ルックスもサウンドも魅力の現行シンセサイザー ~ YAMAHA SEQTRAK

『FILTER Volume.08』掲載特集“シンセサイザーのデザイン”では、魅力的なルックスを持ち個性的なサウンドが出せるシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開！

音楽制作からライブまで完結できる
洗練されたデザインの軽量プロダクション・ギア

楽器というものは、演奏性や音色、音質面の良さは当然求められるものですが、その楽器本体のデザインも、クリエイティビティやパフォーマンスのポテンシャルを引き出すことに密接に関係していることから重要と言えます。本製品を見た時の第一印象は、非常に洗練された今日的デザインで強いインパクトを受けるとともに、創作意欲の高まりを感じました。

本体はその昔同社から発売されたポータブルなアナログ・シンセサイザーCS01を想起させるサイズ感ながら、ノブやボタン類が整然と配置され、本体のカラーリングと相まって現代的でクールな質感が感じられます。それでいて、各部に割り当てられた機能は各セクションでの操作や作業面での使いやすさに配慮されており、ユーザーのクリエイティビティを高めることにひと役買っているようです。

SEQTRAKは、AWM2音源と4オペレーター仕様のFM音源という2種類のシンセ・エンジンによるプリセット・サウンドが2,032個、プリセット・サウンドが392個用意されたサンプラーだけでも十分な仕様ですが、これらに加えてノブやスライダーなどのコントローラー、11トラックのシーケンサー、ミキサー、リバーブ×12タイプ、ディレイ×9タイプをはじめ各種多彩なエフェクトも用意されていて、個性的なデザイン面だけでなく、楽器として重要な機能や音色なども充実したスペックであることが分かります。

SEQTRAKの操作性の面に着目してみると、本体の左側からドラム・パート、シンセ＆サンプラー・パート、サウンド・デザイン＆エフェクト・パートという順にレイアウトされており、各パートの側面に各セクションの操作を行うためのボタンが配置されています。試しに7個のドラム・パートを使用してリズム・パターンを作ってみたところ、入力するタイミングを指定するドラム・キーのタッチに心地良さが感じられたほか、音色や設定変更の際に使用するノブにもスムーズな操作感がありました。特に良かったのはハイパス・フィルターです。リアルタイムに音色変化を加える際などに使用するタッチ・スライダーは、操作時のタッチ感とサウンド変化がシンクロしていて非常に良い感じでした。長時間曲作りをしていてもストレスや疲労感をさほど感じることもなく、デザインを考えていく上で操作感にも配慮されているのが感じられます。

SEQTRAK上で曲作りを進めていくと、リアルタイムで音を鳴らしながら本体上のシーケンス・トラックにドラム・パターンやベース、シンセ・パートなどを思いつくまま直感的に打ち込んでいく曲作りに最適だということがわかります。これまでにも同傾向の製品は他社も含めて数多くありましたが、SEQTRAKのような製品は曲作りがマンネリ化している時に使うと頭が活性化して、創作意欲が盛り返してくることが多々あります。また、ドラムレスやベースレスなどの変則的な編成のバンドにおいては、各トラックのサウンドをリアルタイムに変化させたり演奏パターンを思いつきで変えられることから、曲構成における尺の調整や演出も単なるマイナスワン・トラックを流しながらの演奏とは一味違ったパフォーマンスが行えるなどのメリットがあります。

最後に、SEQTRAKは本体だけでも十分なトラック制作ができますが、パソコンやスマートデバイスで動作する専用のSEQTRAKアプリを活用すると、本体動作の詳細設定、ドラムやシンセ、サンプラー音色の追加のほか、本体上では行えない設定やシンセ音色のエディットなどが細部まで緻密に行えるため、SEQTRAKの持つポテンシャルを十二分に引き出せるようになります。特筆すべきは、作った楽曲に合わせた動画を作成可能なビジュアライザーが用意されている点。これにより、楽曲のリズムやサウンドに追従した簡単な映像制作が行えます。さらにスマートフォンなどを使用すれば、デバイスのカメラ映像に3Dのエフェクトを重ねられるARモードも搭載しており、各種動画サイトなどに投稿する作品作りがSEQTRAK上で完結できる点は、本製品の注目したいポイントでしょう。
文：内藤 朗（有限会社FOMIS）