【製品レビュー】PWM Mantis

シンセ界の異端レジェンドが回路をデザインした
個性的なサウンドを持つ
現代型デュオフォニック・アナログ・シンセ

Mantis=カマキリの名前を持つイギリスのシンセ・ブランド、PWM製のデュオフォニック・シンセ。車好きのバックヤードビルダーが個性あるバイクや車を手作りしてしまう、そんなイギリス人気質が滲み出る実に個性的な1台だ。シンセ愛とパッションに溢れ、独自のこだわりが随所に見られる、大手ブランドとは一線を画す現代型ハイブリッド・アナログ・シンセ。そんなMantisを見ていこう。

絶妙な緑色の取り外し可能なサイドパネルを持つMantisであるが、小さく軽い躯体(たった5.3kg)にこれでもかというくらい所狭しに小さいボタンとノブが並ぶ。言うまでもなく、すべての音作りや演奏中のシンセサイズが、階層なくダイレクトにできるためだ。最初ボタン類が小さいかなとも思ったが、実際の操作感は快適である。それにシンプルな構成と音の流れに沿ったセクション分けがきちんとされているので、箱から出してすぐに操作ができるのがいい。シンセ好きなら特に問題なく操作可能だ。

しばらく弾いてから、このサウンド何かに似ているなあと思い検索。すぐに答えが出た。シンセ好きなら誰もが知っている名機、OSC arやWASPの産みの親である、シンセ・エンジニアのクリス・ハゲット(2020年没)が亡くなる直前にアナログ回路をデザインしたのが本機だ。まさにシンセ界の異端レジェンドの遺作と言えるシンセだったのだ。オシレーターやアナログ信号回路がクリス・ハゲット・デザインということで、Mantisの出音は図太くはないが独特な雰囲気を持ち、WASP同様モーグなどとは明らかに異なった印象を受ける。俄然楽しくなってプリセットを次々に試してみた。プリセットの音にはインダストリアル・ミュージックや音響系、シネマの音楽にも合いそうなサウンドが並んでおり、このシンセの独特の世界観が感じられた。

5.3kgという軽い躯体に、ボタンとノブがずらりと並ぶ外観を持つMantis。
緑色のサイドパネルは取り外しが可能となっている。

さて、Mantisの構成と機能を見ていこう。本機はデュオフォニック(2音)・シンセで、オシレーターは1ボイスにつき2つとサブ・オシレーター1つ。なので、デュオフォニックでは4オシレーター、2サブ・オシレーターということになり、シグナル・パスも2系統だ。VOICINGセクションにはなんとQuadモードがある。4音シンセとしても弾けるのだ。また、Voice Panツマミで左右へ広げることもできる。他のモノシンセやデュオフォニック・シンセと違って、サウンド的にもオルガンやメロトロン的な(ポリフォニックでこそ活きる)サウンドも出せるので、この機能はありがたい。

波形はサイン波、三角波、ノコギリ波、パルス波、オルガンのような波形など全6種。どの波形もShapeツマミでポジティブ/ネガティブにハーモニクスをコントロールできるので、多彩なサウンド・カラーが出せるであろう。また、シェイプ・モジュレーションやピッチ・モジュレーションのツマミもオシレーターそれぞれにあり、プラスマイナスどちらにも回せて、演奏中に操作すれば効果大。オシレーター2にあるSemitoneツマミやCentツマミで、2つのオシレーターのチューニングを演奏中にずらすのも効果的だ。オシレーター2 のセクションにあるDensityとDensity Rateツマミも、音響系などでは面白い効果が出せる。そのほか、OSC DRIFTツマミでビンテージ感もコントロールできる。とにかく一般的なリードやベースに使いたくなるモノシンセとは正反対で、音像などにこだわるアーティスティックなクリエーターに支持されるであろうサウンドだ。

フィルターは、デュオフォニック時には3種(LP12、BP12、HP12)だが、モノや4音で使う時には8種(前述のほか、LP24、BP24、HP24、Wide Band、Wide Notch)と多彩。しかもフィルターのWidthやDriveツマミを併用すれば、サウンドメイクにさらなる幅が出るだろう。

VOICINGセクションにはQuadモードがあり、4音シンセとしても演奏できる。
波形は6種類を搭載し、Shapeツマミでコントロールして多彩なサウンド・カラーを出せる。

LFOは2系統、波形は6種。LFOを効かせるタイミングをフェードイン/アウトできるツマミが実にいい。エンベロープはアンプリチュード用のADSRのENV1と変調用のADSRのENV2。どちらもVelocityとSustain Fallツマミがあり、プレイ中やシーケンスで動かしている最中にサウンドに変化をつけるにはもってこいだ。

アルペジオのモードは6種。オクターブは1から6。プラスマイナスどちらにも動かせるSwingツマミが演奏に変化を与えてくれるだろう。MOD ROUTESのセクションも使い勝手がいい。モジュレーションの元や変調先を指定するのもワンタッチ、現在の設定も一目瞭然だ。リング・モジュレーター搭載も本機のようなサウンドには嬉しいところ。筆者の世代には懐かしくもあるジョイスティックも、軽くて俊敏な動きにも対応してくれた。デジタル・リバーブ、コーラスも付いており、プリセット100(書き換え可)、ユーザーパッチ100、アフタータッチやベロシティへの反応もすこぶるいい37鍵。PCと本機1台で無機質なコンクリート空間でライブをしたら、さぞかし絵になるだろうなと想像してしまった。

ざっと見てきたが、Mantis最大のポイントは個性的なサウンドにあると思うが、シンセを使っての表現という意味での操作性にもすごく提案が感じられる機種だと思う。他社のシンセでは見かけない独特なパラメーターをいじれるツマミがいくつもあり、ポジティブ、ネガティブに回せるというこだわり。イギリス人気質を感じさせる1台だ。インダストリアルや音響好きな方は、ぜひ一度Mantisを試奏してみることをオススメする。ハマる人はどっぷりハマる、そんな機種であろう。(文:YANCY)

製品情報

PWM Mantis

Specifications

●鍵盤:37鍵(アフタータッチ、ベロシティ対応)●ユーザーパッチ:200(100ファクトリー・プリセット、100ユーザー・プリセット、書き換え可)●2つのアナログ信号パスを備えたデュオフォニック●ボイスごとに2つのオシレーターとサブオシレーター●2つのLFO●2つの独立したエンベロープ●6種類のモジュレーション・パラメーター●アルペジエーター:6種類●フィルター:8種類(デュオフォニック時は3種類)●入出力端子:USB-C、MIDI(IN/OUT/THRU)、サステイン・ペダル入力、ライン出力、ヘッドフォン出力●電源:DC 9.0V●外形寸法:620(W)×120(H)×320(D)mm●重量:5.3kg

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