【製品レビュー】BEHRINGER LM Drum
80年代の名機サウンドを核に現代的機能を融合した
サンプリング・ドラム・マシンの最新形

80年代は多種多様なリズム・マシンが登場し、音楽シーンを一世風靡した時代だ。中でもロジャー・リン氏が設計した世界初のサンプリング・ドラム・マシン“LM-1”の後継機LinnDrum(LM2)は、プリンス、ジェネシス、デッド・オア・アライヴ、マイケル・ジャクソンといったアーティストたちが愛用し、時代を象徴する大ヒット曲を数多く生み出した。機種名こそ知らずとも、その音を耳にしたことがない者はいないだろう。その名機を現代に蘇らせたのが、このベリンガーLM Drumである。本機はLM2のルックスを継承しつつも、奥行きや厚みが抑えられ、本家と比べればコンパクトかつ洗練された顔つきに仕上がっている。
まず、本機の操作を理解する上でTAPボタンが持つ役割を知ることが重要なので、最初に記しておきたい。多くのシンセサイザーでは、1つのボタンに複数の機能を割り当て、SHIFTボタンでそれらを切り替える仕様が一般的だが、本機には独立したSHIFTボタンが存在しない。実は本機において、このTAPボタンがSHIFT機能を担っているのだ。このボタンを押しながら他のボタンやツマミを操作することで、二次的な機能にアクセスできる。例えば、TAPボタンを保持したままテンポ・ツマミを回すと、機能がテンポ値→スウィング値→プロバビリティ(発音確率)値→フラム値へと順次切り替わる。TAPボタンから指を離すと、選択した機能の数値を変更できる仕様だ。現在どの機能がアクティブかは、液晶ディスプレイ最下列右端に表示される。ただし、パネルにはこのTAPボタンがSHIFT機能を兼ねていることを示す印字が見当たらないため、初めて触れる際には気付きにくい場合があるかもしれない。
プリセットには、LM1、LM2、Linn 9000の3機種のほか、Sequential DrumTraks、Simmons SDS、Tama Techstarなども網羅されている。さらに、自身でサンプリングした音を加えて独自のドラム・キットを構築することも可能だ。ドラム・キットの管理・編集はBANKボタンから行う。下段のパッド1〜16がキット番号に対応しており、サンプル素材をノート・ナンバー1〜127の任意の位置に割り当てていく。割り当ての際は、液晶右側の“ ▶︎ ”キーからREPLACEを選択し、中央のダイヤルでサンプル素材を選択、クリックすればOKだ。メイン画面では、選択したキットをもとに各パッドのノート・ナンバー変更や個別のピッチ、再生方式(逆再生、ループ再生など)の微調整が行える。さらにMENUページでは、各パッドのサンプル素材ごとにビット数を1から12まで任意に設定することも可能だ。
本機のシーケンサーは、同社のRD-8やRD-9をベースに改良された現代的な機能を備える。最大8曲のソング構成が可能で、曲ごとに最大64ステップのパターンを16個まで作成できる。同社のSynthTribeアプリを使用すれば、PC/Mac上でのエディットやサンプル転送も容易だ。パターン作成は、リアルタイム入力とステップ入力の双方に対応する。ハイハットは右側のボイス・セレクト・ボタンを押すことでオープンとクローズを切り替えて入力できるほか、TAPボタンを押しながらPADSボタンを押すとパッド部が1オクターブの鍵盤となり、音階入力も可能となる。ステップ数の変更は、LENGTHボタンとダイヤル、あるいはパッド操作で瞬時に行える。各パートにはステップごとにプロバビリティ、フィルターのカットオフ、フラム、ノート・リピート、ポリメーターといった機能が用意されている。特にポリメーターは各パートのステップ数を個別に設定できるため、複雑なポリリズムの構築が容易だ。しかも、演奏中に動的にステップ数を変更することにも対応している点は非常にありがたい。

自身でサンプリングした音を加えて独自のドラム・キットを構築することも可能だ。
ライブ時の演奏機能も充実している。STEPボタンを押し、パターン再生中にパッドを点灯させると、その周期でのみノートを付加できる。再生しながら録音ボタンをアクティブにすれば、シームレスな録音やパターンの再構築も可能だ。さらにNOTE REPEATやAUTO FILLが独立しており、TRIGGERボタンとの組み合わせで即興的な連打やフィルインを挿入できる。前述のフィルターやポリメーターも全パート一括でオン/オフ可能なため、トリッキーなパフォーマンスに応用できるだろう。
メインアウトの前段には、強烈なアタックを生み出すWAVE DESIGNERとFILTERが搭載されていて、これらはパートごとに個別に適用できる。フィルターはツマミの動きをオートメーションとして記録できるが、TAPボタンを押しながらONボタンを押すことで、オートメーションの有効/無効のみを随時切り替えることも可能だ。フィルター自体のオン/オフ、パートごとの適用、オートメーションの制御を素早く使い分けられる設計は、ライブ・シーンでも重宝するはずだ。
実際にリズムを打ち込んでみたのだが、ハイハットをベタ打ちしても機械的な連続音にならず、適度な音色変化とグルーブ感を伴って再生される。推測だが、サンプル波形の読み出し位置をランダムにすることによって、波形の立ち上がりにわずかな揺らぎを与え、音色変化やノリを生み出しているようだ。このグルーブ感はかなり効果的であり、リズム楽器としての本機の大きな特徴になると言って良いだろう。
最後に、音質について触れておきたい。本機のサンプリング・レートは12bit/24kHzだ。現代の基準ではロー・スペックだが、その出音はミッド・ローがしっかり鳴っており、アンサンブル内で他の帯域を侵食せず、かつ確固たる存在感を示す“ 引き締まった音”と言える。このため、ミックス時のバランスが非常に取りやすい。こうした帯域のまとまった音は、実はFMラジオやテレビ電波との相性が極めて良い。ほぼ同等スペックのLinnDrumが席巻した80年代、人々の多くが音楽をラジオやTVといったコンシューマーな受信機を通して聴いていた。どのような再生環境でも安定してしっかりと芯が聴こえるLinnDrumの特性こそが、現場で重宝された理由の1つであり、大ヒット曲を生み出してきた要因ではないだろうか。
視聴環境を問わず、現代のリスニング環境でも“ 抜ける音”を鳴らせる本機は、制作においてもライブにおいても、極めて実戦的な1台となるだろう。
文:西田彩ゾンビ

製品情報
BEHRINGER LM Drum
希望小売価格●72,800円(税込)
Specifications
●ボイス数:16●サンプル方式:8/12ビット・サンプリング・エンジン●ドラム・サウンド:109種類●最大ポリフォニー:16ボイス・アーキテクチャ●シーケンサー:64ステップ●パッド:16ベロシティ対応パッド(アフタータッチ対応)●保存:最大8曲、128パターン●接続端子:MIDI IN/OUT、USB Type-B、SYNC IN/OUT、AUDIOIN/OUT、ヘッドホン●外形寸法:479(W)×264(D)×73(H)mm ●重量:3.12kg
お問い合わせ
サウンドハウス TEL.0476-89-1111

