【製品レビュー】WALDORF M
ウォルドルフの伝説的シンセMicrowaveが復活!
ウェーブテーブルとアナログVCF/VCAを搭載した
ハイブリッド・シンセサイザー・モジュール
IとII/XTの2つのモードを切り替えて使用可能
80年代の音楽を変化させたのは、デジタル・シンセサイザーの出現であり、普及度から言えば手頃な価格帯のヤマハDX7が圧倒的であったが、そのFM音源とは異なるウェーブテーブル方式の音源を搭載したPPG Waveは憧れの的であった。青い筐体でデジタル・シンセのわりにツマミがあるというルックスもかっこ良かったわけだが、金属的で有機的な音色の動きはPPGでなければ生成することができず、しかもフィルターがアナログという贅沢な構造により、DX7よりも太く存在感のある音で魅了した。
PPGはその後、ウォルドルフ社が引き継ぎ、Microwave IやMicrowave II/XTという音源モジュールを発表。Waveというフラッグシップ・モデルも圧倒的であったが、その操作性と機能を受け継ぎ、コンパクトな音源モジュールに落とし込んだ8音ポリフォニック・シンセサイザーがこのウォルドルフM(エム)である。紺青の金属パネルにウェーブテーブルのセレクト・ツマミが伝統の赤、というコントラストが精悍である。タイプの異なるIとII/XTの2つのモードも切り替えて使用できる。
さて、機能や音色について見ていこう。パネルに書かれているセクションを見ると、ほとんどアナログ・シンセサイザーのパラメーターと同じであり、一般的なシンセの知識があればマニュアルを見なくてもすぐに操作できる。ざっと紹介すると、オシレーターが2つ(SyncはMode2のみ)、LFOが2つ、リング・モジュレーター(Mode2のみ)とノイズを加えたミキサー、エンベロープ、フィルター、VCA(ベロシティ)、グライド(ポルタメント)、アルペジエーター、そしてそれらを統括すべく、すべての動きを表示する液晶ディスプレイが搭載されている。エフェクターを内蔵していないのが潔い。
一般のシンセサイザーと比べて異色なのは、2つあるオシレーターがウェーブテーブルであることと、エンベロープの選択肢が多いことである。音色パッチ(16バンク、各128サウンド=1024)のセレクト方法だが、右側のSingleセレクト・ツマミを回し、下の←→ボタンでBankセレクトし、左のRecallボタンを押すと音色が切り替わる。もしくは、設定を変更してSingleセレクト・ツマミを回すだけで音色を切り替えるようにすることも可能。また、Singleツマミを押し込むことで4パートのMultiモードになり、その下の←→ボタンで4つのPartをセレクトできる。
ウェーブ・エンベロープで広がるサウンド・メイキング
肝心のウェーブテーブルは96種類(ユーザー32)あり、赤いツマミの外側の黒いリングを回すことで選択できる。内側の赤いツマミは各ウェーブのスタート・ポイントを選ぶダイヤル。本機の顔とも言えるこの二重構造ダイヤルを回すことで、音色が次々と切り替わり、デジタルならではのオシレーター・サウンドを感覚的に選ぶことができる。筆者がこの楽器を使うなら、アナログの質感溢れるストリングスやレゾナンスがかったベル・サウンドを中心に、赤い二重ダイヤルによる音色変化を演奏の手法として活用したいところだ。
エンベロープはVCFとVCA(ここがアナログ!というのが本機の強み)をコントロールする通常のADSRタイプ以外に、Waveの位置を移動するものがTime1〜8、Level1〜8まである。やや難しい部分ではあるが、ここを使いこなせれば、ADSRだけでは表現できなかった時間変化、ディレイがかかったような音作りができてしまうのだ。
中央右のディスプレイは視認性が良く(文字は小さめ)、パネル上のすべてのツマミ動作が横長の棒グラフに反映されるのでわかりやすい。パラメーターを詳しく見るには、ディスプレイ上部に8つあるカテゴリー別スイッチを押し、左側のSoundダイヤル(押し込むとSystemを操作するモードに切り替わる)を回す。ディスプレイ下にある4つのロータリー・エンコーダーは表示されている機能に対応するが、各セクションのすべてのツマミ動作も対応している(つまり2つの操作方法がある)ので、とても感覚的だ。
アルペジエーターの機能も多彩である。ディスプレイを見れば一目瞭然だが、BPM、CLOCK(音価)、Up/Downの仕方、オクターブ・レンジの選択といった一般的な機能のほか、Normal、One Shot、Holdの選択、そして休符の異なる16種のリズミックなパターンから選ぶことができる。
ウォルドルフ社には、近年豊富な製品ラインナップがそろっている。鍵盤付きの最上位機種を狙うならQuantumということになるが、持ち運びの手軽さを考えるならBlofeldシリーズ。ストリングスやボコーダーに特化した機種、そしてすでにアナログ・シンセなどをお持ちでMIDIレイヤーして音色を拡張したい、しかもエディットはアナログライクなツマミでリアルタイムにできなきゃという方には、この“M”はもってこいのモジュールである。(文:坪口昌恭/Ortance、Radio-Acoustique、Tokyo Zawinul Bach)
製品情報
WALDORF M
価格●オープンプライス(市場予想価格:219,800円)
Specifications
●オシレーター:独立したウェーブテーブルを使用可能な2ウェーブテーブル・オシレーター、2種類の異なる音源モデル(Microwave I、Microwave II/XT)、96ファクトリー・ウェーブテーブル+ユーザー・ウェーブテーブル32スロット●フィルター:アナログ ローパス24dB/Oct VCF●アンプリファイア:各ボイスにアナログ・ステレオVCA●エンベロープ:4エンベロープ・ジェネレーター、VCF用とVCA用のADSRエンベロープ、8ポイントのループ可能なタイム/レベル・ウェーブ・エンベロープ・ジェネレーター、自由にアサインできる4ポイントのループ可能なタイム/レベル・エンベロープ●LFO:異なる波形を選択できる2基のLFO●アルペジエーター:16種類のプリセット・パターンを選択可能、コードモード、MIDIクロックにシンク可能●サウンド・ストレージ:2,048種類のサウンド・プログラム、128マルチ・プログラムを保存可能●同時発音数:8(エクスパンション・ボードの増設で16ボイス使用可能)●マルチティンバー:4パート(4系統のインディビジュアル・ステレオ出力へ4パートをアサイン可能)●入出力端子:MAIN OUT(L/Mono、R)、AUX OUT(A、B、C、D)、AUX OUT(TRSステレオ・ジャック)、ステレオ・ヘッドフォン、MIDI(IN/OUT/THRU)、USB 2.0 MIDIポート●外形寸法:440(W)×305(D)×85(H)mm●重量:5.7kg
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