【製品レビュー】MODAL ELECTRONICS COBALT5S
多種多様なアルゴリズムにより
現代的で複雑なサウンド・メイキングが行える
可搬性に優れたバーチャル・アナログ・シンセ
モーダル・エレクトロニクスのCOBALT5Sは、5ボイス、37鍵のミニ鍵盤を搭載したエクステンデッド・バーチャル・アナログ・シンセサイザーである。同社で好評なCOBALT8の独創性ある多彩な万華鏡のような現代的サウンドをそのままに、ボイス数を5ボイスに(COBALT8は8ボイス)、そしてとにかくコンパクトにして、外出先でも卓上でもクオリティの高いサウンドを存分に堪能できるモデルとなっている。
まず箱を開いてその小ささと軽さにはびっくり。幅こそCOBALT8とほぼ同じであるが、奥行き16.2cm、しかも激薄で、重さは2.4kgしかない。さらにUSBバッテリー駆動も可能で、ノートPCとつないで外出先でも曲作りができる。これだけコンパクトで軽いのに、音を出してみると見た目とのギャップにしばらく戸惑いを隠せないほどだ。
それもそのはずで、本機は2つの独立したオシレーター・グループを持ち、それぞれ40もの異なるアルゴリズムを搭載している。それらのアルゴリズムには、複雑多様なアナログ・シンセシス、クロス・モジュレーション、PWM VA波形間のモーフィング、ビット・クラッシュ、フィルタード・ノイズなどが含まれ、非常に複雑なサウンド・メイキングの可能性を秘めていると言える。実際プリセットを聴くと実に多種多様で、色彩感のある音色からくぐもった浮遊するようなものまで、アレンジやトラック作りにすぐにでも使いたくなるサウンドがこれでもかというくらい並んでいる。また、モーダル・エレクトロニクス社らしい時間軸に沿ってサウンドが動的に変化するパッチも多く、現代的シンセ・サウンドを探している方にはピッタリの機種だと言えるだろう。でも複雑なアルゴリズムの理解だけでも相当時間がかかりそう、難しそうと思っている読者の方、心配はいりません。それぞれのアルゴリズムには、複雑な音作りをたった2つのパラメーターで簡単に行えるように、あらかじめ入念に設定されているのだ。なので本機は、初めて触っても直観的に楽しめるシンセと言えるだろう。実際、筆者も相当長い時間夢中で遊んでからこの原稿を書いているのだ。
操作性も見てみよう。さまざまな設定や音作りを行いたいときには、本体真ん中にある小さな液晶の左右のエンコーダーが重要だ。これらがPageモードの操作となっていて、本機のパラメーターが機能ごとにPageとしてまとめられているので、簡単に設定したい項目、あるいは調節したいパラメーターに行き着ける。目次がついているようなものだ。そのほか、シーケンスやアルペジエーターの操作も含め、演奏中や音作り中によく使うパラメーターは、14個のエンコーダーで迷うことなくどんどんいじっていける。しかもこのエンコーダーは二次機能も割り当てられているので、ModボタンやShiftボタンを押しながらだと役割が変わるというわけだ。これによって、非常に多くの操作を少ないボタンで調節、設定することが可能だ。たとえばFilterのCutoffのエンコーダーは、Shiftボタンを押すとコーラスのMod Depthのエンコーダーになるといった具合だ。
フィルターは、構成を切り替えできる4ポールのモーフィング可能なラダー・フィルターを搭載。とても滑らかにサウンドが変化するのは非常に快感であり、リアルタイムで演奏中のフィルター操作をするだけでも相当楽しいものだ。エンベロープ・ジェネレーターは、フィルター、アンプ、モジュレーション用に3つの独立した4ステージのものを備え、マイナス方向にもアマウント可能だ。LFOは、さまざまなモードを備えた独立した2機。こちらも設定次第でアナログ・シンセよりも遥かにいろいろ遊べそうだ。モジュレーションも、11のソースと41のディスティネーションを設定できる強力なモジュレーション・マトリクスを搭載している。アルペジエーターも直感的にプログラムが可能だ。エフェクトはステレオのコーラスとディレイを搭載。パッチ・サウンドを聴いてもサウンドの広がりや奥行きが感じられて、オケやトラックにもしっくりくると思う。
そのほかにも、5軸のX/Y/Z感圧タッチパッドは多彩なモジュレーション・ディスティネーションにアサインすることが可能。小さいパッドながら、面白いくらいにサウンドがさまざまに変化する。また、5ボイスでは足りないという方は、ポリチェイン機能で2台のCOBALT5Sを接続すれば10ボイスとして使える。本機は単体でも比較的簡単に操作できるとはいえ、設定できるパラメーターは非常に多く複雑だ。そんなときは、MODALappというMODAL製品に対応したアプリを使用することにより、サウンド・メイキングやエフェクト、シーケンスなどの設定を視覚的に捉えながら行うことができる。また、音色の管理などにも便利であろう。
以上のように、本機はバーチャル・アナログ・シンセにカテゴライズされ、アナログ・シンセ・ライクな存在感のあるサウンドの傾向を持ちながらも、アナログ・シンセよりも遥かに多彩で複雑なサウンドを奏で、かつ5軸のパッドやOscDrift、Arp、Seqによる演奏性は、いわゆるアナログ・シンセの表現力とは比べ物にならないくらい進化していると言える。このサウンド・クオリティ、表現力がこの小さな本体から出てくることに、レビューを書き終えようとしている今も感心しきりである。センスのいい美味しいサウンドもたくさんプリセットにあるので、あらゆるサウンド・クリエイターにオススメできる機種と言えるだろう。(文:YANCY)
製品情報
MODAL ELECTRONICS COBALT5S
価格●オープン・プライス(市場予想価格:65,800円)
Specifications
●鍵盤数:37鍵●同時発音数:5ボイス・ポリフォニック●MPE:MPE互換のMIDIコントローラーを接続可能●オシレーター:2つの独立したオシレーター・グループ、それぞれアルゴリズムを選択可能/40種類のアルゴリズム/エクステンド・オシレーター・ドリフト●フィルター:4ポールのモーフィング・ラダー・フィルター●モジュレーション:アンプ、モジュレーション、フィルター用に3つの専用エンベロープ・ジェネレーター/テンポシンク可能な2つのLFO、7種類の異なる波形を選択可能/8つのアサイナブル・モジュレーション・スロットと4つの固定モジュレーション・ルーティング●シーケンサーとアルペジエーター:512ノートのポリフォニック・リアルタイム・シーケンサーとステップ・シーケンサー、4つの記録&エディット可能なパラメーター・アニメーション/ステップ・シーケンサーは最大64ステップ、1ステップあたり5ノート、4レーンのパラメーターロック・アニメーション、ステップ入力モード、ゲート・モードとレスト機能を含む複数の再生モード/32ステップのアルペジエーター、リピートなしで最大2048ステップまで設定可能●エフェクト:コーラスとステレオ・ディレイ、2つのステレオ・エフェクト・エンジン●ユーザー・メモリー:エディット可能な300個のパッチメモリー、200個のファクトリー・プログラム/100種類のシーケンサー・プリセット/4つのクイック・リコール・スロット●コントロールとパフォーマンス:16個のスイッチ・エンコーダー/5軸 X/Y/Z感圧タッチパッド/Mono、Poly、Stack 2、Unison 2、Unison 4のキーボード・モード/グライド&ポルタメント機能、レガート・モードとスタッカート・モードを設定可能●入出力端子:ライン出力、ヘッドフォン出力、MIDI DIN入出力、アナログ・クロック・シンク入出力、USB MIDI接続、サスティン・ペダル入力●電源:USBバスパワー駆動またはDC-9.0V-1.5Aセンタープラス(※ACアダプターは別売)●エディターソフト:無料のMODALapp、DAW内で使用できるVSTおよびAUプラグイン・バージョンMODALplugin●寸法:565(W)×162(D)×57(H)mm●重量:2.4kg
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