【製品レビュー】Expressive E Osmose

直感的な動きで鍵盤をコントロールし
これまでになかった音楽表現を可能にする
新世代の“エクスプレッシブ・シンセサイザー”

Expressive EからリリースされたOsmoseは、画期的な操作性と表現力を持ったコントローラーである“Touché”にも通じる演奏表現力を備えた新世代のシンセサイザーです。本体を見た第一印象は、コントロールのための操作子は左側に集約されたシンプルながらも洗練されたデザインで、スタイリッシュかつ近未来的なシンセサイザーというものでした。

Osmoseは、Haken Audioによるサウンド・エンジン“EaganMatrix”によるFM、バーチャル・アナログ、フィジカル・モデリングのシンセシスが行えるだけでなく、それらの中間的なシンセシスに対応した49鍵キーボード・タイプのシンセサイザーです。プリセットは500種類用意され、各プリセットに応じて構成されている“マクロコントロール”によるエディットが可能です。

前述のとおり操作子やディスプレイは必要最小限の構成といった感じですが、プリセット選択や各種セットアップを行うページなどへのアクセスや操作も容易ですので、本体操作に煩わされることなく演奏に集中できる点が良いですね。

鍵盤を左右に揺らしたり押し込んだりすることで、さまざまな表現が可能

実際にOsmoseを試奏してみると、新開発の鍵盤のタッチや弾き心地は今までにない感触で、鍵盤のレスポンスに少々戸惑いを感じました。本製品の大きな特徴となっている鍵盤を左右に揺らしてアーティキュレーションを付加する“ホリゾンタル・タッチ”によるレスポンスを、最初は探りながら触っていたためです。ホリゾンタル・タッチは、これまでも一部の鍵盤楽器では装備しているものもありましたが、実際に演奏したのは今回が初めてでした。いろいろ試してみたところ、内蔵のプリセット音色の多くではピッチベンド的な効果がアサインされていたので、これまで左手でホイールやベンダーなどを使っていたアーティキュレーションをホリゾンタルタッチで同じように表現するコツをつかむのが良いようです。

もう1点、演奏を行なう上で感じたのはアフタータッチのレスポンスに慣れておくのが良いということです。Osmoseの鍵盤は打鍵後にかなり深くまで押し込めるため、ベロシティによる強弱やアフタータッチの効き具合などのダイナミクス・レンジがかなり広いように感じられました。最適なレスポンスを得られるようにするには、どの辺りがベロシティの最大値に到達するのかということと、どれくらいの深さからアフタータッチの効果が聴き始めるのかを把握しておくとスムーズな演奏につながります。ちなみに本機にはポリフォニック・アフタータッチが採用されており、弾いた鍵盤ごとに異なるアフタータッチが得られるため、和音演奏の際でも特定の音だけにアフタータッチを付加することが簡単にできます。これだけでも十分に他製品よりもアドバンテージがあるのですが、それだけに留まらない点も好印象でした。

実際に試奏し始めた段階では、かなり深くまで鍵盤が沈むので必要以上に力を入れて弾いてしまいましたが、力を入れすぎると弾いた鍵盤が微妙に左右に揺れるため、ホリゾンタル・タッチが加わってしまい、演奏するフレーズに対して不必要なピッチベンドがたびたびかかりました。音色によってはそれが演奏の揺らぎになって良い場合もありますが、逆に鍵盤楽器系の音色の場合は不自然な演奏になるため、打鍵する際のコツをつかむこともポイントとなります。これを最初にチェックしておくことで、必要以上の腕力を使用した弾き方をしなくて済むでしょう。

また、本体左部に用意されている2本のスライダーはピッチベンド用と任意のシンセ・パラメーターをアサインしてコントロールするためのものになっていますが、このパラメーター・コントロール用のスライダーもアーティキュレーションにかかわってくるため、Osmoseの演奏表現力のポテンシャルの高さを感じます。 例えば、パーカッション系やプラック系の音色などでは倍音構成の変化やフィルタリングのモジュレートがコントロールできるようになっており、控えめに言っても劇的なサウンド変化が得られます。OsmoseにはMPEアルペジエーターも装備していますが、オーソドックスな使い方のほか、各ノートをトリガーして効果を得られるため、トレモロ奏法的な使い方もできます。特に打楽器系の音色全般で使用すると効果的ですし、前述のスライダーでトレモロの速さなどがコントロールできますので、これらをどのように活用するかは演奏者の創造性次第と言えるでしょう。

500種類用意されたプリセットは、それぞれに異なる音色変化を鍵盤やスライダーで付加できる

プリセット音色をひと通り演奏してみて、リード系、パッド系、プラック系、パーカッション系などの音色が本機の表現力との相性がとても良いと思いました。それらの中で気に入ったプリセットをいくつか紹介しましょう。

まずはリード系のプリセット“classicana lead”です。ブラス系のシンセ・リード風の音色ですが、アフタータッチによるフィルター・カットオフの変化に加えて、Osmoseの機能の1つであるノート間のグライド・タイムをダイナミックにコントロールできる、“プレス・グライド ”を利用した効果がユニークです。例えばドの鍵盤を押さえたまま、上のミの鍵盤を演奏するとレ(付近)の音が発音してドの鍵盤を離した瞬間にミの音が発音するのですが、同様にドの鍵盤を押さえたまま、上のラの鍵盤を演奏するとファ(付近)の音が発音してドの鍵盤を離した瞬間にラの音が発音されるというように、音程の開き具合で中間値的なピッチが変わる点に新しさを感じます。

パッド系のプリセット音色“anatolian pad”は、各ティンバーの演奏ピッチが5度上と9度上のチューニングに設定された柔らかい質感のサウンドですが、アルペジエーター的なトレモロ効果とスライダーでコントロールできる異なるトレモロ効果によって、白玉コードを押さえながらアフタータッチやホリゾンタルタッチを使用して変化させると独特の空気感が得られました。

プラック系のプリセット音色“fruku”は、フィジカル・モデリングで合成したようなサウンドで、普通に演奏すると三味線と琴の中間的な音色ですが、アフタータッチで尺八的なサスティンが得られるほか、スライダーを徐々に変化させるとサウンドが派手なハープシコードのような音色に変化していく複雑な表現力を持った音色です。

最後にもう1つ、パーカッション系のプリセット音色“tablast”は、エスニック楽器のタブラをモデリングしたような音色で、ベロシティやアフタータッチによる音色変化のレンジが広い演奏し甲斐のあるプリセットです。楽器本体の胴鳴り音と場複雑な倍音構成を持ったアタック音のバランスをスライダーで変化させることもできます。

なお、Osmoseはファームウェアアップデートによって機能が随時更新されていく予定で、現状ではすべての機能にアクセスすることはできませんでしたが、今回試奏したプリセット音色のサウンド・クオリティーはもちろん、個性的な新開発鍵盤の演奏性のユニークさなど、すべての点において鍵盤楽器としてのシンセサイザーの可能性を一歩進化させた楽器だということを実感しました。今後のアップデートが待ち遠しく思える製品です。(文:内藤 朗/有限会社FOMIS)

製品情報

Expressive E Osmose

価格●オープン・プライス

Specifications

●鍵盤:3軸方向の操作が可能なフルサイズ49鍵盤●機器構成:スタンドアロン・シンセサイザー、MPE MIDI コントローラー、クラシック MIDI コントローラー●サウンド・エンジン:EaganMatrix(Haken Audio によるデジタルモジュラーエンジン)●最大同時発音数:24音●インターフェイス:カラーLCDスクリーン、ピッチ&モジュレーション・スライダー●ペダル入力:サステインまたはシンセ・パラメーターを割り当て可能な2つのコンティニュアス・ペダル入力●MIDI:MIDI IN、MIDI OUT / THRU(DIN)、USB(Type-B)●オーディオ出力:2つの1/4インチTSアンバランスライン出力、1/4インチTRS ヘッドフォン出力●ソフトウェア:ファームウェアやライブラリ更新用のアップデーター、サウンドを作成・編集するための Mac / PC 用エディター●外形寸法:894(W)×316(D)× 87.5(H) mm●重量:8.3 kg

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