【製品レビュー】WALDORF Quantum MK2

ポリフォニック・アフタータッチ鍵盤と
先進的なシンセシス・エンジンを搭載した
フラッグシップ・モデルの最新版

Quantum MK2は、ドイツを代表するシンセサイザー・メーカー、ウォルドルフが放つ最新のフラッグシップ・モデルである。

キーボード・タイプのシンセサイザーの要素として通常考えられるものは、大まかに分けるとサウンド・クオリティ、サウンド・メイキングにおける自由度や先進性、ユーザー・インターフェース(LCDやツマミなどを使っての音作りのしやすさ)、コントローラー(鍵盤、ホイール類、ツマミなど)のクオリティ(プレイヤーをより自由にする心地よいタッチや演奏性)だが、Quantum MK2はそのどれもが高レベル、さらに高次元で融合しているモデルだ。

Quantum MK2のサウンド・クオリティは、基本的に超ハイファイで、音が前面に出てくるコントラストの効いた強い音だ。両方内蔵しているデュアル・アナログ・フィルターとデュアル・デジタル・フィルターの音質的な違いや、デュアル・デジタル・フィルターのプリセット(カーブの特性だけではなく、Dirtyなどの質感を変えたものまで多数用意されている)が存分に楽しめるだろう。

サウンド・メイキングにおける自由度や先進性に関しては、前述のフィルター切り替え/併用や充実したモジュレーション・マトリクス、3基のデジタル・エフェクトに加え、詳細は後述するが、5つの生成アルゴリズム、①ウェーブテーブル②基本波形③マルチサンプラーおよびグラニュラー・シンセシス(パーティクル・ジェネレーター)④物理モデリング(レゾネーター)⑤FM(カーネル)を切り替えることができる3基のオシレーターが特徴的だ。CPUに余裕があるようで、処理が複雑であろうグラニュラー・シンセシスや物理モデリングにおいても、パラメーター変更はリアルタイムで出音やディスプレイに反映され、ストレスを感じることがない。

3基のオシレーターでは5つの生成アルゴリズムを切り替えて幅広い音作りができる

ユーザー・インターフェースに関しては、まず目につくのがパネル中央に配置された大きく鮮やかなディスプレイだろう。これはタッチパネルになっていて、反応もいい。ツマミを回した瞬間にそのパラメーター関連のページに飛ぶのだが、ディスプレイ上部には各セクションに直接飛べるボタンもあり、初期状態(サイン波)から音作りするときなどに便利だ。パネル上のツマミやボタンは1つ1つカラフルなLEDを伴っており、パラメーターの使用状況が視認しやすい。

そしてプレイヤーにとって重要なのはコントローラーのクオリティ、もっと言えばタッチだ。Quantum MK2のキーボードはセミウェイテッドで、適度な重みがありしっとりとしている。しかしここで特筆すべきは、この鍵盤を使ったポリフォニック・アフタータッチ(1鍵ごとにかかるアフタータッチ。Quantum MK2も音源部でフル対応しているMPE=MIDI Polyphonic Expressionの先駆的存在)が、いきなり効果が大きくなったり小さくなったりせず、かなり音楽的に、スムーズなカーブで音色を変化させられることだ。

キーボード以外のコントローラーでは、銀色に光るピッチベンダーやモジュレーション・ホイールも印象的なのだが、演奏に使えるものとしての一番は、実はツマミ類なのではないかと思う。大きさや色で4種類に分かれていて、例えばフィルターのカットオフのツマミなどはかなり大きく、色は銀色で目立っている。そして他のツマミもだが、ある程度の重み(トルク)があり、回していて心地いいのだ。だから積極的に使って音色を変化させていきたくなる。まさにシンセシスト、キーボード・プレイヤーの気持ちを理解した設計だと思う。

ポリフォニック・アフタータッチ鍵盤を搭載、音楽的にスムーズなカーブで音色を変化させられる

さて、ここでもう一度、Quantum MK2の先進性(これが機能的な個性にもなっている)の例として、5つの生成アルゴリズムを切り替え可能な3基のオシレーターを詳しく見ていこう。歴史的銘機PPG Waveの音色から現代のソフト・シンセNaveの機能までを内包し、スピーチ・シンセシスやオーディオの読み込みも可能なウェーブテーブル・ジェネレーター。クラシック・シンセサイザーの基本的波形を生成し、同時発音数を減らさず1オシレーターにつき8オシレーター分のユニゾン/デチューン効果が得られるウェーブフォーム(基本波形)・オシレーター。物理モデリングの手法を用い、透明度の高い金属音などを作り出せるレゾネーター。クラシックなFMシステムに加え、ウェーブテーブルによるモジュレーションまでが行えるカーネル・シンセシス。これら4つも先進的なのだが、中でも今回試奏していて個人的に大きな可能性を感じたのが、サンプルやグラニュラー・シンセシスを扱うパーティクル・ジェネレーターだ。

大型ディスプレイ上でのカラフルで秀逸なグラフィックも相まって、この新しいシンセシスの概念やパラメーターの変更で起こっているサウンドの変化がとても理解しやすい。Quantum MK2でのグラニュラー・シンセシスでは、単層のサンプル分割だけではなく、サンプルを複層化し、各層のポイントをずらして分割することにも対応していて、再生速度や再生方向を変えて音作りしていく。さまざまな大きさのノイズの粒子と音程感が混じったようなサウンドを生成できるので、例えば内蔵リバーブをたっぷり使えば、SF映画の宇宙シーンや心理描写シーンなどに一層の深みと広がりを与えてくれそうだし、アンビエント感のある音楽でも大きな威力を発揮してくれそうだ。ドライにしてフィルターをかけて、グリッチホップなどの音楽に使うのもいいだろう。

最後に、Quantumの前バージョンとの違いは、同時発音数が8音から16音(アナログ・フィルター全ボイス使用時は8音、アナログとデジタルの併用時もしくはデジタルのみの使用時には16音)に強化されたこと、サンプリング容量が3.4GBのサンプルと3,000種のプリセットを含む総量59GBにまで拡張されたこと、デュアル・アナログ・フィルターとデュアル・デジタル・フィルターの連携が強化されたことなどで、兄弟機種Iridium/Iridium Keyboardとの違いは、デュアル・アナログ・フィルターのあるなしと鍵盤数(Iridiumは音源モジュール、Iridium Keyboardは49鍵)だ。

Quantum MK2は、先進性と操作性、演奏性が見事に融合した、現代のモンスター・シンセの一角だと言うことができるだろう。(文:堀越昭宏)

製品情報

WALDORF Quantum MK2

価格●オープン・プライス(市場予想価格:679,000円/税込)

Specifications

●鍵盤:61鍵(Fatar TP/8SKキーボード、ポリフォニック・アフタータッチ対応)●最大同時発音数:アナログ・フィルター使用時8、デジタル・フィルター使用時16●ステレオ・デジタル・オシレーター:3基(ウェーブテーブル、ウェーブフォーム、パーティクル、レゾネーター、カーネル)●アナログ・ローパス・フィルター:2基●デジタル・フィルター:2基●LFO:6基●エンベロープ:6基●モジュレーション・マトリクス:40スロット●デジタル・エフェクト:8種類(フェイザー、コーラス、フランジャー、ディレイ、リバーブ、EQ、オーバー・ドライブ、コンプレッサー)●外形寸法:1,006(W)×131(H)×401(D)mm●重量:17.8kg

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