“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜KORG Collection 2〜
『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開!
コルグ歴代モデルの本来の姿をパッケージ
音作りの幅を広げる実機にない機能も付加
注目Point:画面のリサイズで操作がスムーズに
過去の名機のソフトシンセ化は多くのプラグイン・メーカーが手がけていますが、解析元となる実機の状態や各メーカーが考える“その楽器のいい音”次第で、同じ機種のソフトシンセでも物によって出音が異なることが普通にあります。実機の開発メーカーが自らソフト化を行う場合、回路図などの過去の資料をはじめ、可能ならオリジナルの実機の開発者からも詳細な情報を得られるという他にはないアドバンテージがあり、KORG Collection 2には“その楽器の本来の姿をソフトシンセ化してくれている”という安心感があります。
ソフトシンセを立ち上げて最初に気付くのはグラフィックが良くなりプラグイン画面の大きさが6段階にリサイズできるようになったこと。“え?それは音とは関係ないのでは?”という声が聞こえてきた気もしますが(笑)、いやいや!これ実は結構でかいです! この手の往年の名機のソフトシンセ化が始まった頃、“ビンテージ・シンセのソフトはパネルを同じにする必要はあるのか?”という話が出ることがありました。実機とは全く異なりマウスやPCのキーボードで操作するソフトシンセにとって、実機を模したパネル・レイアウトは必ずしも正解じゃないのでは?……と。しかし実機が存在するソフトシンセの場合、同じパネル・レイアウトならばユーザーがすぐに理解できるという操作の明瞭さと、手が届かないビンテージ・シンセをソフトながら所有したという満足感を共に満たせるためか、いつしか実機と同じパネル・レイアウトは当たり前のものとなっていきました。反面、プラグインの画面サイズに縛られるソフトシンセでは機種によってはツマミのレイアウトが渋滞気味になってしまったり、少しマウスを動かしただけで大きく数値が動いてしまい微妙な設定に苦労したりという問題も生まれました。
KORG Collection 2の画面リサイズはこういった問題を解決してくれます。拡大できることでマウスだけでも微妙な数値の変更ができたり、縮小できることで複数のシンセを並べてセッティングを見比べることができるのは作業効率上大きな違いを生みます。もとよりコルグのアナログ・シンセの再現としてはこの上ない素性の良さを持つソフトシンセですから、操作のストレスが大きく軽減されたことでとても使いやすくなりました。
注目Point:開発メーカーだからこそできる回路の再現
KORG Collection 2には、TRITON、ARP ODYSSEY、MS-20、Polysix、Mono/Poly、M1、WAVE STATION、MDE-Xがバンドルされていますが、ここでは収録されている機種の中からアナログ・シンセに絞って見ていきましょう。
MS-20に関してはこの機種の特徴的なフィルターが高い精度で再現されているのが素晴らしいですね。このフィルター回路は他とは全く違うオリジナルの回路らしく、その味わいも独特でレゾナンスを上げた時の歪み感が唯一無二のキャラクターを持っています。こういう特殊な回路を再現できるというのは前述の開発メーカーならではの強みを発揮している部分でしょう。
Mono/Polyは今でも筆者がライブで使用しているシンセですが、アナログらしい出音の良さを持ちつつ音作りの守備範囲も広いため現代の音楽シーンにもフィットさせやすいシンセです。しかし守備範囲が広いとはいえ、例えば実機ではVCAにLFOをかけることはできませんでした。コルグ自らの手でソフト化されたシンセはオリジナルを忠実に再現できる開発メーカーのアドバンテージを生かしつつも、そこに過剰に固執はせず実機にはなかった機能の拡張も行われています。
一部を紹介すると、Mono/Polyの場合バーチャル・パッチを8個持てるため実機ではできなかったモジュレーションが可能になりました。MS-20ではパッチングも含めたセッティングをメモリーでき、ポリフォニックで鳴らすこともできます。Polysixは6ボイスから最大32ボイスに拡張されたので、各ボイスの発音を重ねてデチューンできるボイスユニゾン機能を使えば実機の1VCOでは出せなかった厚みが出せます。またこれらのシンセには、2系統のマルチエフェクトも装備されました。試しにMono/PolyのVCOにエンベロープをかけてピッチダウンさせ、少しノイズを混ぜてからマルチエフェクトでコンプと歪みをかけたキックを作ってみると……スピーカーを飛ばせそうな凶悪なキックが簡単に作れました。楽器の内蔵エフェクトらしいかかり方で非常に効きが良く、音作りの幅を広げてくれるでしょう。
一方歴史的な名機の再現に、より軸足を置いている感があるのがARP ODYSSEYです。REV1、2、3のフィルターを複数搭載するなどオリジナルの実機とは異なる仕様もありますが、そもそもこの機能自体、コルグがODYSSEYをハードウェアで復刻した時に装備したものです。その意味ではシンセ本体の機能はコルグ版ODYSSEYの忠実なソフト化と言えます。ただここでもポリフォニックで鳴らせたり、LFOのDAWホストとのテンポ・シンク、エフェクターやアナログ・シーケンサー(と呼ぶのも不思議な感じですが)を装備するなど、魅力的な機能の付加はされています。
今回見てきたコルグのソフトシンセも、初代Legacy Collectionが2004年の発売なのでもう17年の歴史があります。機材の設置スペースや取り回しに悩まなくてもいい一方で、OSのアップデートなどPC業界の動向に左右されがちなのがソフトシンセの弱み。楽器は長く使えてこそ自分の手足となるものなので、今後とも今までと変わらぬ息の長いサポートを期待しています。(文:高橋利光)
製品情報
KORG Collection 2
価格●43,890円 ※KORG Collection 2 - Special Bundle v2ユーザーは、KORG Collection 3へ特別価格9,900円でアップグレード可能。2021年6月1日〜7月29日の期間でのKORG Collection 2 - Special Bundle v2 を購入者は、無償アップグレードの対象。
Specifications
【収録シンセ】TRITON、ARP ODYSSEY、MS-20、Polysix、Mono/Poly、M1、WAVESTATION、MDE-X【Mac】●OS:MacOS X 10.12 Sierra 以降(最新アップデート)●プラグイン:AU、VST、AAX (64bitプラグインのみ対応) 【Windows】●OS:Windows 10 64bit以降(最新アップデート)※32bit 環境はサポート外●プラグインVST、AAX (64bitプラグインのみ対応)【Mac/Windows共通】●CPU:Intel Core i5 以上(Core i7 以上を推奨)●メモリ:6 GB RAM 以上(8GB RAM 以上を推奨)●ストレージ:8GB 以上の空き容量(SSD を推奨)●その他:インターネット接続●動作確認済みDAWソフトウェア:Ableton Live 10/Logic Pro X(Macのみ)/GarageBand (Macのみ)10/Cubase Pro 10/Digital Performer 10/Studio One 4.5/FL Studio 20/Reason 11/CakeWalk by Bandlab(Windows のみ)/ProTools 2019 ※ TRITONはPro Tools未対応
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