ロック・サウンドの中で活用できるシンセサイザー ~ EXPRESSIVE E Osmose

バンド・アンサンブルでプレイヤーの個性を
表現できる新感覚シンセサイザー

まず弾いてみた正直な感想としては、このキーボード無茶苦茶面白い！そしていつまでも弾いていたくなります。Osmoseでひときわ存在感を放つ49鍵の鍵盤は、ベロシティ、アフタータッチはもちろん左右に動かすことも可能で、これによって音程のベンドができます。左右に動く機構が備わっているためか、鍵盤の感触はちょっと“ふにゃっ”とした独特な感触ですが、決して弾きにくいわけではないのがうまく作っていますね。打鍵した複数のノートの特定の鍵盤にだけピッチベンドをかけたり、左右に揺らしてビブラート的な表現をしたり……と、アフタータッチもピッチベンドも各鍵盤完全独立でコントロールできます。

近年、MIDIにもMPEという複数のノートを個別にコントロールできる規格が定められるなど、電子楽器をより有機的に、より表現力を高めた形でコントロールしようという動きはあり、実際ソフト音源側では対応も進んできています。ただ、それを活かせるような演奏者のさまざまな挙動を感知するセンサーを備えたキーボードは少なく、まだまだ一般的とは言いにくいのが残念なところ。Osmoseが面白いのは、多くのセンサーを備えた鍵盤とそれに完全対応した音源がスタンドアローンの1台のシンセとしてまとまっているところ。そのままライブに持ち出して使える数少ない新世代シンセとして、貴重な存在だと思います。

その新世代ぶりは音源部にも顕著で、ハケン・オーディオEaganMatrixというDSPシンセを搭載しており、FMのようでもあり？バーチャル・アナログ（VA）のようでもあり？モデリングのようでも？……と、ひと言では簡単にくくれない音がします。というのも、プリセットを呼び出してモデリング音源っぽいな……と感じた音色もアフタータッチでモジュレーションをかけていくとヘビーにFMをかけたようなノイズ成分多めの音に変化していったり、弱いタッチで弾くとVA音源のような太い低音が出てきたり……と音色の変化幅がとても広いのです。考えてみれば、FMもVAもモデリングもDSPの演算で波形を生成するという意味では似たグループ。このシームレスかつ大胆な音色の変貌ぶりが自由度の高い鍵盤のコントロールとリンクすることで、唯一無二の演奏感を生み出しています。EaganMatrixのWebサイトには、ミリ秒ごとにセンサーのデータを読んで演奏者の指の動きをとらえ、音色合成パラメーターを変更しているとの記述もあり、演奏者と楽器の有機的なつながりに大きな自信を持っていることがうかがえます。

そしてこの有機的な音色変化は、バンド・アンサンブルの中での存在感を高めるのにもとても効果的でしょう。音響的によく言われるのが“部屋に入って最初は気になった空調の音がそのうち気にならなくなる”という話で、人間の耳（脳）は変化のないものは無視していく傾向があります。だからこそシンセの音作りでは時間的な音色変化がとても大きな意味を持つのですが、Osmoseでは常に演奏者が変化をコントロールできます。バンドで使うなら、表情付けのしやすさからモノのリード系などは当然として、この機種ならではの“ ポリフォニックな動きの中でも繊細な表情付けができる”という特徴を活かしたいですね。アンビエントやサイケデリックな世界観を作るような音はお手のものだし、積極的に曲中での“歌と鍵盤”のようなセクションで使ってみるのも面白そう。もちろんピッチや音色が想定から外れすぎないように弾くための慣れはいるでしょう。設定でピッチが動かないようにすることもできますが、演奏者の力量でできる限り思いどおりのプレイを目指し、それでも時としてわずかにブレる……そんなところに演奏者の個性や強いライブ感が現れるのがこの楽器の魅力だと思います。ダイナミクスと音色変化の幅の大きい音色は歪み系との相性がいいので、ロック・バンドで使うなら、個人的にはアンプでの音出しや外部エフェクターなどにも凝ってみたいですね。このようにOsmoseは全く新しい演奏体験ができるキーボードなので、ぜひ試奏してその魅力を感じてみてください。

文：高橋利光