【製品レビュー】KORG PS-3300

わずか50台ほどしか製造されなかった伝説のアナログ・シンセが再構築/アップデートされて現代に復活

その昔。筆者が高校1年生だった頃。新宿の明治通りと職安通りの交差点に、当時の京王技研の小さな小さなショールームがあった。小さなスタジオを併設していたそのショールームは、本当に知っている人だけが足を踏み入れる、そんな感じのスペースだった。そういう地味な感じのショールーム奥に、光り輝くように鎮座していたのが、今回ご紹介するコルグPS-3300のオリジナル機だったのだ。

1977〜78年に発表、発売されたPS-3100/PS-3200/PS-3300シリーズは、なんと48鍵全音ポリフォニック!(電子オルガンのような分周発振式ではなく、正真正銘モノフォニック・シンセ48台分の回路を備える)という画期的なモンスター・シンセサイザーで、その圧倒的な存在感で世界中の奏者の度肝を抜いたのだ。ちなみにPS-3100が基本のセットを備える筐体+ 鍵盤一体型、3200は大型の筐体に3100+メモリー機構を備え、鍵盤別体となっていた。そして頂点に君臨する3300は、なんと3100の回路をそのまま3台分装備するという別格中の別格で、かのショールームでも3100は比較的自由に触らせてもらえたけれども、3300には遂に一度も触ることすらできなかったのだった。一説によると、50台ほどしか生産されなかったのだという。

そして50年近い月日が経ち……なんとコルグはPS-3300の復刻をアナウンス。そこからさらに約1年の時間が経過して、今回本社ショールームにお邪魔して、発売するモデルの試奏をさせていただくという幸運に恵まれた。

今回復刻されたPS-3300、イメージはオリジナルどおりなのだが、中身は大幅にアップデートされている。まず、あの巨大だった筐体はだいぶスリム化され、本体の重量はオリジナルの50kgから約22kg へと軽量化。これは中の基盤の小型化によって、縦に配列していたものを横にレイアウトし直すことによって可能になったそうだ。オリジナル機は本体と鍵盤ユニットはまるでSCSIのような60ピンの巨大なコネクターでつながっていたが、今回は5ピンのDINケーブル1本。そして内容として1番大きいのは、メモリーが装備されたことと、MIDI の実装だろう。特にメモリーは16プログラム×16バンクという十分なサイズを持ち、かなり実用的になったと言えるのではないだろうか。ただしもちろん数多くのパッチ・ポイントがあるので、その辺りは完全なトータル・リコールが可能というわけではない。

ユニット1つを簡単に解説しておこう。復刻モデルは1ボイス(鍵盤も)増えて、1つのユニット当たり49音ポリ。VCO(コルグではSG“ シグナル・ジェネレータ”と表記。以下同じ)×1、LPF×1、LFO(MG“モジュレーション・ジェネレーター”と表記)×2、エンベロープ×1、とここまでは割とシンプルだが、さらにレゾネーターというセクションがあって、これが強力に面白い。変調できる3つのバンドパス・フィルターで、それぞれの周波数をいじっているとまるで声のフォルマントをコントロールしているような音色変化が得られる。ユニット1番下には、やはりこのシリーズの1つの売りであった半音スケールごとのマイクロ・チューニング・ノブがズラッと12個並んでいる。そして、3つのユニットとは独立したサンプル&ホールド、ボルテージ・プロセッサーなどのパッチングして使うモジュール、まとめとして楽器全体のエンベロープ、3つのユニットのミキサーやメモリー・セクションなどが右手側に配置されている。

▲オリジナルのイメージを踏襲しつつ、筐体がスリム化。本体の重量は約22kgへと軽量化された。
また、復刻モデルでは1ボイス増え、1つのユニット当たり49音ポリとなっている。

さて、一体このシンセどんな音がするんだろう?という気持ちは、高校1年の自分と全く変わらないまま向き合ったのだが、その“ 大きく重たく重厚で、この上なく壮大な豊潤な音がするんだろうな……”という勝手な先入観は、良い意味であっという間に裏切られた。そう、コレは実は巨大なモジュラー・シンセなのだ。もともと見た目がそれっぽいのだから最初からそう解釈しろ、とも思うのだが、自分にとっては全鍵ポリフォニック!という当時の圧倒的なイメージが先行してしまい、“3100であれだけすごかったんだから、3台分あったらめっちゃ重厚なんだろな? いや、そもそもそんな49音ポリを3台分重ねてどうするの?” 的な浅はかな疑問……。それは、当日付きっきりでレクチャーしてくださったコルグの今泉泰樹氏がいくつかのパッチ・ケーブルを結線した途端に氷解した。

つまり、どのユニットのどのソースからも何段階にもわたって変調がかけられるし、その上で発音数に制限がなく、入れ替わり立ち替わりいろいろな音が現れるような、そしてその音が互いに互いを変調するような、そんなパッチングが可能な恐ろしいシンセサイザーだったのだ。FMシンセに詳しい方ならわかるかもしれないが、自分の頭の中は“オペレーター3台横並び” 的なアルゴリズムに支配されていたのに、ユニット間のパッチによってあっという間に“ 縦に並んだ変調の変調” の世界が広がってビックリ、というわけである。エフェクターこそ内蔵していないが、その音色同士がダイナミックに動いて“ 空間” や“ 時間”を感じさせる様はなかなか他のシンセでは味わえない、伝説のシンセサイザーの名にふさわしい、とても贅沢なものだった。

この日、試奏している様子を本誌編集長Y氏が撮影してくれたのだが、そこには約50年前と同じようにノブをいじり回し、あーでもないこーでもないと夢中になっている自分の姿が写っていた。長い時間を越えて夢が叶ったような、いや、まだ夢の中のような素敵な時間だった。復刻、ありがとうございました。手に入れた方、しまい込まないでガンガン弾いて!

文:飯野竜彦

製品情報

KORG PS-3300

メーカー希望小売価格●1,980,000円(税込)

Specifications

●鍵盤:49鍵(標準鍵盤、ベロシティ非対応、アフタータッチ対応)●最大同時発音数:49ボイス●音域:7オクターブ●プログラム数:256●入出力端子:SIGNAL IN/OUT、ヘッドホン、MIDI、USB ●電源:AC アダプター●外形寸法:1000(W)×454(H)×245(D)mm ●重量:21.3kg

お問い合わせ

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