【製品レビュー】ARTURIA AstroLab
ソフトシンセのAnalogLabとの互換性を実現し
31種類の音源を瞬時に演奏できるステージ・キーボード
アートリアが満を持して登場させたステージ・キーボードAstroLab(アストロラボ)ですが、他社にはない特徴を備えた画期的なステージ・キーボードと言えます。
まず外観ですが、オフホワイトのパネルとサイドの薄茶の木目が浮き出たサイドウッド(木製に見えるが傷のつきにくい特殊素材とのこと)がオシャレさをうまく引き出していて、ライブ・ステージやスタジオで思わず使いたくなるデザインです。中央の丸いダイヤルは、当然ダイヤルとしての機能はありつつも、円内はカラー液晶になっており、さまざまな情報が表示されます。“Astro”とは、星とか天体とか宇宙をイメージする単語ですが、この丸い液晶が、宇宙船の丸い窓や宇宙服の丸いヘルメット部分を連想させています。その丸いダイヤルの周りにはボタンやノブが機能的に配置されており、電源を入れるとダイヤル、ボタン、ノブと61ある鍵盤の上のLEDなどがカラフルに点灯し、ステージ映えも派手で良いですね。
私はアートリアの設立当初より、多くのプロダクツにてプリセット制作やコンサルティングで開発段階からかかわってきましたが、このAstroLabも1年以上前から携わっていました。アートリアは25年ほど前からソフトウェア・シンセサイザーを中心にさまざまなプロダクツを世に出してきましたが、その過程で斬新なアイディアのハードウェア・シンセサイザーも世に出してきました。例えば、15年前の2009年にリリースしたOrigin(オリジン)は、当時のPC上で動いていたアートリアのソフトシンセの技術をハードウェアに詰め込んだモノでした。当然ソフトシンセを立ち上げるためのチップセット、OS、メモリーを作動させる心臓部のDSP(デジタル・シグナル・プロセッサー)が必要で、当時の最高峰のDSPであるタイガーシャークを2基積んでいました。それでも当時のモジュラー、Minimoog、CS-80、Jupiter-8、ドローバーオルガンをレイヤーやスプリットで同時演奏するには、画期的ではありましたが、あまりに反応が遅くて非力でした。
それからソフトシンセはさまざまな進化をし、CPUパワーも劇的な進化を遂げて現在に至るわけですが、そんな過程でアートリアのソフトシンセはVコレクションというラインナップが確立されました。現存するメーカーのさまざまな音源方式によるビンテージ・シンセから最新のシンセ、往年のキーボード達が再現されているのですが、それらがなんとAstro Labに搭載されています!!(スペック欄を参照)
Originの頃の状況を考えると夢のようですね! 15年のテクノロジーの進化に驚愕です! それを音源方式で見てみると、Virtual Analog、Samples、Wavetable、FM、Granular、Physical Modeling、Vector Synthesis、Harmonic、Phase Distortion、Vocoderと、10種類ものサウンド・エンジンとなります。これほど多彩な10種のサウンド・エンジンによる34ものソフトシンセを搭載したハードウェア・シンセはいまだかつて存在せず、まさにAstroLabが最初のプロダクツといっても過言ではありません。
さて、それぞれのシンセは独自の操作性とサウンド・キャラクターがあるわけで、それをまとめ上げるハードウェアとしての理想を満たすことを考えるとゾッとするレベルですが、そこをアートリアはうまく考えましたね。アートリアのVコレクションやKeyLabやAudioFuseなどのプロダクツに付属している“AnalogLab”というソフトシンセがありまして、これが、すべてのアートリアのソフトシンセを統合したソフトシンセで、しかも2種類のソフトシンセをレイヤー、スプリットして独立した4種類のエフェクターでプログラムできるのです。音色変化はBrightness(音色の明暗)、Timber(特徴的な音色変化)、Time(時間的変化)、Movement(周期的な変調)という4つに集約されています。
実は、アートリアのすべてのソフト・シンセには、マクロ・コントロールと言ってこの4つのパラメーターがあらかじめプログラムされているのです。素晴らしい先見の明ですな。このAnalog Labをそのままハードウェア・シンセにしてしまったら、最高に革新的で使いやすいキーボードになるのでは……?から開発がスタートしたのがAstroLabだったのです!
すなわち、ソフトシンセのAnalogLabとハード・シンセのAstroLabは完璧な互換性があり、PC上で作り込んだAnalogLabのプリセットは完全な状態でAnalogLabの画面上からAstroLabに転送でき、ソフトとハードのシームレスな連携が実現しています。さらにVコレクションをインストールしているPC上では、AnalogLab上で各ソフト・シンセを立ち上げてフルエディットができるのです。ソフトとハードがシームレスに連携されていれば、細かいエディットはPCの方が圧倒的に有利なので、これはすごいメリットとなります。
AstroLab上でのコンテンツで面白いのは、1,300ほどあるプリセット(私が制作したプリセットも40ほどあり)を、ピアノやベースなどの楽器種類別、搭載シンセサイザー別に検索できる点。それだけでなく、ビートルズ、ドアーズ、TOTO、ヴァンゲリス、マイケル・ジャクソン、ジャン・ミッシェル・ジャール、a-ha、デヴィッド・ボウイ、ティアーズ・フォー・フィアーズ、イエス、ポーティスヘッド、エイフェックス・ツインなどのアーティスト・トリビュートのプリセットも用意されています。私はTOTOとヴァンゲリスのプリセットを担当しましたが、あまりに忠実なその再現性にビックリすると思います。また、プレイリストも構築できて、曲ごとに使用する音色をパネル上に登録できる点もライブでの音色切り替えに便利です。
簡易的な録音再生ができるMIDIレコーダー、コードメモリーやアルペジエイターも完備していて、鍵盤はセミウェイテッドの軽めなタッチでとても弾きやすい。リアパネルには、ボコーダー機能用のマイク端子も搭載しています。特筆すべきはアウトプットの精度の高さです。出音の良さは、デジタル処理されている信号を最終的にアナログ出力する際のD Aコンバーターの品質によるのですが、このAstroLabにはHiFiオーディオ・レベルの超高品位なDAコンバーターが搭載されていて、出音の質感の素晴らしさには驚かされました。
さて、聞くところによると、AstroLabにはまだまだ内部メモリーには余裕があるようで、今後アートリアが発売するであろうさまざまなソフト・シンセもバージョンアップによって確実に追加されることでしょう。すでにAugmented YANGTZ、Acid V、Mini Brute Vなども発表されており、これらも将来的なバージョン・アップにて追加されていくのは間違いありません。もちろん、現在AnalogLabのさまざまなコンテンツはアートリアのWebページ上で有償でダウンロードでき、10,000を超える膨大な数の音色がスタンバイされている点も特筆すべき点です。まずはお近くの楽器店でAstoroLabの実機を試奏してみて、その考え抜かれた操作性と音色クオリティのすごさを体験してみてはいかがでしょう。(文:氏家克典)
製品情報
ARTURIA AstroLab
メーカー希望小売価格●349,800円(税込)
Specifications
●鍵盤:61鍵セミウェイテッド・キーボード(ピアノサイズ鍵盤、アフタータッチ対応)●サウンド・エンジン:10種類(バーチャル・アナログ、サンプル、ウェーブ・テーブル、FM、グラニュラー、フィジカル・モデリング、ベクター・シンセシス、ハーモニック、フェイズ・ディストーション、ボコーダー)●搭載ソフト・シンセ:ARP 2600 V、Augmented GRAND PIANO、Augmented STRINGS、Augmented VOICES、B-3 V、Buchla Easel V、Clavinet V、CMI V、CS-80 V、CZ V、DX7 V、Emulator II V、Farfisa V、Jun-6 V、Jup-8 V、KORG MS-20 V、Matrix-12 V、Mini V、Modular V、OP-Xa V、Piano V、Pigments、Prophet-5 V、Prophet-VS V、Sampler、SEM V、Solina V、SQ80 V、Stage-73 V、Synclavier V、Synthi V、Vocoder V、Vox Continental V、Wurli V(アルファベット順)●内蔵サウンド:1,300種類以上●インサート・エフェクト:12種類●入出力端子:MIDI IN/OUT、ステレオ出力、ペダル端子(サステイン、エクスプレッション、AUX 1&2)、USB-Cポート、USB-Aホスト端子、Bluetoothオーディオ入力、ワイヤレスコントロール用WiFi●外形寸法:935(W)×99(H)×330(D)mm●重量:9.9kg
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