【製品レビュー】MELLOTRON Micro Module
M4000Dの音色を受け継ぎ操作性も抜群
超コンパクトなモジュール・タイプの最新メロトロン

メロトロンはアナログ・テープに録音した楽器音や演奏を鍵盤で再生するというサンプラーの元祖として英国で製造され、従来のシンセサイザーでは合成できない生演奏の音色を再生できるだけでなく、“セピア色の音色”と呼ぶべきワウ・フラッターによる独特のしわがれた音質が唯一無二のものであった。1963年に製品化されて以来、数々のヒット曲で存在感を発揮してきたが、その筆頭はビートルズの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」のイントロ(フルート)や後半のトランペット、ヘンリー・マンシーニがカバーした「雨にぬれても」のメロディ(オカリナ)、キング・クリムゾンの「クリムゾン・キングの宮殿」での壮大なストリングス・サウンドなどなど。
メロトロンの実機は、長いテープを鍵盤の数だけ備えているので、足踏みオルガンのようなサイズが必要であったが、90年代半ばにサンプラー向けCD-ROMでそのサウンドが供給され、筆者もアカイやイーミューのサンプラーにロードして大いに活用してきた。近年のサンプラーほどリアルではないにもかかわらず、むしろ生々しさを発揮する音色に十分魅力はあったが、本家のような操作性が得られたわけではなかった。
2011年にデジタル・メロトロンとしてM4000Dが発売されて以来、同M4000D Mini、M4000D Rack、Microと、入手しやすいサイズのメロトロンとして復刻された。やはり本家英国から受け継がれた正規ブランド(スウェーデン)による専用機という魅力は大きい。本製品は、Microから鍵盤部分を省いたモジュールの、デジタル・ラインナップ最新版として発売される。サイズ感は分かっていたものの、実際に製品を手にしてみると、ギター用エフェクターのようなコンパクトさに驚く。シグネチャー・カラーである白いケースにアルミのパネル、視認性の高い2系統のTFTカラー液晶に表示されるサンプリング元となった機種のグラフィック表示にワクワクさせられる。
コントロール・パネル部分は、実機の時代から一貫したVOLUME、TONE、PITCH、A/B(トラック、かつてはABC)切り替えが配置され、デジタル・シリーズからはトラックA/B の音色セレクト・エンコーダーが2つと、オクターブ切り替えスイッチ(LOW /HIGH)が追加されている。音域はF1からF4までの3オクターブに限定されており、LOW/HIGHを切り替えても発音するレンジは変わらず、LOW にすると音質が1オクターブ分きちんと劣化する。LOW/HIGH切り替えは一般的なシンセのトランスポーズと異なり、音を伸ばしている間も機能するので独特な活用ができる。逆に鍵盤を押している時にエンコーダーで音色を切り替えても即座には変わらず、次に打鍵した時に変わる仕様もありがたい。右向き矢印のPITCHツマミは10cent 刻みで700centずつ、つまり完全5度ずつ上下させられる。ピッチベンド同様の機能ではあるが、形状が異なるため演奏のニュアンスは変わってくるだろう。また、右向き矢印のMIXツマミではA/Bトラックのブレンド具合をDJミキサーのようにフェードできる。
収録機種と収録音色数は、Mellotron Mk I:15音色、Mellotron Mk II:18音色、Mellotron M300:6音色、Mellotron M400:26音色、Chamberlin Music Master:18音色、Chamberlin M1:17音色の計100音色、AとBそれぞれに同じ順序で収録されている。ただ、M4000Dシリーズのような音源拡張スロットはないため、数あるレトロなリズム・ループ・サウンドを鳴らすことはできない。この点は残念だが、通常の演奏楽器を網羅しているだけでも本機の価値は十分であろう。

計100音色が、A/Bトラックそれぞれに同じ順序で収録されている。
以上は特に説明がいらないほど機能が明確であるが、マニュアルを読んで学ぶべきは、以下の音色管理に関する部分である。トラックA/B にそれぞれ任意のサウンドをアサインして演奏するわけだが、電源を入れた状態ではアサインされているサウンド情報が表示されたマニュアル・モードとなっている。右側のエンコーダーSELECT Bをプッシュすることで、ライブラリー内のサウンドがリスト表示されるリスト・モードに切り替わる。デフォルトでは、サウンドは収録元となった機種の時系列順に表示されているが(Index by Machine)、左側のSELECT Aを長押しするとアルファベット順(Index by Name)、さらに長押しすると楽器のカテゴリー順(Index by Category)へと表示が変わる。この3つの表示順は、マニュアル・モード、リスト・モードいずれの状態でも切り替えることができる。
次に必要となるのは、マスター・キーボードからプログラムを切り替える際に、サウンドを並べ替えたりA/Bの組み合わせを保存して管理すること。いわゆる“ プログラム” に当たるのがプレイリスト・モードというモードである。SELECT Bを押すたびに、MANUAL MODE→ LIST VIEW→ PLAYLISTMODEを切り替えることができる。プレイリスト・モードでは、A/Bトラックの組み合わせをプログラミングでき、この組み合わせをエントリーと呼ぶ。1つのプレイリストにつきエントリーは32個、プレイリストは16個保存できる。つまり16バンク×32プログラムの概念である。試しにマスター・キーボードとMIDI接続し、プログラム(パッチ)を切り替えた場合、BANK-0のPRG-00はPlaylist-1のEntry-1に対応し、順番にEntry-32(PRG-31)まで、BANK-1からはPlaylist-2となり、同様にEntry-1から32までが対応する。プレイリストとエントリーのエディット・モードに入るには、エンコーダーをA(をやや早めに)とBを同時に押す。すると項目一覧が表示されるので、SELECT Aで項目を選び、Bで実行に移る。まずは最上部のLIST VIEW EDITでA/Bのトラックを選択し、求める組み合わせを保存するか、2項目でマニュアル・モードからコピーする。さらにエディットするためにエントリーのコピー/入れ替え、プレイリストのコピー/入れ替え、名前の付け替えなどが用意されている。
グローバルにあたるコンフィグ・メニュー(マニュアルまたはリストモードからAB 両押しで入る)では、アタック/リリース、各種MIDI 設定、出力ゲイン設定、機種によるサウンド・キャラクター選択、テープ再生速度、ディスプレイ設定などを調整できる。詳細は省くが、すべてにおいて2つあるディスプレイの右側に英語で説明が出るのでわかりやすい。
後半はマニュアル的な説明になってしまったが、プレイリスト/エントリーへのプログラミングに時間を割くことを除けば感覚的に扱えるため、入手したその日から即戦力となるであろう。限られた音色を選ぶのみといった制約ゆえに、むしろ音楽に没頭できる。メロトロンの音色が手元になく、鍵盤を増やしたくない方はベストチョイス。これガチで欲しい。
文:坪口昌恭(Ortance、Tokyo Zawinul Bach)

製品情報
MELLOTRON Micro Module
価格●オープン・プライス(市場予想価格:98,800円前後/税込)
Specifications
●収録音色数:100音色●オーディオ出力:6.3mm標準ジャック・アンバランス・ライン・アウトプット(MASTER)、Phone アウトプット●MIDIコネクター:IN、THRU(TRS Type-B)●その他のコネクター:サステイン・ペダル●外形寸法:133(W)×
64(H)×187(D)mm ●重量:683g
お問い合わせ
福産起業 TEL.03-3746-0864

