【製品レビュー】UDO Audio Super 6
新コンセプトのバイノーラル・モードを装備し
自由自在なモジュレーション・サウンドを実現した
12ボイスのアナログ・ハイブリッド・シンセサイザー
UDO Audio(ユー・ディー・オー・オーディオ)は2018年に設立されたばかりのイギリスの電子楽器メーカー。このSuper 6が最初の製品で2色のカラー・バリエーションの鍵盤付きモデルと、デスクトップ・モデルが用意されている。圧倒的に目を惹くのは歴代のさまざまなシンセサイザー名機へのオマージュやシンセ愛を感じられるデザインと重厚感だろう。
本機は12ボイス・ポリフォニックのバイノーラル・アナログ・ハイブリッド・シンセサイザー。“バイノーラル”と聞くと多くの人があのマネキンの頭のようなマイクを連想するのではないかと思うが、直訳すると両耳効果となるそうで、ここでは12ボイスの発音数を6ボイスずつに分け、ステレオの左右でオシレーター、フィルター、アンプの他、エンベロープ、LFOからエフェクターの入出力チャンネルまですべてが完全に独立して動作することで、アナログ的な揺らぎや微妙に位相の異なるシンセ・サウンドが左右の耳にそれぞれ入ってくることを表している。ちなみにポリフォニック・モードではバイノーラル機能をオフにすることも可能で、その場合は12ボイス・ポリフォニックのシンセとして使用できる。その場合も12ボイスをどれくらいステレオ間に分散させるかの設定が可能となっている。
各部がとても興味深い仕様で説明がつい性能的な部分に寄りがちなので、まず印象的な部分を述べておくと、本機はとにかく音が気持ち良く、いわゆるポリフォニック・シンセとして欲しいと思うさまざまなサウンドを、慣れ親しんだアナログ・シンセのシンプルな操作ですごく良い状態で取り出せる。件のバイノーラルもあらゆる部分で効果を発揮しているようで、パッドやストリングス的な音色は決して不安定な印象はないのだが延々と聴き続けていられるような音である。
本機にはDDS(ダイレクト・デジタル・シンセシス)と名付けられたオシレーターが2基搭載されている。50MHzサンプリングという高いクロックで聴感の上限を遥かに超える波形を生成可能としていて、実際にそのサウンドはいろいろモジュレーションしてみても従来のサンプリングという言葉から想像するようなものとはまるで違う柔軟なもの。オシレーター1にはSUPERというスイッチが用意されており、オンにすると元の波形と合わせてすべて独立した位相で鳴る計7本が重なった状態をスライダーでステレオ間デフューズできる。
サイン波やノコギリ波、ノイズといった基本波形以外にも32種類の波形を選べる。この時、波形選択ツマミを右に回し切るとパネル上の1〜8、A〜Hの16ボタンが自動的に波形を選ぶモードになり、“ここからここまで選べますよ”と示すようにLEDがリレー点灯する。16個のボタンは2度押しすることで異なる波形を選ぶことが可能。このように画面を一切持たなくても迷うことなく操作ができる工夫が随所に見られるのも本機の特徴だ。ちなみにこの32種は専用フォーマットの波形を用意すれば入れ替えも可能とのこと。2系統のオシレーターはそれぞれ波形の生成方式や挙動も若干異なり、オシレーター2ではPWMも可能。クロス・モジュレーションやオシレーター・シンクのほか外部入力に切り替えることもできる。
続くアナログ・フィルター部にはSSI2144チップを搭載し4ポールのLPFとして動作する。自己発振も可能な上にドライブ・スイッチを使うとレゾナンスを上げても音痩せしない。HPFが周波数固定のオン/オフ式なところにもオマージュを感じるがモードを切り替えるとLPFのCutoffと連動してBPFとしても使用できる。高周波にも設定可能なLFO1やオシレーター2でのモジュレーションも可能だ。
パネル・レイアウトは単にデザインとして優れているだけでなく、多少アナログ・シンセに慣れていれば初見でもスムーズに基本的な音作りが行える。例えば、エフェクター部分にコーラス・ボタンが2つ並んでいてそれらを同時押しすると、思ったとおりのあの効果が得られるといったシンセマニアのツボもしっかり心得ている。マニュアル・ボタン1つで瞬時に現在のパネル状態そのままの音が出るのはもちろん、SHIFTボタンと組み合わせるとイニシャル状態の音に。さらにLFO2関連のパラメーターはすべてベンドレバー付近に集中していて演奏中でもビブラートを詳細に調整しやすく、オシレーターの両方もしくはどちらか片方だけを揺らすような設定もすぐに行える。
シンプルな操作性ながらしっかりとディープな音作りも可能で16ボタンの左1〜8にモジュレーション・ソース、右A〜Hにディスティネーションが書かれていて、これらはいわゆるバーチャル・パッチとして機能し、MOD ASSIGNボタン→3→Fのように順にボタンを押して本体中央付近にあるツマミでアマウント量を決めるだけでパッチングが完了する。その際も16ボタン上のLEDがうまく利用されていてわかりやすい。さらにモジュレーション・ソースにあたる1〜8のボタンを押したまま任意のツマミやスライダーを操作すれば他のさまざまなパラメーターにもパッチングでき自在にモジュレーションできる。
アルペジエーターや最大64ステップのシーケンサーも搭載。24bitステレオ・ディレイはコーラスの後段に接続されていてテンポ・シンクも可能。実はこのディレイ、パネル上はとてもシンプルに見えていながらフリーズ機能が用意されており、MIDIやデュアル・ペダル、もしくはステレオ・スプリッターなどのケーブルをうまく使うと簡易ルーパーのようにも使用できる。
まさに“Super 6”という名前がピッタリくる本機。バイノーラルは決して奇をてらった3 D音響効果などではなく、ごく自然なステレオ空間を作り出せる新たなアプローチだと感じた。(文:Yasushi.K)
製品情報
UDO Audio Super 6
価格●499,800円
Specifications
●鍵盤:49鍵Fatar社製キーボード(ベロシティ、アフタータッチ付き)●DDS 1(オシレーター1):FPGAベースの50MHzサンプリングされたスーパーウェーブ・オシレーターコア+セントロイド・オシレーター、波形=サイン/ノコギリ波/矩形波/三角波/ノイズ/およびユーザーによるダウンロードが可能な16種類の代替波形●DDS 2(オシレーター2):FPGAベースの50MHzサンプリングされたアルゴリズム・オシレータ・コア、波形=サイン/ノコギリ波/矩形波/三角波/ノイズ/パルス、DDS 1にハードシンク可能、LFOモード、サブ・オシレーター・モード●DDSモジュレーター:DDS 1とDDS 2のピッチをLFOとエンベロープでモジュレーション可能、DDS 1は1/2スーパーモードとフルスーパーモードを選択可能、スーパー波形のシスター・オシレーターによるデチューン・スプレッド・コントロール、パルス波のパルス幅コントロール、LFOまたはENV 1を使用したスーパー波形のシスター・オシレーターによるデチューン・スプレッド・モジュレーション、標準波形のパルス幅をモジュレーション可能、DDS 2からDDS 1へのクロス・モジュレーション●LFO 1:ローフリーケンシーとハイフリーケンシー・モード、バイノーラル・サウンド・エンジンを利用したステレオ・エフェクト、ワンショット・モードで追加のエンベロープとして動作、ハイフリーケンシーLFOのキーボード・トラッキングモード、ドローンまたは第3のオシレーターとして使用可能●フィルター:アナログ4ポール・ローパス・フィルター(自己発振可能)、2段階のオーバードライブ、固定フリーケンシーのハイパス・フィルター、またはローパス・フィルターにリンクしたバンドパス・レスポンス●アンプ:固定または可変エンベロープ(ENV 2)モジュレーションを選択可能なアナログVCA●ENV 1:反転可能なホールド、アタック、ディケイ、サスティン、リリース ステージ、モジュレーション・マトリクスでマッピング可能、LFOやFMソースとして使用できるルーピング・モード●ENV 2:アタック、ディケイ、サスティン、リリース、複数のディスティネーションを選択可能●エフェクト:デュアルモード・ステレオ・コーラス、同期/モジュレーション可能なステレオ・ディレイ●アルペジエーター/シーケンサー:MIDI同期可能なマルチモード・アルペジエーター、64ステップシーケンサー、●入出力:オーディオ入力(ステレオ3.5mmジャック)、メインL/R出力(アンバランス3.5mmジャック)、MIDI In/Out/Thru、USB IO(MIDI コントロール、パッチ、シーケンス、波形管理用)、エクスプレッション・ペダル入力、サスティン・ペダル入力、ヘッドフォン●外形寸法:845(W)×360(D)×105(H)mm(ノブを含む)●重量:9.2Kg
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