ルックスもサウンドも魅力の現行シンセサイザー ~ SOMA laboratory TERRA
『FILTER Volume.08』掲載特集“シンセサイザーのデザイン”では、魅力的なルックスを持ち個性的なサウンドが出せるシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開!
感覚的な演奏を引き出してくれる
切り株のような筐体が特徴的なシンセ音源内蔵デバイス

木の切り株みたいな変なヤツがやってきた。SOMA laboratory(ソーマ・ラボラトリー)のTERRAである。Superboothの現地レポート動画を観ていると、冒頭部分によくCMで妖しいお姉さんがエスニックなフレーズを撫で回すように奏でていた、アレである。自分は当初、これは新しいタイプの演奏インターフェースとして開発されたもので、楽器として単体で完結していないタイプのデバイスだと思っていたのだが大間違いだった。TERRAはキチンと音源を内蔵しているシンセサイザーであるばかりか、まったく新しい1つの“楽器”として、とても不思議な魅力と完成度を持っていたのだ。
まず簡単に盤面の説明をしておくと、右手側にある12 個の金色のタッチ・スイッチ、これがキーボードに相当するトリガー・デバイスだ。12個のスケールは、平均律の12半音はもちろん、さまざまなスケール、果ては各音を半音の125分の1単位までマイクロ・チューニングできるというシロモノだ。ベロシティ、プレッシャー対応だが、触っても弾力は一切なく、押すことで凹んだり引っ込んだりというものではない。
左手側にある同じような4つの金色のタッチ・スイッチはアサイナブルなモジュレーション用のもので、こちらもプレッシャー対応。その下にある小さな4つの銀色のタッチ・スイッチは、組み合わせによって±3オクターブの上下から、4度、5度、3度など16種類のトランスポーズをコントロールする。その上下に付いている発光する小さなセンサーは、発音と音色のホールドをするスイッチだ。
上に並んだ黒いツマミは左から4つがエンベロープのコントロール、ボリューム、そして右端2つがエフェクト(ディレイとリバーブの切替え)。そして、真ん中に配置されたピラミッド状の6つの発光するLEDスイッチとその周りの4つの小さなタッチ・スイッチで、96あるプリセットの呼び出し、シンセサイザーの発音アルゴリズムの選択、そしてスイッチ自体が6セグメントの表示ディスプレイとして機能するようになっている。また、本体には3軸のモーション・センサーが仕込まれており、本体の動きによるモジュレーション・コントロールなどもできる(置いて弾くのがメインだとは思うが)。
シンセサイザーとしての発音のエンジンに関して詳しいアナウンスはされていないが、32種類のアルゴリズムを持ち、聴いてみたところFM、物理モデリング、バーチャル・アナログが3つの柱という印象である。ポリフォニック数はアルゴリズムによるが、最大で12音。左手側のモジュレーション・コントローラーがそれぞれプログラムによって適切なパラメーターにアサインされており、プレッシャーの強さによってかなり効果的に変調されるので、右手側のキーのスケールの設定とともにこの辺りが演奏のキモになる感じだ。鍵盤を押し込むストロークのようなものがなく、すべてタッチの微妙なニュアンスが音に出てくるので、しばらく触っていると逆にものすごくアコースティックな楽器を鳴らしているような錯覚に陥ってくる。これこそがTERRAの持ち味で、後述する“視覚に頼らない”面と合わせ、この楽器独自の魅力になっていると感じた。
TERRAには液晶のディスプレイがない。盤面には先述のピラミッド型に配置された6つのLEDスイッチ、電源のパイロット・ランプ、2つのホールドを表すLEDスイッチ、エフェクトの切替を表すLEDスイッチがあるだけだ。しかも各スイッチやツマミには、ほんの申し訳程度に焼き印で押したような小さな見にくい表示が付いているだけ。
“見て演奏するんじゃねえよ! ブラインドでできるように習熟しろ!”と言われているも同然である。 しかし! その方が断然没頭できるのだ! アコーディオンやギターなどでもそうだが、本来楽器というものは操作する部分をずっと見ながらやるも
のではないのだ、ということを思い出させてくれる。脳味噌が、視覚に頼らず出てきた音と直結する、あるいはさせようとする感覚こそが“演奏”の醍醐味なのだ、と改めて教えてくれる感覚が、この楽器にはある。
思えばDAWで音楽を作るのが当たり前になって以来、我々は“音だけ、耳だけ”で音楽を作り、演奏していた頃の大事な何かを忘れていないだろうか? TERRAをいじっているうちにそんなことまで頭をよぎったりした。
最後に、TERRAはロシア製の楽器である。今後安定して入荷することが難しくなる可能性は十分に考えられる。興味のある方はぜひ、実際に触ってみることをお勧めする。
文:飯野竜彦
製品情報
SOMA laboratory TERRA
価格 ● オープン・プライス(市場予想価格:296,900円前後)
Specifications
●シンセシス・アルゴリズム:32●同時発音数:1-12ボイス(アルゴリズムにより異なる)●プリセット:96●ピッチ・シフター・プリセット:24●ライン出力端子:L、RTS/TRS1/4インチジャック/6.35 mmジャック●最大ライン信号出力:13Vpp●公称ライン信号出力:~1.5 V (ボリューム100%時)●ヘッドホン出力端子:TRS 1/4インチジャック/6.35 mmジャック●ヘッドホン・インピーダンス:6-64Ω●CVクロック入力電圧:3-15V●電源電圧:DC12V●消費電流:0.2A●DCジャック端子:5.5x2.1 mm センタープラス●405(W)×365(D)×57(H)mm●重量:2.2Kg
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