【製品レビュー】ARTURIA AstroLab 88

Analog Lab Proと同等の環境をハードウェアで実現した
操作性の良さと音の幅広さが魅力の88鍵モデル

アートリアAstroLabに、従来の61鍵モデルに合わせて88鍵モデルのAstroLab 88が加わった。ファタール社製のハンマー・アクション鍵盤は、ピアノの音色はもちろんだが、オルガンやシンセサイザーなどさまざまな音色との相性も良く、またアフタータッチを使った表現もストレスなく行える。あらゆるシーンでメインとなるポテンシャルを持つキーボードだ。

まずは、アートリアとAstroLabについて簡単に振り返っておこう。アートリアは、2000年代初頭、アナログ・シンセサイザーの高度なエミュレーション製品、Vシリーズで世界的に知られる存在となった。Modular V、Mini V、ARP 2600 V、CS-80 V、Prophet-5 V、Jup-8 Vなどのアナログの名機を次々にソフトウェア化し、さらにはCMI V、Synclavier V、DX7 Vなどのデジタル・シンセサイザー、B-3 V、Mellotron V、Wurli V、Piano Vといったオルガンやピアノなどのキーボードをモデリングした製品も発売。近年はブラスやストリングスなどのサンプル・ベースの音源にも熱心で、幅広いジャンルと音色を網羅した製品を有している。さらにアートリアは、これらの豊富な音源とプリセットを収録したソフトウェア音源Analog Lab(現在はAnalog Lab Pro)を発売。Vシリーズのように一から音を作ることはできないが、シンプルな操作で数々の音源のサウンドを呼び出せ、マクロ・エディットによりスピーディーな音色の調節が行える。

さて、このAstroLabだが、簡単に言うとパソコンなしでAnalog Lab Proと同等の環境を実現するキーボードだと言える。この1台で、Vシリーズをはじめとするアートリアの膨大な音源とプリセットを備え、それらを簡単に呼び出し素早く音色を調節し、エフェクトをかけて演奏できるわけだ。

AstroLabの操作は驚くほど簡単だ。電源を入れれば20秒ほどで立ち上がり、演奏可能な状態になる。ちなみに、電源スイッチは1秒押しでシャットダウン、長押しで強制終了だ。パネル面には、Piano、E.Piano、Organ、Bass、Stringsなどベーシックな音色のボタンがあり、押すだけでそれらのサウンドを演奏できる。どれも説得力十分で、もうこの段階でベーシックなキーボード、ステージ・キーボードとして“ 使える”1台だとわかる。演奏中に鍵盤を押さえたまま別の音色ボタンを押すと、次の鍵盤を弾いた時点で音色が切り替わるのも気が利いている。

パネル中央には円形のディスプレイ兼コントローラーのナビゲーション・ホイールがあり、高精細のカラー液晶に音色名とアイコンなどの情報が表示されている。さらに外枠を回すと、現在選んでいる音色のバリエーションに切り替えられる。例えば、ピアノであれば最初に選ばれたAmerican GrandからHamamatsu Grandに変更できたり、エレピであればローズ系からウーリッツァー系やFM系にといった具合。リードやパッドなどのシンセサイザー系では、モデルになったビンテージ機種のアイコンが表示されるのも楽しい。これらの音色は、モデリング、バーチャル・アナログ、サンプリングなどさまざまな方法で生成されているので、質感の多様さとサウンドのきめ細かさがいい。

音色のエディットも4つのマクロ・ノブで簡単に行える。これらには、Brightness、Timbre、Time、Movementが割り当てられているが、実際には音色ごとに最適なパラメーターが選ばれ調節している。例えばピアノだと、弦やハンマーの性質によるサウンドの明るさ、複弦のデチューンの度合い、強弱変化の幅、左右の広がり、オルガンだと、ドローバーの構成、アンプの歪み、パーカッシブのディケイ、回転スピーカーの速度が変化する。シンセサイザー系であれば、フィルターのカットオフやエンベロープの設定などが複合的に変化する。パラメーターが巧みに選ばれているので、必要なエディットはこれだけでほとんどできてしまうだろう。なにせ1,600以上ものプリセットがあるのだから、気に入った音色を選んでマクロ・ツマミで楽曲にフィットさせるといった形でどんどん使っていけばいい。

その音色の選択だが、これもナビゲーション・ホイールでさらに細かく検索できる。ナビゲーション・ホイールはクリックするように押すこともでき、回したり押したり、まるでマウスのように操作できるのだ。

▲パネル中央の円形のナビゲーション・ホイールには、音色名とアイコンなどの情報が表示されている。
音色の選択をすることが可能で、回したり押したりと、まるでマウスのように操作できるのだ。

音色の選択方法はType(PianoやBassなど13種類)、Instruments(B-3やDX7などモデリングのタイプ)のほか、Artistからも選べる。Beatles、ELP、Eno、Queen、Radioheadなど、数多くのアーティスト名が並んでいて楽しい。もちろんお気に入りの音色を登録したり、プレイリストを作って並べることも可能だ。さらにプリセットはアートリアのサイトから追加購入できるし、ユーザーバンクを作成することもできる。こういった音色(インストゥルメント)は、レイヤーやスプリットで2つまで同時に使用できる。さらに、それらに対して最大4基のエフェクトもかけられる。うち2基はワウやディストーションなどさまざまに設定できるマルチ・エフェクトで、別の2基は2つの音色で共有できるディレイとリバーブだ。これらも専用のスイッチで簡単にオン/オフ可能な上、それぞれにどれくらいかけるかを専用ツマミで即座に調節できる。

ここまで見てきたように、本機の特徴は何と言ってもその操作性の良さと出音の幅広さだろう。ベーシックなキーボードやビンテージ・シンセサイザーからアコースティック楽器まで、素早い操作で目的とするサウンドに到達でき、気持ちの良いタッチで演奏できる。ステージ・キーボードとしての使用でも、十分にその実力を発揮するだろう。なお、電源はアダプター方式だが、本体との接続部分はネジ式で、簡単には外れないようになっているのも嬉しい。

一方、Wi-FiやBluetoothなど外部機器との連携機能も備える本機は、スタジオにおいても中核となり得るだろう。同社のソフトウェア音源Analog Lab Pro(付属している)やVシリーズと連携し、ゼロレイテンシー・レコーディングも可能だし、専用アプリのAstroLab Connectを使えば膨大なプリセットの管理や追加も簡単だ。

AstroLab 88は、88鍵盤を得たことでさらに強力な万能キーボードとなった。すでにアートリア製品を愛用している人はもちろん、あらゆるキーボーディスト、クリエイターにお勧めできる1台と言える。

文:高山博

製品情報

ARTURIA AstroLab 88

メーカー希望小売価格●495,000円(税込)

Specifications

●鍵盤:Fatar TP-40製 88鍵ハンマーアクション鍵盤(アフタータッチ対応)●サウンド・エンジン:11種類(バーチャル・アナログ、サンプル、ウェーブテーブル、FM、グラニュラー、フィジカル・モデリング、ベクター・シンセシス、ハーモニック、フェイズ・ディストーション、ボコーダー、カープラス・ストロング)●内蔵サウンド:1,600種類以上●インサート・エフェクト:17種類●入出力端子:MIDI IN/OUT、ステレオ出力、ペダル端子(サステイン、エクスプレッション、AUX 1&2)、USB-Cポート、USB-Aホスト端子、Bluetoothオーディオ入力、ワイヤレスコントロール用WiFi●バンドルソフト:AstroLabConnect(iOS / Android)、AnalogLab Pro●外形寸法:1,316(W)×352(H)×127(D)mm●重量:22.2kg

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