【製品レビュー】TEENAGE ENGINEERING OP-1 field

100以上の新機能を実装し
シームレスな音作りが想像力を刺激する
人気ガジェットの進化バージョン

あの革新的な個性に溢れた音楽生成ガジェット、初代OP-1の登場から11年。ついにモデル・チェンジした新型、OP-1 fieldが登場した。見た目はいわゆる“正常進化版”とも言うべきデザインだが、アップデートはなんと100箇所におよぶ! 今回、短期間ではあるがお借りすることができたので、このOP-1 fieldの根本的な成り立ちから、新機能、実際に音楽を作っていくまでの流れをザッとご紹介していきたい。

とは言え、実は筆者OP-1シロウトである。シンセサイザーやDTMそのものの経験は無駄に長いが、この独自のUIを持つキュートな機材に、初代の発表当初から“オシャレ過ぎて取っ付きにくい……自分には似合わない”と変な劣等感を抱いていたことを正直にお伝えしよう。が、折に触れその音を聴き、またOP-1だけを使って制作された素晴らしいアルバムを聴いたりするうちに、やっぱりアレはスゲェんだ……的にずっと気になっていたのも事実である。

本題に入る。OP-1 field全体の成り立ちはオリジナルOP-1と変わらない。シンセサイザー、ドラム・マシン、テープ・レコーダー、ミキサーの4つのモードを持ち、その4つのモードをシームレスに行き来しながらどんどん制作/パフォーマンスを進めていくことができる。また、エディットに主に使用するのは4つのカラーのエンコーダー・ノブで、これがまたそれぞれのモード、ページで最適なパラメーターにアサインされているという点でも同じである。

アップデートされた部分だが、まず1番大きな部分は内部のオーディオ・バスの扱いが32ビット化され、そのほとんどがステレオ化されたということ。これは楽器としての成り立ちは変わらずとも、中身は完全に別物という言い方もできる。最後までこれ1台でフィニッシュするような使い方において、もはや単なるガジェット扱いするのは失礼かもしれない。

さて、シンセサイザー部分。OP-1 fieldのシンセサイザー部はそれだけで単体の高級なデジタル・シンセに匹敵する機能と音質を備えている。まず、シンセ・エンジンのタイプとして、なんとCluster、Digital、Dimension(今回初搭載)、DNA、Dr.Wave、Dsynth、FM、Phase、Pulse、String、Voltageの11種類+Samplerという圧倒的なバリエーション。このすべてが違う音声生成アルゴリズムを持ち、またすべて独自のグラフィカルな(またコレが綺麗で可愛くて秀逸なのはご存じのとおり)エディット用インターフェースを持っているので、いじっているだけで本当に楽しくなってしまう。

実際にいじってみて気付いたことは、“このタイプの音を作るからにはこのエンジンが合うはずだ”という先入観を捨てて取りかかった方が面白いということ。それだけ各エンジンの守備範囲の広さが想像以上に広い。例えば、てっきり“え?コレはFMでやってるだろ?”と思った音が、Stringで生成されていたりする。エディットに関しては、①②③④の4つのボタンでそれぞれ以下のような共通の形で整理されており、それぞれ4つのカラー・エンコーダーが最適なパラメーターに効くようになっているのはオリジナルOP-1と変わらない。
①それぞれのシンセ・エンジンの基本的な音源パラメーター
②エンベロープ
③エフェクト
④LFOを中心としたモジュレーションのルーティング

シンセ・エンジンのタイプは11種類+Sampler。それぞれのエンジンで
4つのカラー・エンコーダーが共通の形で最適なパラメーターに効くようになっている

エフェクトのページを見てみよう。これがまた独創的かつ豪華で、CWO、Delay、Grid、Mother(今回初搭載)、Nitro、Phone、Punch、Springの8種類。普通のマルチエフェクターのように全方位を満遍なくカバーしているというよりも、ディレイ/リバーブ系、フィルター系、モジュレーション系に特化したかなり個性的なエフェクト群だ。新しく搭載されたデジタル・リバーブ+ゲートの“Mother”は、残響の美しさとゲートのキレの良さ、そしてユーモラスなグラフィックのわかりやすさでかなり使用頻度が高くなると思う。ちなみにエフェクト群は、シンセ・ページだけでなく、ドラム・モード、ミキサー・モードでも個別にかけることができるので、音作りの幅は相当なものになる。

続いてドラム・モード。サンプリング・ベースのキットを読み込むことができるのと、DBOXと呼ばれるドラムに特化したシンセ・エンジンの2通りが選べるのは従来どおりだが、今回ドラム音源用サンプリング・エンジンもステレオ化されている。さらにドラムのサンプルをスタッキングして重ねていくことができるようになり、これだけでも下手な専用機より全然深い音作りができるようになった。ちょっと横道に逸れるが、OP-1 fieldにはFMラジオの受信機能が搭載されており、外部入力としてサンプリング素材にすることが可能なので、スライスして配置しノイズっぽいキットを作ってみたり、シンセ・モードでのサンプリングで音作りに利用したりする、まさにティーンネイジ・エンジニアリングっぽい遊び方もできる。

そしてテープ・モード。今回新しくテープ・レコーダーの種類が選べるようになった! 最もHiFiなSTUDIO 4-TRACK、ちょっとアナログ・テープっぽいサチュレーションのある質感のVINTAGE 4-TRACK、懐かしいカセット・マルチのシミュレーションのPORTA 4-TRACK、そしてコンパクト・ディスクのDISK MINIの4つだ。この4つは、音質だけでなくレコーダーを動かした時の挙動もそれぞれの機種に忠実という凝った作りになっているので、パフォーマンスとしてスクラッチ/ストップ/リバース/リワインドなどのプレイをした際にもそれぞれ独特の挙動をするという楽しいものになっている。

……と、まだまだ枚挙にいとまがないアップデート箇所だが、全体を見渡してみてもスピーカーの改良(パッシブ・ラジエーターの搭載→大音量化)、バッテリー駆動24時間に延長、ディスプレイの高輝度・高解像度化など、ハードウェアとしての大事な部分も飛躍的に進歩している。昨今のシンセサイザーの際限のない高機能・高性能化には驚くばかりだが、単体でいじってこんなに“楽しい”ものがあるだろうか。ぜひ実機に触れてみることを強くオススメする。(文:飯野竜彦)

テープ・モードでは、テープ・レコーダーの種類が4つの中から選べるようになり、
音質だけでなくレコーダーを動かした時の挙動もそれぞれの機種に忠実

製品情報

TEENAGE ENGINEERING OP-1 field

価格●308,000円

Specifications

●鍵盤:14鍵●モード:4種類(シンセサイザー、ドラムマシン、テープレコーダー、ミキサー)●シンセサイザー・エンジン:11種類(Cluster、Digital、Dimension、DNA、Dr.Wave、Dsynth、FM、Phase、Pulse、String、Voltage)●エフェクト:8種類(CWO、Delay、Grid、Mother、Nitro、Phone、Punch、Spring)●シーケンサー:7種類(Arpeggio、Endless、Pattern、Finger、Hold、Sketch、Tombola)●LFO:6タイプ(Value、Element、MIDI、Random、Tremolo、Velocity)●ラジオ:FM放送ラジオ受信機能、内蔵FMラジオ送信機能、ラジオの音をサンプリング可能、ラジオの音をTapeでレコーディング可能●入出力端子: USB Type-C、ヘッドフォン出力、ライン入出力●電源:24時間駆動の大容量バッテリー●外形寸法:288(W)102(W)×29(H)mm●重量:620g

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