【製品レビュー】Expressive E Osmose

鍵盤の動きでピッチや音色が縦横無尽に変化し
イマジネーション溢れるサウンドを生成する
次世代音源を内蔵した革新的シンセサイザー

ユニークな入力デバイス、Touchéで話題を集めたエクスプレッシブ・イー社からリリースされた超革命的なキーボード、Osmoseを紹介しよう。まず、OsmoseにはHAKEN AUDIO(ハキン・オーディオ)社のDSPシンセサイザーEaganMatrixを内蔵。FMからバーチャル・アナログ、フィジカル・モデリングなどをシームレスに混在させた次世代音源で、同時発音数は24音である。

オーガニック・トーンと独特のアタック感はモデリング感強めのリアルさを醸し出し、VCF風味のフィルターも相まって、一度耳にしたら忘れないシルキーな質感だ。エッジー感は少ないが、モーグ・テイストのシンベは上品かつ埋もれない立体感。ブラスやパッド系も実にエレガントに楽曲を彩ってくれる。特にパーカッシブ系サウンドは、繊細な立ち上がりやベロシティに対する出音のバリエーションもダイナミックで唯一無二な存在感だ。

この最新型音源に、Touché の機能を持つ49鍵盤を合体させたのがOsmoseと思ってもらえばだいたい正解である。本体奥まで延長した特殊な鍵盤は、微細かつ3D立体的な振動すべてを検知する稀有な構造だ。その最大の特徴は、ベンディング(ピッチベンドとは別)。鍵盤を左右に揺らし、ピッチ変化させる機能だが、実は70年代のヤマハの超弩級エレクトーン、GX-1に搭載されていたこともある(鍵盤全体が上下左右に動いた記憶だが)。しかし本機は、MPE(MIDIポリフォニック・エクスプレッション)という規格を持ち、チャンネル・アフタータッチ、CC74などを駆使し、ノートごとのピッチ&フィルター変化をはじめ、和音レベルでのさまざまなジェスチャーが可能となっている。

新開発のAugmented Keyboard Action鍵盤は、3方向の動きに対応。自由自在な演奏表現が可能だ

具体的に紹介してみよう。まずパネルのsensitivityボタンから、bendingを選択。1stは半音、2stは全音、3〜96はその半音分ピッチ移動させるので、96のベンディングは音というより宇宙からの警告音だ。1/2、1/4、2/3、3/2は半音領域以外への移動を意味するのだが、単なるドミソでもかすかな指の左右の揺れでピッチが微妙にポリフォニックで揺れるので、モジュレーション系では絶対得られないスピリチュアル・サウンドになり、12音階で収まらないインドのラーガ的なチューニングの奥深さも堪能できる。繊細な指さばきが勝負ゆえ、二度と同じ表現はあり得ない偶発的な面白さもある。

例えばbendingを2st(全音)にしてドミソ(左手もド)を弾く。この時点ですでに正確なドミソではない。かすかに指が揺れるからだ(センスの調整は可能)。トップのソを右へ少し移動させるとソ♯寄りになり、最大でラへ到着する。コードはC→C+5→C6。しかし単純にそう聴こえるわけではない。ソとソ♯とラの間の無限のピッチを通過する神秘的なコード・トーンとなる。今度はミを右へ少し移動するとファ、逆に一気に左へ寄せ切るとレ、コードはC→Csus4→Csus2。そこからミを少し右へ戻すとCm。というように、コード・チェンジを指の移動なく再現。微妙なピッチの不安定要素を含みつつ、実に音楽的&ファジーなアトモスフィア・シンセ・サウンドに恍惚となる。さらに12stに設定すると、左右に移動させた鍵盤だけ1オクターブ移動するので、左手のベースのみ1オクターブ下のルートへグライド的に落とし込むこともできる。そのスピード感も自由自在。これがMPEの醍醐味だ。もちろんアフター・タッチも同様に鍵盤ごとに動作するので、フィルター・アサインしたサウンドであれば指ごとのカットオフの開閉などが楽しめる。

“sensitivity”のパラメーター表示画面。鍵盤の動きに対する細かな
パラメーター設定が行える

さて、DAWとの連携も検証してみよう。付属USBケーブル経由でMacならドライバーも必要なく、一発認識。まず筆者のシステムM1 Mac miniのLogic Pro XにてExternal Instrumentトラックを作成、MIDI入力ポートとMIDI DestinationをOsmoseポートにアサイン。MIDI入力&出力もチャンネルは“すべて”を選ぶ。それからOsmoseのローカル・コントロールの設定も忘れずに。これで本体を弾けばUSB経由で音が鳴る。早速両手の和音演奏をMPEモードで録音してみた。再生すると、録音されたMIDIデータは完璧に再現されており、データを見るとアフター・タッチもMIDIチャンネル&ノートごとに独立してパラメーターを動かし、左右に揺らすことで出力されるCC74データも同様に独立して記録されている。また、Osmoseのエディター・ソフトもダウンロード可能だ。

外部音源へのアプローチだが、MPE対応ハード・シンセはまだ少ないが、ソフト・シンセは多数存在しており、Logic内のRetro SynthもMPE対応(MIDI Mono Modeをオン)であった。なお、MPE設定は各ソフト・シンセで違うので、調べてみてほしい。Retro Synthでも、鍵盤を左右に揺らすとビブラートがかかるだけでなく、和音の場合Osmose同様に任意の鍵盤のみピッチを揺らすことも、Cコードから全く別のサウンドを生み出すこともOK! 従来の鍵盤をMPE化するプラグインもあるが、当然鍵盤の左右の動きは追従しないので、好みの音源&音色でこの縦横無尽なベンディングが活用OKなのは、相当なアドバンテージで超絶楽しい。

描きたい情景を指に託す深い造詣。舞い降りる感覚に任せて一発勝負なプレイにマジックが宿るOsmoseは、AIと対峙するかのような人間味溢れる“シン・シンセサイザー”だと言えるだろう。(文:近藤昭雄)

製品情報

Expressive E Osmose

価格●オープン・プライス(市場予想価格:330,000円/税込)

Specifications

●鍵盤:3軸方向の操作が可能なフルサイズ49鍵盤●機器構成:スタンドアロン・シンセサイザー、MPE MIDI コントローラー、クラシック MIDI コントローラー●サウンド・エンジン:EaganMatrix(Haken Audio によるデジタルモジュラーエンジン)●最大同時発音数:24音●インターフェイス:カラーLCDスクリーン、ピッチ&モジュレーション・スライダー●ペダル入力:サステインまたはシンセ・パラメーターを割り当て可能な2つのコンティニュアス・ペダル入力●MIDI:MIDI IN、MIDI OUT / THRU(DIN)、USB(Type-B)●オーディオ出力:2つの1/4インチTSアンバランスライン出力、1/4インチTRS ヘッドフォン出力●ソフトウェア:ファームウェアやライブラリ更新用のアップデーター、サウンドを作成・編集するための Mac / PC 用エディター●外形寸法:894(W)×316(D)× 87.5(H) mm●重量:8.3 kg

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