【製品レビュー】MELBOURNE INSTRUMENTS DELIA
画期的なモーター駆動式ツマミを搭載した
6ボイス・バーチャル・アナログ・シンセサイザー

2022年にモーター駆動式のツマミを32個も搭載したNINAの発表がかなりの衝撃だったメルボルン・インストゥルメンツ。このDELIAは単にその鍵盤付きモデルというわけではなく、さまざまな特徴を受け継ぎながらも非常にバランスの良い仕様になっているので詳しく見ていこう。
90年代中盤、シンセサイザーの世界に再びツマミ・ブームが起こり始めた頃は、プリセット選択時に物理ツマミの位置と実際のパラメーター値が異なるという当然の現象をカバーする方法についてさまざまに模索されてきたように想像できるが、2001年に登場したノードNord Lead3は無限に回転するツマミ(エンコーダー)の外周にLEDを搭載することで、物理的なツマミ位置とは無関係にパラメーター値を表示でき、画期的な1つの正解を見せてくれた。それでも当時ムービング・フェーダーを搭載したデジタル・ミキサーが流行していたこともあり、シンセのツマミにもと考えた人も多いのではないだろうか。このDELIAとNINAはまさにそれが数十年越しに実現したシンセサイザーと言えよう。
早速プリセットをいくつか鳴らしてみると、独特の心地良さとともにクッキリとしたどこか立体的な音像を感じた。NINAが12ボイスの純粋なアナログ・シンセサイザーであったのに対して、DELIAはNINAの回路をモデリングした6ボイスのバーチャル・アナログ・シンセサイザーがメインになっている。他にもOSC3にはウェーブテーブル、OSC4にはノイズやOSC1と2を使用したXOR、外部入力も使用可能なほか、LOOPというモードがあり、これはOSC4内でアナログ的にフィードバックを起こしているようで、SE用途などでとんでもなく太い音が得られるなど、オシレーターだけ見ても非常に幅広い音作りが可能なことがわかる。フィルターなどを含むトータルでは6ボイス仕様だが、オシレーターには12ボイスで発音するモードも用意されており、それを2ティンバーでスプリットやレイヤーして鳴らすことができる。

OSC4はノイズやOSC1/2を使用したXOR、外部入力が使用可能なほか、LOOPモードを装備。
操作面についても、シンセをある程度理解していればマニュアルなしでも20分も触ればほぼすべての操作が可能なほど、メニュー階層などもほとんど存在しない。パネル下にずらっと並んだキーの上段、左端の4つはアルペジエーターとシーケンサー関連だが、それ以外のほとんどは押すと各パラメーターの詳細画面に入り、右端のGLIDEとTEMPOは押すと両用のツマミがダイレクトに切り替わる。下段はMODボタンを押すと機能するが、各ボタンがLFOやEG、OSCなどモジュレーション・ソースの選択になっていて、押すとすでにデスティネーションが設定されている場合はツマミが瞬時に動いて示してくれるし、そこで任意のツマミを回せばそのままモジュレーションがアサインされるという分かりやすさ。
モーター駆動ツマミのインパクトはすごいが、それらは自動で回転するだけではなく、場面によって無段階の360度回転からクリック付きに変化し、さらにフィルターのカットオフなどでは当然のように300度ほどで両端が行き止まる。TUNEなどプラス/マイナスのあるパラメーターではしっかりとしたセンター・クリックが出現するほか、時にはMinimoogのRANGE切り替えのように数段階カクカクとしっかり手応えのあるスイッチにも変化する。常々シンセの演奏中にツマミを凝視する必要がないことが重要だと感じているので、この手応えを変化させてくるという振る舞いにはかなり感動した。モーターで動くツマミというと、どうしてもベルト・ドライブやギアをたくさん使ってエンコーダーを強引に回すような、いかにも故障しやすそうな構造を思い浮かべてしまうのだが、これはドローンなどで進化したブラシレス・モーターと非接触型の光学センサーを組み合わせ開発されたツマミだそうで、設計上は従来のアナログ・ボリュームより遥かに耐久性に優れているのだとか。ちなみにツマミ自体の解像度も非常に高いため、音の変化も実に滑らかだ。

さらにフィルターのカットオフでは300度ほどで両端が行き止まる仕様となっている。
そんなツマミの利点をさらに実感するのがMORPHで、パラメーター間をモーフィングできるシンセはこれまでにも数々存在したが、それがここまでわかりやすく楽しいのも初めてだ。A側、B側でそれぞれウェーブテーブルやMODの状態まで含め、まったく異なる音作りをした時にモーフィング・ツマミ1つでパネル上のあらゆるツマミがさまざまな方向に回る様子を想像してみてほしい。専用ボタンが押された状態でB側の音作り、消灯状態でA側の音作りをするだけでこれが実現し、演奏中にパラメーターを修正してもそのまま反映される。
DELIAには純粋なアナログの12dB、24dB切り替え式ローパス・フィルターとデジタルのハイパス・フィルターが搭載されており、レゾナンスのツマミは1つだが双方に用意されており、個別に調整が可能。それぞれのカットオフを任意の位置にし、LINKボタンを押すとその位置から両方を同時に動かすこともでき、フィルター前段にはドライブ回路も搭載している。
さらに細かくパラメーターを見ていると、SPINという見慣れないものを発見。動かしてみると音がぐるぐると回る。これはステレオ4クアドラントVCAによるもので、位相をコントロールすることで疑似サラウンド的な効果が得られるという。最初にプリセット音を出した時に感じた独特の立体感は、これを極端な回転ではなくうっすらと効果的に使用したものだったようだ。さらにPANNERというMODソースも備えているので、4つのオシレーター(×2ティンバー)をステレオ間にさまざまに配置することなどもできる。
制作ではソフト・シンセの方が便利に感じてしまうことの多い現代のバーチャル・アナログ・シンセで、ここまでハードウェアの強さを存分に見せつけてくれたDELIA。ハード・シンセにはまだまだ進化の可能性があるようだ。(文:Yasushi.K)

製品情報
MELBOURNE INSTRUMENTS DELIA
価格●オープン・プライス(市場予想価格:428,800円/税込)
Specifications
●ボイス:6●鍵盤:49鍵(ベロシティ&タッチ・センシティブ・キーボード)●オシレーター:4基(OSC1/2:ノコギリ波、パルス波、三角波、矩形波、OSC3:ウェーブテーブル、OSC4:ホワイト/ピンク・ノイズ、XOR、外部入力)●フィルター:ローパス、ハイパス(リンク可能)●エンベロープ・ジェネレーター:3基(ADSR)●LFO:3基●内蔵エフェクト:コーラス、ディレイ、リバーブ2系統●外形寸法:810(W)×140(H)×320(D)mm●重量:8.7kg
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