【製品レビュー】KORG NAUTILUS

KRONOS直系のサウンド・エンジンを搭載し
ハイセンスな音色と洗練された操作性を備えた
次世代のミュージック・ワークステーション

新規プログラムと優れたエフェクトによる唯一無二の音楽表現

2011年の発売から10年もの間、世界中のキーボーディストに愛され続け、数え切れないほどのライブやレコーディングに影響を与えてきたコルグのミュージック・ワークステーションKRONOS。それに続く次世代機として満を持して発売されたのが、今回紹介するNAUTILUSである。KRONOS直系でありながら、新たに拡充されたハイセンスな音色、より洗練された操作系統などをはじめ、さまざまな点でユーザーの要望に応え、ブラッシュアップされた本機の魅力を余すことなく伝えていこう。

まず“ノーチラス”という名称から連想されるのは、ジュール・ヴェルヌ作のSF小説『海底二万里』に出てくる潜水艦ノーチラス号だが、本機の61鍵/73鍵モデルには、まさに潜水艦のごとく底面に丸みを帯びた金属パネルを使用。かなり斬新でアートなデザインであると同時に、機材にとって過酷なライブやツアーなどに耐え得る堅牢性も兼ね備えている(88鍵モデルの木製側板も気品のある質感に仕上がっていて好印象である)。一方、フロントパネルの全体像は同社が開発してきた名機、M1やWavestationを彷彿させるクラシカルな外装となっており、同社の商品開発に対する温故知新とも言える姿勢を垣間見ることができる。なお、本体中央に位置するタッチビュー対応のディスプレイには、ダークモード(黒バック・白文字を基調とした表示)を採用。クールな印象に加え、長時間の作業において目の疲れを軽減するという利点がある。

要となる音源部については、KRONOSで採用されてきたモデリング(アコピ、エレピ、オルガン、アナログ・シンセ3種、PCM、弦楽器シミュレート、FMシンセの計9種)のシンセシス・エンジンを引き継いだ形となっているが、新たな音色プログラムが多数追加されたことで、良い意味で期待を裏切ってくる。というのも、追加音色の中でも特に異彩を放っているプリペアド・ピアノに注目してほしい。プリペアド・ピアノとは、生ピアノの弦に消しゴムやネジなどさまざまな物質を挟んで音色変化させる、現代音楽から派生したアプローチだが、近年はアンビエント/モダン・クラシカルなど、ポップスに近いフィールドでも使用されている。しかしながら、決してメイン・ストリームではない音色にここまでこだわりを見せていることに、第一線のシンセ・メーカーとしての覚悟とハングリー精神を感じずにはいられない(もちろん即戦力になる音色も多数スタンバイされている上でのことである)。

ほかの音色も、総じて波形と発音(オシレーターやシミュレーター)そのものがハイクオリティでしっかり野太く説得力のある仕上がりだが、個人的にはエフェクトの圧倒的な完成度に感嘆した。トレモロ、ワウ、コーラスなど、下手をするとそこで一気にデジタル・シンセ臭くなってしまいかねないエフェクト・セクションだが、徹底的にアナログライクなサチュレーションを追求し、PC上のプラグインにも決して劣らないというコルグ社のハードシンセに対する責任と誠意を見せつけられた。しかもこの音質で、インサーション・エフェクト12系統、センド用のマスター・エフェクト2系統、トータル・エフェクト2系統の計16系統を同時に使用できるのは心強い。

61鍵と73鍵モデルは丸みあるフォルムを持つ
88鍵盤モデルのサイドパネルは高級感ある木製仕様

充実のコントロール・セクションで直感的にサウンドを変化

コルグ社御家芸のジョイスティックやSW1・2が配された左手側の操作部は、長きに渡り幾多の鍵盤奏者が信頼を寄せてきただけあって、安定感を誇る。それとは対照的に、ユーザビリティを意識した上で新たに導入された機能の中でも驚愕したのが、RTノブ(Realtime Knobs)とダイナミクス・ノブの収納ギミックである。なんと固定したいパラメーターが不意の接触などで変化しないように、押すと本体に埋め込む形で収納することができるのだ。カットオフなどリアルタイムで変化させたいノブだけ突出させることで、ライブなどで演奏する際のアクシデントを回避できるという、プレイヤーにとっては非常に実用的な機能である。同じく新たに追加されたオクターブ・シフト・ボタン(上部シフト・ボタンとの併用でトランスポーズも瞬時に対応できる)も、思いのほか重宝する機能である。自分のよく使うページや機能をアサインできるクイック・アクセス・ボタンも含め、操作子は全体的にシンプルにまとめられているにも関わらず、タッチビューでのエディットもそこまで階層が複雑化していないので、機械操作が得意ではないユーザーでも落ち着いて直感的に扱える操作性と言えるだろう。

ライブで演奏するプレイヤーには、使用する音色の順番をあらかじめ一覧で管理できるセット・リスト・モードや、音色切り替えの際に伸ばしている音が途切れないスムーズ・サウンド・トランジションが頼もしい味方となってくれるだろう。音楽制作がメインのクリエイターには、あらかじめ1音色ごとに4シーンの設定がされたアルペジエーターやドラム・トラック、サンプリング機能(外部入力・内部演奏ともに対応)などで創作意欲をかき立て、MIDI・オーディオ各16トラックのシーケンサーで即座に楽曲を構築していくという一連の流れが期待できる(USBを介してDAWと連携可能)。加えて、これだけ妥協のないフラッグシップ機でありながら、KRONOSよりかなりのプライス・ダウンを実現しているのは、企業努力の賜物と言えるだろう。第一線で活躍する音楽家だけでなく、これからキーボードに触れる入門者にも心からお薦めしたい。(文:平畑徹也)

タッチパネル・ディスプレイ左の6つのRTノブとダイナミクス・ノブは、押すことで収納可能

製品情報

KORG NAUTILUS

価格●61鍵:242,000円/73鍵:286,000円/88鍵:330,000円

Specifications

●鍵盤:88鍵=RH3(リアル・ウェイテッド・ハンマー・アクション3)鍵盤、A〜C/73鍵=ナチュラル・タッチ・セミ・ウェイテッド、C〜C/61鍵:ナチュラル・タッチ・セミ・ウェイテッド、C〜C ※いずれもベロシティ対応、アフター・タッチ非対応●シンセシス方式:9種類(SGX-2=アコースティック・ピアノ、EP-1=エレクトリック・ピアノ、HD-1=PCM、AL-1=アナログ・モデリング、CX-3=トーンホイール・オルガン、STR-1=フィジカル・モデリング、MOD-7=VPMシンセシス、MS-20EX=CMTアナログ・モデリング、PolysixEX=CMTアナログ・モデリング●最大同時発音数:40〜200ボイス(音源により変動)●プリセットPCM:RAM 496MB/DISK 2.3G(ROM1,771マルチサンプル、3,955ドラムサンプル)●PCM RAM:約2GB●ウェーブ・シーケンス:プリロード377種、ユーザー・メモリー598種 ※ステレオ・マルチサンプル対応、各ノートごとにシンク可能、テンポ・ベースで設定可能●エフェクト:インサート・エフェクト12系統、マスター・エフェクト2系統、トータル・エフェクト2系統、ティンバーEQ1ティンバーにつき1基の3バンドEQ、エフェクト・タイプ197種、モジュレーション、エフェクト・コントロール・バス、エフェクト・プリセット●アルペジエーター:プログラム・モード1基/コンビネーション、シーケンサー・モード:2基●ドラム・トラック:プリセット・パターン1,272、ユーザー・パターン1,000●外形寸法:88鍵=1,437(W)×387(D)×139(H)mm、73鍵=1,227(W)×386(D)×116(H)mm、61鍵=1,062(W)× 386(D)×116(H)mm ●重量:88鍵=23.1kg、73鍵=14.6kg、61鍵=13.0kg

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