【製品レビュー】IK MULTIMEDIA UNO Synth PRO X

コンパクトな筐体に多数のコントロール・ノブを装備し
緻密なサウンド・メイキングが可能なアナログ・シンセ

UNO Synth PRO X はコンパクトながら、3VCO、2VCF、3ENV、2LFO に3系統のエフェクト、さらにはステップ・シーケンサーも装備した高性能アナログ・シンセサイザーだ。基本的にはモノフォニックだが、3つのVCOを使った和音演奏(パラフォニック)も可能になっている。

VCOは高い安定度とアナログらしさを兼ね備えている。複数のVCOを同じピッチにすればわずかに揺らぎが加わるし、TUNEツマミを回してのデチューン効果も気持ちいい。オシレーター波形は三角波→ノコギリ波→対称矩形波(スクエア波)→非対称矩形波(パルス波)に連続変化し、倍音構成やサウンドの重心を細かく調節できる。

オシレーター・ミキサーでは、レベルを上げると気持ちよく歪み始める。さらにトータルでのオーバードライブも装備。歪みによってグッと前に出てくるサウンドから歪みのない透明感のあるサウンドまで、思いのままだ。さらに、複数オシレーター機種ならではのシンクやクロス/リング・モジュレーションも可能で、強烈なリードや金属質なサウンドを作り出せる。

フィルター・セクションも高機能。明るい効き味でローパス/ハイパスに切り替えられる2ポールOTAフィルターと、2ポールと4ポールに切り替えられ、自己発振するレゾナンスを備えるSSIローパスフィルターの2基を装備。それぞれに、エンベロープ・モジュレーションとキーボード・トラッキングが可能だ。キーボード・トラッキングは、見逃がされがちだがフレージングには重要なパラメーターで、本機では-200%から+200%と幅広く調節できるのが素晴らしい。

これら2つのフィルターは直列にも並列にも接続できるが、OTAフィルターは位相を反転できるようになっているのも気が利いている。アナログ・フィルターでは位相のずれが生じるため、2つのフィルターを並列にするだけだと思わぬ音痩せが起きることがあるのだが、これによって回避できる。

ローパス/ハイパスに切り替えられる2ポールOTAフィルターと、2ポールと4ポールに切り替えられ、
自己発振するレゾナンスを備えるSSIローパスフィルターの2基を装備

エンベロープも十分に速い。特に立ち上がりだけでなく、ディケイやリリースなどの下がるパラメーターの切れ味の良さがいい。このあたりは、グルーブに影響する部分だけに気持ち良く音作りができる。LFOも定番5波形に加え、ランダム、サンプル・ホールド、ノイズも装備。最高100Hzまで発振し、変調先も自由に選べる。フェードタイムも設定でき、シンセ・リードに効果的なディレイ・ビブラートも簡単に実現できる。

エフェクターは、モジュレーション系、ディレイ、リバーブを装備。こちらのパラメーターはシンプルで、最小限の操作で典型的な効果が設定できる。またモジュレーション系では、定番のコーラスだけでなく、ユニバイブ効果を装備しているのも面白いところ。パラフォニックやアルペジオの演奏にかけると、サイケデリックな旅に出られる。

ステップ・シーケンサーの入力も簡単。録音ボタンを押してリアルタイムで外部MIDIキーボードを弾くか、本体に装備されたキーボード・スイッチを使ってステップ入力するかで簡単にループ・フレーズを作成できる。さらにステップ・シーケンサーに適したBass Lineモードも装備。このモードはローランドTB-303を意識したモードで、通常21kHzまで動作するフィルターの開閉範囲を5Khz付近以下に抑え、より低音域を細かく調節できるようにするほか、エンベロープも減衰音に固定される代わりに、ステップ・シーケンサーでアクセントを入力した時のエンベロープを別途設定できる。もちろんこのモードに設定した場合でも、3オシレーター、2フィルターなどの豊富な機能はそのまま使え、アシッドで過激なグルーブを演出できる。

ステップ・シーケンサーに適したBass Lineモードでは低音域を細かく調節できるほか、
エンベロープが減衰音に固定される代わりにアクセントを入力した時のエンベロープを別途設定可能

ここまで見てきたように、本機は高機能というだけではなく、随所にツボを押さえたパラメーターの追加や設定が行われている。そのあたりは、Syntronikをはじめとするソフトウェア音源で、数々のアナログ・シンセサイザーの名機を扱ってきたアイケーマルチメディア社の経験が生かされているのだろう。

音作りの操作に関しても実に使いやすくできていて、基本的な操作はパネル面のツマミとスイッチでダイレクトかつスムーズに行える。この時データ値はディスプレイに表示され、データエンコーダーのツマミでも変更できる仕組み。こちらはクリック付きツマミになっていて、ちょうど0 に設定するなど正確な操作がしやすくなっている。また、データエンコーダー・ツマミは、マトリックス・モジュレーションなどの深い階層のエディットやパネル上のツマミを拡張するような操作にも使用するようになっている。

例えばオシレーターのTuneは、パネルのツマミではセンター付近ではセント(1/100半音)単位で細かく変化。90度あたりからは半音単位と大きく変化し、デチューンやオクターブ違いなどを素早く設定できる。一方、データエンコーダー・ツマミは常にセント単位での調節にセットされていて、長3度+22セントのような設定も簡単に行えるといった具合。

また、多くのツマミの精度が256段階と細かく、音色の要とも言えるフィルターのカットオフでは512段階と倍精度になっているのも、シンセサイズのツボがわかっているという感じだ。さらに本機には、Mac/Win対応のエディタ・アプリも用意されている。プラグインとしても動作し、ソフトウェア・シンセサイザーと同様の感覚で使えてしまう。

接続端子は、パソコンと接続できるUSB-C端子や定番のMIDIのほか、外部インプット、さらにCV/GATE端子も装備。ユーロラックなどのモジュラー・シンセサイザーと組み合わせて、さらに音作りの可能性を広げられる。

UNO Synth PRO Xには、艶のある音色、気持ち良く前に出てくる歪み感といったアナログ・シンセサイザーのおいしいところが詰まっている。しかも現代的な制作環境に対応しつつ、新たな可能性の扉を開くモデルでもある。幅広くさまざまなユーザーにお勧めしたい1台だ。(文:高山博)

製品情報

IK MULTIMEDIA UNO Synth PRO X

メーカー希望小売価格●85,800円(税込)

Specifications

●オシレーター:3基のディスクリート波形オシレーター●フィルター:2基のアナログ・オシレーター●エンベロープ:3基のADSRエンベロープ● LFO:2基●エフェクト:3系統(モジュレーション/ディレイ/リバーブ)+アナログ・オーバードライブ●ボイスモード:4種類●シーケンサー:64ステップ●アルペジエーター:10モード●プリセット:256種類●接続端子:AUDIO IN、USB-C、MIDI(IN/OUT)、CV/GATE(IN/OUT×2、ヘッドフォン●電源:iRig PSU-3A(付属)、またはUSB ●外形寸法:333(W)× 150(D)×50(H)mm ●重量:0.8kg

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