【製品レビュー】YAMAHA YC73

新開発のVCMオルガン音源により
ビンテージ・サウンドを鮮やかに再現し
ピアノやエレピにも対応する73鍵ステージ・キーボード

スタイリッシュなリアル・ドローバーによる感覚的な音色作り

昨年発売されたYC61に続き、73鍵のYC73が登場。YC61はビンテージ・オルガンを意識したセミウェイテッド・ウォーターフォール鍵盤なのに対し、YC73はバランスドハンマースタンダード(BHS)鍵盤で、オルガンだけでなくピアノやエレクトリック・ピアノにも対応できる。ちなみに同時に発売されたYC88は、とても自然なタッチを生み出すナチュラルウッドグレードハンマー3(NW-GH3)鍵盤となっており、鍵盤数が違うだけではないこだわりのあるシリーズとなっている。

まずオルガニスト的に目を引くのは、リアルなドローバーが搭載されているところ。しかもビンテージ・オルガンとは違う、ステージで目立つ赤も! そして丸みのある筐体・外装と、赤・黒・白系でコーディネートされているデザインはとてもスタイリッシュ。操作部分がすべて表出されているので、液晶とにらめっこしなくても感性で操作が可能。ON/OFFのスイッチがボタンでなくトグル・スイッチで、最近の機材には珍しい仕様でユニークな設計だと思う。

オルガン部分には、このシリーズ用に新開発されたトーン・ホイール式のビンテージ・オルガンを忠実に再現するVirtual Circuitry Modeling(VCM)オルガン音源が搭載されており、スタンダードなビンテージ・オルガン、中低域が太めのオルガン、パーカッシブなオルガンの3種類から選べる。これらの音色は、ジャズ系、ロック系とファンダメンタルな部分から設定でき、リーケージ・ノイズやキー・クリック音のレベルも調整できるので、好みの音に作り上げることができる。

オルガンの第一印象としては、とにかくバランスが良い。音の太さはもちろん、低音から高音までばらつきがなく、いわゆる下3本のセッティングからドローバーをすべて引き出したサウンドにしても、暴れることなく自然な音量差で迫力が出せる! ビンテージ・オルガンは個体差もあるが、この音量差がPAさん泣かせになる時もあるので、YCはとても安心して演奏できる。さらにオルガンに欠かせないパーカッション、コーラス、ビブラートすべてがとても自然で心地よいサウンドが得られ、開発者の意気込みが感じられる。

ヤマハといえば、一世を風靡したデジタル・シンセサイザーDX7を1983年にリリースし、FMサウンドはその後の音楽で多用され、筆者が聴いてきた音楽はどれほどFMサウンドが多かったことか。YC73には往年のトランジスター方式のオルガン・サウンドを再現した3種類のFMオルガン・サウンドが入っており、いわゆるチープ・オルガン的なサウンドが活躍する音楽にもぴったり。8つのオペレーターは8本のドローバーに対応しており、ドローバー・セッティングやVCMロータリー・スピーカー、アンプ・モデルとの組み合わせで、独自のオルガン・サウンドを作ることができる。

本来ビンテージのオルガンでは、音量を小さくしようとするとドローバーを下げていかないといけないなど、音色が変わってしまう点が難点だが、YC73では“VOLUME”により音質を変えずに、Upper/Lower別々に音量を設定できるのはとてもありがたい! ファンクやフュージョンなど、ベースの音量が重要な音楽でも活躍できる。 

リアル・ドローバーによりその場の感覚で操作ができるのがオルガンではとても大事なのだが、リアル・ドローバーだけでなく液晶部分で実際どのぐらい引き出されているのかが一目瞭然なのはとても便利! よくリアルなドローバー・セッティングとメモリーしている音色の違いが分からず困る時があるのだが、色はトーン・ホイール系のUpperが白、Lowerが赤、FM系は緑と今自分が何を選んでいるのかも分かりやすく、とても良い(LEDカラーは自分の好きな色に設定することも可能)。また、1段鍵盤はスプリットが必要な時が多いが、スイッチがすべて目で見えるので操作もしやすく、“Organ” “Key”ともに設定できるので、Upperはオルガン、Lowerはエレピなどの設定も簡単にできる。

ドローバーのLEDは全7色から選ぶことができる

あらゆるジャンルで活用できるVCMロータリー・スピーカー

そして、オルガンには欠かせないロータリー。VCMロータリー・スピーカーはスタンダード・タイプ(RtrA)と、歪み成分が強いトランジスター・プリアンプを接続したタイプ(RtrB)の2種類があり、“RtrA”はとても気持ちの良い揺らぎ(Slow)でジャズにぴったり。“RtrB”は常にロータリーが回っている歪みが聴こえてきてそれだけで気分が高まるが、“DRIVE”と組み合わせるとあっという間にジョン・ロード的な歪み感(笑)。とても自然で迫力のある音が得られ、スタンダード・ジャズ、ロック、プログレとどんなジャンルでも活躍できるだろう。Keysセクションの音色に使うと、面白い独自なサウンドも作ることができる。回転スピードや加速の速さなども調整できるので、筆者のように速く回転してほしい人にとってはありがたい。

通常オルガンの鍵盤は、多列接点で6つほどの接点によってノイズ的なサウンドを出すことが可能なのだが、YC73はピアノ音色などでの使用も考えられているためか、バランスを取って若干深めになっている印象だ。そしてウォーターフォール鍵盤でないことにより、グリッサンドを多用すると手が痛くなる可能性はあるが、たいがいのオルガン奏法は可能だろう。

Keysセクションには、CP80、ストリングスと混ざったピアノ、ローズ、DXエレピ、リード、ブラス、FM音源による音色など、多種入っているので、EFFECT、AMPなどと組み合わせると斬新な音作りもできる。Keysの部分ではA、Bと2種類の音色を選ぶことができ、ON、OFFスイッチにより簡単にミックスもできるのは嬉しい。EFFECTもコーラス、トレモロ、フェイザー、ディストーション、ワウと必要なものは入っているので、エレピやシンセだけでなく、オルガンにワウをかけたりするのも面白いだろう。これは自分だけの音作りに活躍するに違いない。ライブセットは20バンク×8で、160メモリーできるので十分。バンクもスイッチやツマミで簡単に選べるし、ベンドやモジュレーションの形状も斬新でデザインのこだわりが見える。

スタイリッシュなデザインで全体に視認性が良く、直感的な操作ができる。さらに13.4kgという適度な重さで、持ち運んでの演奏活動も可能。あらゆる場面で活躍してくれる1台だ! (文:大髙清美)

左からOrgan、Keys、Effect、Speaker/Amp、Reverbセクションが並んだ視認性の良いパネル部

製品情報

YAMAHA YC73

価格●オープンプライス(市場予想価格:297,000円)

Specifications

●鍵盤:73鍵BHS鍵盤(黒鍵マット仕上げ バランスドハンマースタンダード)[OS v1.1]●音源方式:VCM Organ、AWM2、FM●最大同時発音数:VCM Organ+AWM2=128音(VCM OrganとAWM2の合計)、FM=128音●ライブセットサウンド数:160(プリセットライブセットサウンド88)●ボイス数:149(Organ6、Keys143)●エフェクト:32タイプ●スピーカー/アンプ:6タイプ(ロータリースピーカー2タイプ、アンプ4タイプ)●リバーブ:1タイプ●インサーションエフェクト:Organ1系統(プリドライブ)、Key A 2系統(1:32タイプ、2:32タイプ、Key B 2系統(1:32タイプ、2:32タイプ)●マスターEQ:3バンド(MID:周波数変更可能)●接続端子:ライン・アウト、ヘッドフォン、フット・コントローラー、MIDI、USB、AUX●外形寸法:1086(W)×355(D)×145(H)mm●重量:13.4kg

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