【製品レビュー】ARTURIA PolyBrute

Bruteシリーズを継承して進化
独自コントローラーでパワフルなサウンドを操れる
6ボイスのアナログ・シンセサイザー

MORPHEEをはじめ音作りの幅が広がる機能を追加

PolyBruteは、その名のとおりアートリアからついに登場したアナログ・ポリフォニック・シンセサイザーだ。1999年にソフトシンセ・メーカーとして始まったアートリアが、ハードウェアのアナログ・シンセサイザー、MiniBruteを衝撃的に発表してから9年という月日が流れ、ついにここまで来たかと思わせられる内容の濃いシンセサイザーとなっている。

PolyBruteには、6ボイスそれぞれに2つのVCOと2つのタイプの異なるフィルター、エンベロープとLFOもそれぞれ3系統搭載されており、パネル上でひときわ目を引くマトリックス上に並んだ大量の自照式ボタンで、さまざまなモジュレーション・パッチングを行うことも可能。そして鍵盤の左側には、MORPHEE(モーフィー)という新しいコントローラーも搭載されており、これを指でなぞったり押し込むことで、2種類の全く異なった音色セッティングの間を自在にモーフィングすることもできる。鍵盤の上には38cmほどもあるロング・リボンも用意されており、さらに3系統同時使用可能なデジタル・エフェクターも内蔵。ノートだけでなく、さまざまな部分を制御可能なポリフォニック・シーケンサー、アルペジエーターまで搭載されており、至れり尽くせりの構成になっている。

本機に用意されたプリセット・スロットは768。カーソルで順に選ぶにはとてつもない数字だが、8×12のマトリックス・ボタンとその上にある8つのボタンを使用して、すべてのプログラムをダイレクトに呼び出せる。それぞれに、モーフィングA/Bの完全に異なる音色とシーケンス・パターンなども含めた状態でプリセットを保存可能で、シーケンス・フレーズを鍵盤でトランスポーズ演奏できるようなプリセットも多数用意されている。これらを選び、鍵盤を押さえながらMORPHEE、そしてパネル中央左に目立つ大きなMaster Cutoffやリボンを触っているだけでも、本機の音作りの幅広さを知ることができるだろう。

2種類の音色の間をモーフィングすることができるコントローラー、MORPHEE

細部までブラッシュアップされた充実の構成を持つ音源部

実はBruteシリーズは、初代MiniBruteから少しずつオシレーターやフィルターのチューニングにも進化がうかがえるように思う。例えばMatrixBruteという以前のフラッグシップ機と比較して、その後登場したMiniBrute2の方がフィルター全開時のオシレーターのヌケがさらに良好に感じるなど、グレードに関わらず改善できる点はしていくような印象を持っている。そんなブランドの最新シンセというだけでも期待値が高いのだが、実際に触ってみるとやはりオシレーターのヌケも十分で、フィルターに関してもスタイナー・パーカーという初代MiniBruteから、このシリーズの特徴の1つであるそれをより守備範囲を広くチューニングしたような余裕を感じる。初代では正直ダーティーすぎることを楽しめたりもしたのだが、本機ではそんな荒々しいサウンドから、こんなに表情豊かなフィルターだったのかと気づかされるような場面も。余談だが、本国アートリアの方から“Bruteシリーズはオシレーター・ミキサーに対する入力をあえてオーバー気味にもできるように設計しているので、滑らかな音を得たければ最大レベルで突っ込まず、7〜8割のところで使うと良い”と聞いたことがあり、実際にやってみると本当にそのとおりの効果を得られる。Bruteシリーズをお使いの方はぜひ試してみてほしい。

本機には2系統の独立したフィルターが搭載されており、上の段は前述のスタイナー・パーカー・フィルター。これはローパス、ハイパス、バンドパスと連続可変可能な仕様になっており、このシリーズではおなじみのBrute Factorと呼ばれるフィードバック回路もしっかり搭載されている。そして下段にはモーグ・タイプのラダー・フィルターが用意されており、こちらはローパスの固定だが、Distoという歪みのパラメーターを持っている。一般的に、フィルター内部で歪ませるパラメーターを上げると飽和してレゾナンス発振が弱くなるものも多いが、このDistoではしっかり発振を維持したまま歪ませることが可能なので、強烈なサウンドも得られる。2基のオシレーターやノイズ・ジェネレーターをそれぞれ個別に2基のフィルターに送ることや、スタイナーを経由した後ラダーを通すこともでき、その直列/並列の切り替えも連続的にミックスすることが可能。そして両フィルターの間に装備された銀色の大きなMaster Cutoffツマミを使うと、両フィルターの現在のカットオフ値を基準に、両方のカットオフをプラス/マイナス方向に同時に動かすことができる。

MatrixBruteではアナログにこだわったエフェクターを搭載していたが、PolyBruteでは3系統のデジタル・エフェクトを採用している。モジュレーション系、ディレイ系、リバーブ系が同時使用可能で、それぞれメインになる2種類はダイレクトに、ほかのバリエーションは画面で選択できるようになっており、ビットクラッシャーやBBD風のディレイ、シマー・リバーブなども用意されている。

パネルの右上にはStereoというツマミが用意されていて、6つのボイスをステレオ間にどれぐらい広げて定位するかを、演奏しながらでもコントロールできるようになっている。これはパッド演奏やユニゾン時にも非常に効果的。MotionRec機能も搭載されていて、シーケンスなどとは関係なく1つのツマミの操作をそのままの時間軸で記録して、ワンショットやループ、再生速度の変更も行える。

現代のハードウェアのアナログ・ポリシンセとして考えられるさまざまな機能をバランス良く、しかも本当に使いやすい形で凝縮したような本機だが、機能面だけでなく出音もしっかりとミュージシャンの期待に応えるような仕上がりになっている。1台は本物のアナログをと考えている方は、ぜひ実機をチェックしてほしい。(文:Yasushi.K)

スタイナー・パーカーとラダー・フィルターを搭載。両者の間にはMaster Cutoffツマミが装備されている

製品情報

ARTURIA PolyBrute

価格●385,000円

Specifications

●鍵盤:61鍵(ベロシティ、アフタータッチ対応)●アナログ・モーフィング・シンセサイザー(6ボイス・ポリフォニック/モノ、ユニゾン、ポリ・ボイシング/シングル、スプリット、レイヤー・モード)●ベロシティ、アフター・タッチ対応61キー●ピッチ・ベンド、モジュレーション・ホイール、リボン・コントローラー●モーフィー(タッチ、プレッシャー・センシティブ対応)の3Dコントローラー●モーフィング機能範囲:各プリセットのAとB●2基のアナログVCOを装備(Saw/Triangle+Metalizer/Square+Pulse Width/Sub/Linear FM/Hard Sync●ノイズ・ジェネレーター:ランブル・ノイズからホワイト・ノイズまで連続可変可能●フィルター・ルーティングを備えたオシレーターとノイズ・ミキサー●12dB/OctのSteiner Parkerフィルター(LP>Notch>HP>BPの連続モーフィング/Cutoff、Resonance、Brute Factor)●ディストーションを搭載した24dB/OctのLadderフィルター●3つのエンベロープ(2つのADSR/1つのDADSR/ループ機能)●3つのLFO(波形選択可能なLFO1とLFO2/ShapeとSymmetryを使用した波形シェイピングができるLFO3/レート・コントロールとテンポ・シンク/さまざまなリトリガー・オプション●3つのステレオ・デジタル・エフェクト●モジュレーション系:コーラス、フェイザー、フランジャー、リング・モジュレーション●ディレイ系:BBD、デジタル・ディレイなど9つのアルゴリズムを含んだディレイ●リバーブ系:ホール、プレート、スプリング、シマーなど9つのアルゴリズムを含んだリバーブ●768プリセット・スロット●12×32モジュレーション・マトリックス●64ステップのポリフォニック・シーケンサー(ステップごとにノート、アクセント、スライドを入力/オートメーション:3トラック)●アルペジエーターとマトリックス・アルペジエーター●ステレオ・オーディオ出力●MIDI、USB入出力、アナログ・クロック入出力●2つのエクプレッション・ペダル、1つのサステイン・ペダル入力●外形寸法:972(W)×378(D)×110(H)mm●重量:20kg

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