【製品レビュー】MELBOURNE INSTRUMENTS NINA

モーターで回転する32個の画期的なノブを搭載し
楽器的な厚みある音も魅力の
12ボイス・アナログ・シンセサイザー

メルボルン・インストゥルメンツは、オーストラリアの新しいメーカー。NINA は12ボイス、4マルチティンバーのアナログ・シンセ(デジタル部はOSC-3がウェーブテーブルであることとエフェクトがデジタルであること)だが、何と言っても注目なのは、モーターライズされた32個のノブだろう。シンセの音色がメモリーできるようになってから、パネルのノブ位置と呼び出した音色の関連という問題はあらゆる方式が試されてきた。古くはヤマハCS-80のように、メモリーのためだけのスライダーのセットを持つものから、デイヴ・スミス・インストゥルメンツProphet’08 のようにノブをエンコーダーにアップデートしたもの、またノードNord Lead3のようにデータを外周部LEDで表示するものなど、各メーカーさまざまに工夫を凝らしてきた歴史があるが、ここに来てようやく決定版の登場と言えるだろう。

このモーターライズされたノブの仕様がまたすごい。無接点の光学検出式なので摩耗の心配がないだけでなく、なんと15,000ステップもの高解像度を持つ。ディスプレイ上の数値が0〜100だったとしても、実際のオーディオ回路は15,000刻みでコントロールされるのだ。実際音を出しながらカットオフなどをゆっくり意地悪くいじってみても、まったく“段つき” は感じられない。また驚きなのが、ノブの機能によって自動的に途中にクリックが生成されること! 例えばオシレーターのTUNEノブだが、普段は無段階で滑らかなのに、CORSEモードにすると5段階のオクターブ切り替えクリックが(操作感上)現れる。他にも、モジュレーションの双方向制御をコントロールするノブにはゼロ位置にセンター・クリックが現れるなど、何ともよくできているのだ。

モーターライズされたノブは無接点の光学検出式なので摩耗の心配がなく、15,000ステップもの高解像度を持つ

さて、ノブの話で誌面が尽きてしまう前に本体の話をしよう。構成は、非常にコンベンショナルな3VCOのアナログ減算式だが、VCO3はデジタル・ウェーブテーブルで、外部からのインポートにも対応。事実上、アナログとはいえ無限の音作りの可能性を持つと言って良い。波形はPOSノブで読み出し位置のコントロールができるのはもちろん、interpolateオプションで80年代風の波形直結数珠繋ぎスタイルも、スムーズで微妙な音色変化も選べるようになっている。この辺りの操作感と実際の出音の印象が、昨今のモダンなウェーブテーブル・シンセとひと味違い、厚みとか楽器的な温かみを感じる。恐らく読み出しのD/Aにコストがかかっていたり、内部ミキサーやフィルター入力段の設定が絶妙なのだろう。

基本のプリセット/プログラムの構成は、AとBの2つの音色のセットになっている。そしてこのシンセの演奏上最大の武器となるA⇄B間のモーフィングが、実際にノブの動きとともにリアルに行われる様子は圧巻だ。呼び出しはメインのディスプレイで選択・ロードするほか、各バンクの最初の16プログラムに関しては、下段に並んだ16個のボタンでダイレクトに行うことも可能。音色バンクはお気に入りをストックしておくFAVORITEのほか、パッドやリードの音色カテゴリー別だったり、有名プレイヤーのシグネチャー・バンクなどもあったりして、即戦力が楽しい。個人的には、動画サイトで有名なマット・ジョンソン(ジャミロクワイのキーボーディスト)のシグネチャー・バンクが気に入った。

また、下段に並んだ16個のボタンだが、本体をモジュレーション・モードにした時にはモジュレーションのソース選択のボタンになる。すると、デスティネーションはパネル上のすべてのノブになるのだ! コレは音色作りの際に大変に強力、かつわかりやすい。縦横グリッドのマトリックスよりも、ツマミそのものを動かして変化量を決めていけるので直接的なのだ。この16個のボタンだが、ご想像の通りシーケンサー・モードではステップ打ち込みボタンとしても使用する。

モジュレーション・モードでは下段の16 個のボタンはモジュレーションのソース選択のボタンになり、
デスティネーションはパネル上のすべてのノブになる

そしてもう1 つ特筆すべきは、“ステレオ無限パンニング”。従来シンセサイザーは、モノラル音源をエフェクトでステレオ化して出力したり、複数の音源をシンプルなステレオ定位に割り振って出力するのが一般的だったが、このところUDO Super 6などにも見られるように、位相コントロールで独自の音場を形成するのが1つのトレンドになっているようだ。NINAの無限パンニングもその1つで、そもそもの出力がVCAを2セット持っており、正相・逆相のコントロールをステレオ音場内で動かすことにより、単なる左右定位の広がりでなく、音が頭の後ろに回り込むような錯覚を与えるような効果を持つ(ヘッドフォン作業では実際そう聴こえる)。ベテランの方にはかつてスタジオの定番アウトボードだったソングバードの“サイクロソニック” のステレオ版の強烈なヤツ、と言えばイメージしていただけるかもしれない。さらに、SPINノブでその位相変調のスピードをリアルタイムでコントロールできるのが強力。エフェクト系の音色を、位相含めて“ ぶっ飛び” にできるのが楽しい。

と、ここまでこの新しいシンセならではの点を書き連ねてきたわけだが、筆者がこのシンセを推せる第一の点は、“触り始めてすぐわかる音の良さ”。プリセットではエフェクトが濃いめにかかっているのでわかりづらいが、スッピンで聴いてみるとそのアナログとしての素性の良さに感動する。Prophetやオーバーハイムとぜひ比べてみてほしい。

いわゆるお仕事──自宅でのアレンジやプリプロ、レコーディングなどにハードウェア・シンセをほぼほぼ使わなくなってどれくらいの時間が経つだろう。今、ハードウェア・シンセの存在価値とは一体何なんだろうか? 同業の仲間内でも度々話題になるこのテーマだが、まさにそんな渦中に届いたNINAが、とても腑に落ちる答えを1つ見せてくれたと思う。(文:飯野竜彦)

製品情報

MELBOURNE INSTRUMENTS NINA

価格●オープン・プライス(市場予想価格:623,040円/税込)

Specifications

●最大同時発音数:12●オシレーター:アナログVCO×2、デジタル・ウェーブテーブル×1●ノイズ・ジェネレーター:ホワイト、ピンク●フィルター:4ポール・トランジスター・ラダーVCF●エンベロープ・ジェネレーター:2●LFO:2●モジュレーション・マトリクス:16 種類のソースから27種類のデスティネーションへアサイン可能●マルチティンバー/レイヤー:4●エフェクト:3系統(直列または並列で使用可能)●シーケンサー:最大16ステップ、ポリフォニック●接続端子:ヘッドフォン出力、AUX 出力、ステレオ・メイン出力、オーディオ/CV 入力、MIDI(IN/OUT /THRU)、USB-A×2、USB-C×1●外形寸法:446(W)×230(D)×71(H)mm ●重量:5.5kg

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