【製品レビュー】TEENAGE ENGINEERING Pocket Operator Modular 400

14のモジュールで構成された
スピーカー&バッテリーパック内蔵の
組み立て式アナログ・モジュラー・シンセサイザー

低価格で入門向けモジュラー・シンセとしても最適

スウェーデンのシンセやエレクトロ系ガジェットメーカーのティーンエイジ・エンジニアリングから、おしゃれなモジュラー・シンセサイザー・システムが発売になった。ポケット・オペレーター・シリーズの派生で、3つのモジュラー・シンセサイザーがラインナップされている。今回は、その中でも本格的モジュラー・シンセサイザーのPocket Operator Modular 400(以下POM-400)を取り上げたいと思う。

読者の中には、モジュラーはちょっと高価で手が出ない!と思っている方も多いと思う。しかしこのPOM-400は、とてもお手頃価格でモジュラーの面白さを体感できる。実際のところ、モジュラーの基本構成と言えるVCO、VCF、VCAはもとより、ステップ・シーケンサーやノイズ、ランダムといったシンセ・サウンドをリッチにさせるモジュールも搭載されており、計14モジュールがこのPOM-400システムを構成する。ユーロラックのモジュラー・シンセの価格帯を知っている方ならおわかりかと思うが、この14モジュールをユーロラックで構成させようとすると、ケースも含めると数倍の価格になることは容易に想像できるだろう。そういったことも考えると、このPOM-400は入門向けモジュラー・シンセとしてはとても魅力的な製品とも言える。

ただ1点! お手頃な価格であるがゆえに、この製品は自身で組み立てをしなければならない。ケースとなるスチールのパネルを折り曲げて、各モジュールをパネルに組み込むなど、音を出すまでの道のりはやや遠い。しかしこの作業、実に楽しい! プラモデルを組み立てる感覚に似ている。IKEAの組み立て家具の説明書のように文字がほとんどないイラストで構成された説明書は、誰でも理解できるようになっている。筆者も実際のところ、恐る恐る組み立て始めて2時間くらいで組み上がった。でき上がった時の満足感と充実感は、組み立て式だからこそ味わえる。

ケースを折り曲げ、各モジュールをパネルに配置して組み立てる

オシレーターにサイン波を搭載し、おしゃれなサウンドを演出

さて、大事な音というと、ティーンエイジ・エンジニアリングらしいおしゃれなサウンドがすぐに飛び出してくる。オシレーター・モジュールはsquare、saw、sineの3つ。おや?と思う方もいるだろう。なんと本機は、オシレーターの1つにサイン波が搭載されている。ここがミソで、普通ならtriangle、そう三角波が搭載されていることが多い。しかしあえてsineを入れることによって、ティーンエイジ・エンジニアリング感が演出されている。sineでこんなおしゃれな音になるのかとDAWで周波数特性を見ると、なんと! 少し倍音が含まれることを発見。すなわち少し三角波的な要素を持たせることで、フィルターも通せるポップでおしゃれな音を出せるわけだ。

そしてパネルをよく見てみると、LFOにサイン波が搭載されていない。ところがsineオシレーターのtuneを下げて、LFOとして使うことができる仕様になっている。サイン波のLFOも工夫次第で出力させることができるわけだ。純粋な混じりけのないサイン波サウンドが欲しいときは、フィルターを発振させると見事なまでのきれいなサイン波が現れる。

少し個性的なのがエンベロープ。ADSRすべてをゼロに閉じても音が出る。壊れたか?と思い、オシロスコープに信号を入力してみると、なんとCVが出力されている。この設計思想は、初心者に優しいものになっているのではないかと思った。そして各ツマミを変化させていくと、少し独特な動きが! そう、このエンベロープこそ、ティーンエイジ・エンジニアリングらしいサウンドが出る設定がされているように思えた。慣れればさほど難しくないが、一般的なシンセのADSRを想像すると、思ったサウンドとは少し異なった印象となる。1つのモジュールに2つアウトプットが用意されているので、計4つのエンベロープCVが出力できる。パッチングの仕方によっては凝った音作りができそうだ。

モジュールの中で意外と面白い使い方ができそうなのが、16ステップのシーケンサーだ。前進、後進をCVでコントロールできたり、D1〜D4入力(1、5、9、13ステップにスキップできる入力)が用意されているので、単純な16ステップ・シーケンサーではなく、かなり複雑な面白いシーケンスやフレーズ作りができる。まさにPOM-400のシステムのキモと言えよう。

ノイズ・ジェネレーターには、ホワイト・ノイズとソウ・ノイズがある。ホワイト・ノイズは少しハイを抑えた柔らかめのノイズだが、個性的なのがソウ・ノイズ。その名のとおり、ノコギリ波を変調させて作られたこのノイズは、約2.3KHzと4.6KHzにピークを持つ不思議なノイズ・サウンドだ。印象としては、ホワイト・ノイズに比べると鋭いサウンドになっている。マニュアルにはランダム・モジュールのインプットに向いていると記載があるので、試してみると確かに気持ち良いランダムCVが出力された。

もしこのPOM-400でモジュラーにハマってしまったとなれば、ユーロラック・モジュラーとも互換があるので、ここからモジュラーを始めてみるのも良いかもしれない。とにかく、シンセの仕組みを勉強してみたいと思う方にはお勧めだ。時間を忘れてパッチングできるだろう。

そしてこういったモジュラーに慣れてくると、欲しくなるのがマルチプル(信号分配)。残念ながら、POM-400にはマルチプルが用意されていない。困った!と思いきや、実はPOM-400は各モジュールに複数のアウトプットが用意されている。相当複雑なパッチングをしない限り困ることはないとは思うが、信号分配のコネクターやY字ケーブルを少し用意すれば、マルチプルがなくても問題ないだろう。

さらにPOM-400は、電池でもAC/DCアダプター(別売り)でも駆動。小さいスピーカーも用意されているので、どこでも使うことができる。外に持ち出して楽しんでみるのも良いだろう。目立つこと間違いなしだ!(文:江夏正晃 FILTER KYODAI/marimoRECORDS)

オシレーター・モジュールはsquare、saw、sineの3つが用意されている
同シリーズにラインナップされているPOM-170

製品情報

TEENAGE ENGINEERING Pocket Operator Modular 400

価格●77,000円

Specifications

●オシレーター:矩形波、ノコギリ波、サイン波●フィルター ●LFO ●エンベロープ:2 ●VCA:2●サンプル&ホールド ●ノイズ ●シーケンサー:最大16ステップ入力可能●ミキサー ●スピーカー ●付属品:パッチケーブル×15本●電源:単三電池8本もしくは別売りのAC/DC電源アダプターを使用

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