなかろうか。
総合すると、MONTAGE Mは単なる後継機ではなく、デジタル・アナログ・FMの三位一体を統合した新しい音源アーキテクチャーを獲得したシンセサイザーと言える。特にAN-Xと新フィルターは、サウンド・デザインの自由度と質感を大幅に引き上げ、従来のMONTAGEが苦手としたアナログ的表現を高い解像度で補完している。プロフェッショナルな現場においても、1台で現代的なハイブリッド・サウンドを完結できる強力な選択肢がまた1つ誕生した。
文:齋藤久師
製品情報
YAMAHA MONTAGE M
メーカー希望小売価格●MONTAGE M6:440,000円、MONTAGE M7:473,000円、MONTAGE M8x:517,000円
Specifications
【鍵盤】61鍵FSX 鍵盤(イニシャルタッチ/ アフタータッチ付)、76鍵FSX 鍵盤(イニシャルタッチ/ アフタータッチ付)、88鍵GEX鍵盤(イニシャルタッチ/ポリフォニックアフタータッチ付)【音源部】●音源方式:Motion Control Synthesis Engine/AMW2:最大128 エレメント、FM-X:8 オペレーター、88アルゴリズム、AN-X:3オシレーター、1ノイズ●最大同時発音数:AWM2=256音(ステレオ/モノ波形いずれも)、FM-X=128音、AN-X=16音●マルチティンバー数:内蔵音源16パート、オーディオ入力パート(A/D、USB)●波形メモリー:プリセット=11.29GB 相当(16bit リニア換算)、ユーザー=3.7GB●パフォーマンス数:3,487●フィルター:18 タイプ●エフェクト:リバーブ×13タイプ、バリエーション×91タイプ、インサーションA×91タイプ、インサーションB×94タイプ、マスターエフェクト×28タイプ、A/Dパート:86タイプ、パート2~16:91タイプ、マスターEQ (5バンド)、1stパートEQ (3バンド)、2ndパートEQ (2バンド)【シーケンサー】●容量:1パターン/ソング=約 130,000音●音符分解能:四分音符/480●パターン:パターン数=128、トラック=16シーケンサートラック、テンポトラック、シーントラック●アルペジエーター:最大8パート同時オン可、プリセット=10,922タイプ以上、ユーザー=256タイプ【その他】●ライブセット数:プリセット=256以上、ユーザー=2,048●接続端子:USB TO DEVICE [1] / [2]、[USB TO HOST]、MIDI [IN] / [OUT] / [THRU]、FOOT CONTROLLER [1] / [2]、FOOT SWITCH [SUSTAIN] /[ASSIGNABLE]、OUTPUT(BALANCED) [L/MONO] / [R](TRSバランス出力端子)、ASSIGNABLE OUTPUT(BALANCED)[L] / [R](TRSバランス出力端子)、[PHONES](ステレオ標準フォーンジャック)、A/D INPUT [L/MONO] / [R](標準フォーンジャック)●寸法:61鍵=1,037(W)×396(D)×131(H)mm、76鍵=1,244(W)× 396(D)×131(H)mm、88鍵=1,446(W)× 460(D)× 170(H)mm ●重量:61鍵=15.3kg、76鍵=17.6kg、88鍵=28.1kg
お問い合わせ
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