ロック・サウンドの中で活用できるシンセサイザー ~ MAKE NOISE Strega
ロック・サウンドに新たな質感と深みを加える
実験的シンセ・モジュール

ギターのフィードバックが唸り、ドラムが地を揺らすロックの世界において、シンセサイザーが果たす役割は年々進化している。その中で、メイク・ノイズ社とナイン・インチ・ネイルズのアレッサンドロ・コルティーニが共同開発したStrega(ストレガ)は、まさに“ オーディオ錬金術の実験装置” と呼ぶにふさわしい存在だ。本機はロックのラウドなサウンドに新たな質感と深みを加えるツールとして注目に値する。Stregaが生み出す音色は、一聴して何かが違うと感じさせる独特な魅力を持っており、従来のロック・サウンドに革新をもたらす可能性を秘めている。
Stregaはセミモジュラー構造を採用し、7つのモジュレーション・ソースと13のデスティネーションを持つ。特筆すべきは、11基の金属製タッチプレート“Touch Bridge” と“Touch Gateway” によるモジュレーション・ルーティングだ。これにより、リアルタイムでの音色変化が直感的に行える。また、外部入力を備えており、ギターやベースなどの外部音源を取り込み、Strega独自のフィルターやディレイで加工することが可能だ。エフェクトの効きも非常に個性的で、まるで音を彫刻するかのようなアプローチが可能になる。
さらにStregaのユーザー・インターフェースは、視覚的なデザインと直感性を兼ね備えている。特にタッチプレートのレイアウトは操作のしやすさと即興性を高めており、パネル上のシンボルやラインはシグナルの流れを視覚的に示唆してくれる。このシンプルで直感的なUI は、ライブ演奏時の迅速な操作にも大きな力を発揮するだろう。初心者にとっても探究心を刺激するインターフェースとなっており、使い込むほどに奥深さが見えてくる構造だ。
Stregaの真価は、ロックの生々しいサウンドに新たなテクスチャーを加える点にある。例えばギターのリフにStregaのディレイを重ねることで、空間的な広がりと幻想的な雰囲気を演出できる。また、ベース・ラインに微細なモジュレーションを加えることで、リズム・セクションに動的な変化をもたらす。さらにドラムのスネアやハイハットにStregaのフィルターを適用することで、従来のロック・サウンドにはない独特の質感を生み出すことが可能だ。また、Stregaは持続音や倍音豊かなノイズを活用した“ ドローン・マシーン” としても秀逸だ。静寂と轟音のコントラストが重要なポストロックやインダストリアル系では、その音響特性が楽曲に深みを加えてくれる。演奏中の雰囲気を劇的に変化させるツールとしても有効であり、ロックだけでなくアンビエントやエクスペリメンタルな音楽制作にも適している。
ライブ・パフォーマンスでは、Stregaの即興的な操作性が真価を発揮する。リアルタイムでの音色変化はもちろん、外部シーケンサーやモジュラー・シンセと組み合わせることで、表現の幅は飛躍的に広がる。こうした拡張性こそがStregaの醍醐味だ。特にユーロラックとの親和性が高く、既存のモジュラー・システムにスムーズに統合できる点は、多くの電子音楽制作者にとって大きな魅力となる。モジュラー環境での柔軟なパッチングによって、Stregaの潜在力は何倍にも引き出されるだろう。
Stregaは、ロックの轟音の中でも埋もれず、個性的な存在感を放つシンセサイザーである。ユーロラックとの高い親和性、直感的な操作系、そして多彩な音作りの柔軟性。これらを備えたStrega は、まさに現代の“ 音の実験室”と言える存在だ。既存のロック文脈に異物感なく溶け込みつつ、独自の声を持つこの機材は、ジャンルを横断する創造力を刺激してくれるだろう。ラウドなバンド・サウンドの中でも埋もれない個性と、音響芸術としての奥行きを両立する希有な存在である。
文:齋藤久師
製品情報
MAKE NOISE Strega
価格 ● オープン・プライス(市場予想価格:114,400円前後)
Specifications
●7つのソースと13のデスティネーションでパッチング可能●タッチブリッジとゲートウェイによる瞬間的なモジュレーション・ルーティング●ユーロラック・モジュラーシンセサイザーの信号と互換性あり●外部のサウンドと組み合わせたり、加工したりするための外部入力ジャック●パッチケーブル、出力ケーブル、ACアダプター付属●ヘッドフォン、ラインレベルのアンプ、ユーロラック出力●小型堅牢なスチール製エンクロージャー●0-Coast、0-CTRLと同じ筐体サイズ●外形寸法:228.6(W)×139.7(D)×37(H)mm(ゴム足、ノブを含む)●重量 :771g
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福産起業 TEL.03-3746-0864

