【製品レビュー】UDO AUDIO Super Gemini

FPGAによるオシレーターとアナログVCFを搭載した
20ボイス・ポリフォニック・シンセサイザー

UDO AUDIO(ユー・ディー・オー・オーディオ)は、2018年創業の新進メーカー。イギリスのブリストルを拠点に意欲的な製品を発表している。Super Geminiは、Super 6シリーズに続く第2弾。超高性能、高機能なシンセサイザーだ。

まず目に入るのは、広大なパネルに配置された、豊富なスライダーやツマミ。メインになる正面部分には、同じパラメーターが白と赤のカラーリングで上下2段に並んでいる。Super Geminiでは、最大20ボイスのシンセシス・エンジンを、シングルだけでなくデュアル、スプリットに分割して使用できる。その場合のアッパーとロワーの2つのトーンを、パネル上でダイレクトにエディットできるようになっている。Super 6を受け継ぎつつ発展させたSuper 6×2プラスアルファの構成で、Gemini=ふたご座、という名前にふさわしいスペックと操作性だ。

オシレーターには、最新のFPGAアーキテクチャーによるDDS(Direct Digital Synthesis)をトーンあたり2基搭載。FPGAは広くデジタル回路に用いられる技術で、設計の柔軟性が魅力。これにより、2 種類の高精度オシレーターを実現している。同じものを2つではなく、それぞれ性質もテイストも全く異なるのが素晴らしいところだ。

DDS1は、ノコギリ波や矩形波、ノイズなどのアナログ波形のほか、非整数倍音を含むオルタナティブ波形を装備。2種類の波形間でモーフィングでき、ウェーブテーブル・シンセサイザーのような音作りが可能だ。オルタナティブ波形は、パソコンからUSB経由で送受できるほか、メーカー・サイトからも定期的にさまざまな波形パックをダウンロードできる。さらにDDS1では、メインに合わせて6つのオシレーターをデチューンした状態を作り出せるSuper DDSモードを装備。同時発音数を保ったまま、非常に厚みのあるサウンドを簡単に作り出せる。どの波形も滑らかなので、デチューン・サウンドも美しい。

一方DDS2は、アナログ波形に特化したファットな低域と張りのあるサウンドが持ち味。併せてDDS2は、DDS1とリング/シンク/クロス・モジュレーション、VCFとVCAへのモジュレーション(ポリ・モジュレーション)が可能。さらに、DDS1のサブ・オシレーターとするモードも装備し、とても多機能だ。

オシレーターに最新のFPGAアーキテクチャーによるDDSをトーンあたり2基搭載。
性質もテイストも全く異なる2種類の高精度オシレーターとなっている。

フィルターは、アナログ方式のVCF。使用されているICチップはSSI2144で、PPG WAVE 2.3、コルグPolysix、Fairlight CMIなどで用いられていたものと同等品になる。メインになるローパス・フィルターは-24dB/octとキレが良く、レゾナンスを上げると自然に低域が減るタイプでとても使いやすい。また、フィルターをオーバードライブしてレゾナンスに存在感を与えたり、グッと前に出る迫力を加えたりできる。ローパス・フィルターの前段には、-6dB/octと緩やかな効き味のハイパス・フィルターも装備。本機の豊かな低音が、アンサンブルに対して過剰な場合でも適度に抑えられる。

エンベロープは2基を装備。スライダーはオーソドックスなADSRタイプだが、シフト・ボタンを押すことで、エンベロープ1にはアタック・ホールドとディケイ・ホールドが、エンベロープ2 にはディケイ・ホールドが加わる。さらにエンベロープ1では、エンベロープをループにできるほか、3段階のキーボード・トラッキング・スイッチによって、低音域から高音域にかけて速度が速くなるように設定できる。

LFOは2基を装備。LFO1はアッパー/ロワーにそれぞれ独立して装備され、可聴周波数までカバー。キーボード・トラッキングも可能なので、第3のオシレーターとしても使用できる。LFO2は、アッパーとロワーに両方、または片方にアサインする形。こちらの操作ツマミはピッチベンダーの上に配置され、ピッチベンダー経由でビブラートに使うといった設定も簡単だ。さらにDDS2もLFOとして使用でき、最大3LFOによるモジュレーションを実現できる。

フィルターはアナログ方式のVCF。メインになるのは-24dB/octローパス・フィルターで、
その前段には、-6dB/octと緩やかな効き味のハイパス・フィルターも装備。

ピッチベンダーのほか、鍵盤上部にはリボン・コントローラーも装備する。デフォルトではピッチにアサインされ、現在押さえている鍵盤に対して相対的に変化するのが使いやすいところ。例えば、コードを押さえた状態で、右から左へリボン・コントローラーをスライドすると、その幅だけピッチダウンする。そこで新たな鍵盤を押さえると、ピッチダウンしたコードを保ったまま、新たに弾いたピッチで演奏されるといった具合い。触っていると、演奏やフレーズのアイディアが次々に思い浮かぶ。

エフェクターは、コーラスのほかディレイを装備。フィードバックを最大にするとフリーズ・モードになり、フット・スイッチを併用するとルーパーのようにも使用できる。さらに、アルペジエーター、シーケンサーも装備する。多彩な方法でループ・フレーズを作成し、豊富なツマミを使ってループ・フレーズを変形するのはとても面白い。

オーディオ出力は、通常のステレオのほか、バイノーラル出力も選択できる。2つのシンセシス・エンジンで空間定位を作るので同時発音数が半分になるが(それでも最大10ボイス)、ヘッドフォンでモニターした場合に包み込まれるような音像が得られる。特にSuper DDSモードでは、他にない気持ち良さがある。

Super Geminiは、先進技術を搭載しながらも、歴史的なポリフォニック・シンセサイザーへの敬意に溢れる1台。触っていると、名機の数々が思い浮かぶ。幅広い音楽性に応えられるポテンシャルを持つ、音楽制作の中核になりうる1台だ。(文:高山博)

製品情報

UDO AUDIO Super Gemini

価格●オープン・プライス(市場予想価格:747, 900円/税込)

Specifications

●鍵盤:61鍵セミウェイテッド・キーボード(ポリフォニック・アフタータッチ、ベロシティ対応)●最大同時発音数:20ボイス●オシレーター:DDSをトーンあたり2基●フィルター:アナログ方式のVCF●エンベロープ:2基●LFO:2基●メモリーとファイル・マネジメント;256パフォーマンス(各2つのパッチを内包)、256パッチ、DDS1用の64代替波形、16シーケンス●リボン・コントローラー●8×8モジュレーション・マトリクス● 入出力端子:USB、MIDI(IN/OUT/THRU)、ペダル入力、ステレオ・ミックス出力、ヘッドフォン出力●電源:AC電源コネクタ●外形寸法:1040(W)×110(H)×440(D)mm●重量:14.5kg

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