“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜ROLAND JU-06A〜

『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開! 

ビンテージJUNOの旨味をコンパクト・ボディに凝縮
シンセの音作りの面白さが堪能できる1台

注目Point:PWMで表情豊かなサウンドを生成

今も名機として人気の高いローランドJ UNOシリーズはDCO(Digital Controlled Oscillator)を採用した最初のシンセサイザーと言われています。アナログ波形の周期のみをデジタルで制御しているのでピッチは安定していますが、波形はアナログVCOと同じく常に揺らいでいるため、1オシレーターでも響きが豊かでコーラス・エフェクトと相性抜群。JUNOシリーズのコーラスはサウンドに独特な奥行きと重厚感をもたらし、JUNO-60やJUNO-106を語る上では外せない存在となっていますが、今回の復刻版JU-06Aではコーラス有効時に発生するノイズまでも再現されています。

そんなJU-06Aには1オシレーターでリッチなサウンドを生み出すための秘訣がたくさんありますが、何よりもまず見逃せないのがオシレーターにおけるPWM(パルス・ウィズ・モジュレーション)。波形を矩形波(あるいは矩形波とノコギリ波の両方)にした時、LFO/MAN(MANUAL)/ENVスイッチの切り替えによって、エキセントリックな倍音の変化や時間的なニュアンスの付け方を微調整できるのがポイントです。LFOのRATEを速めにして変化を与えれば、やはりコーラスのように揺れて滲んだ感じの音色を作ることができます。

ここでLFOの重要性にも気づくのですが、LFOの波形は、“三角波、短形波、ノコギリ波1、ノコギリ波2、正弦波、ランダム波1、ランダム波2”から選択可能。リード音色などのビブラート表現の際に三角波や正弦波はとても使いやすく、DELAY TIMEで細かなニュアンスを出すことができます。筆者は“ランダム波2”がとても個性的で気に入っているのですが、レコードから聴こえてくるようなノイズ混じりのレトロなトランペットの音色や、くぐもった哀愁あるパッド・サウンドを作るのに重宝しています。ノイズ・ジェネレーターを少しずつ加えてみるのもお勧めです。

次にフィルターをいじってみましょう。コクとハリがあって明快さが心地よいローパス・フィルターで、音圧のあるくっきりしたサウンドを贅沢にカット/強調します。音の太さゆえに中低域がすっきりしないと感じる時や、コーラスによってアンサンブルの中で抜けが悪く聴こえる時などは、JUNO-106の特徴とも言えるハイパス・フィルターを少し効かせるだけで急に音の輪郭がビシっとキマることも多いですよ。

注目Point:モード切り替えで王道サウンドを比較可能

JU-06Aには“MOD”セクションこそありませんが、シンプルな操作と各回路でのさまざまな変調によって耳馴染みのあるクラシック・シンセ・サウンドを簡単に模倣できますし、さらにそれを新たなサウンドへとカスタマイズしてゆく醍醐味があります。コーラスのⅠとⅡの同時押し(モジュレーションが深く速くなる)、LFOのRATEをMAXにする(フランジャーのようなウネリが生まれる)、アルペジオ・モードでRATEを右に振り切って音符の長さを最短にした状態で音の粒がギリギリ隠れない程度にリリースを上げつつフィルターで微調整(なんちゃってグリッチ・サウンドが完成)といった“遊べる”テクニックも豊富。コーラスの完成度が高いシンセなので、フランジャーやフェイザーのようなサウンドも得意なのです。

王道サウンドについて、JUNO-60モードとJUNO-106モードを比較してみるのも面白いですね。オリジナル機においては、JUNO-60の方が繊細で柔軟性のある真っ直ぐな音という印象がありますが、JU-06Aにおいても、60モードは総じてポップで明るいイメージ。例えばプリセットのJU-60「1982 Flute」とJU-106「Flute」を聴き比べると、「1982 Flute」の方が芯がはっきりしていて、リード・シンセとしての役割を前提とした作りになっているのに対して、JU-106の方はゆったりとしたふくよかさがありオクターブ設定も低いので、“タメ”の効いた渋めのキャラクターとなっています。息遣いを意識してノイズをミックスしたくなるような音色です。

一方、ベースについては106モードの方が音が太くて使いやすいスタンダードなものが多いので、その点はデフォルトで低域がブーストされている設計の実機を彷彿させます。NOTEボタンを押すと12個のボタンを鍵盤として演奏できるのですが(オクターブは−4から+5の範囲で移動可能)SOLO-UNISON-POLYの切り替えもあり、プリセットのベースの音色は演奏のしやすさのためにPOLYになっていることも多いので、UNISONに切り替えるだけでより一層ファットな音圧を出すことができます。

また、シーケンサーの使い勝手が良く、ステップ・シーケンサーの再生パターンが偶数/奇数ステップの組み合わせで7つもあったり、コード・メモリー機能で指定した構成音4つをアルペジエーターで順に演奏させることができたりと、曲作りにも役立つ機能がたくさんあります。複数台をMIDIでチェイン接続することで同時発音数を5音以上に増やすこともできますし、専用のキーボード・ユニットである“K-25m”(別売)はとても弾きやすく、3段階の角度で起こせるようになっているのも便利で可愛いです。本体のデザインもオリジナル機を忠実に再現していて、特にスライダー部の溝の端が丸いところや、四角いボタンのくすんだ色味がとても素敵です。ぜひみなさんも、いろいろな角度からJU-06Aを楽しんでみてください!(文:AZUMA HITOMI)

▲キーボード・ユニットK-25mにセットした状態

製品情報

ROLAND JU-06A

価格●オープンプライス(市場予想価格:50,600円)

Specifications

●最大同時発音数:4音●サウンド・モード:2種類(60/106)●ユーザー・メモリー:サウンド・パッチ:64+64(60、106 モードそれぞれに8パッチ×8バンク)、シーケンサー・パターン=16、コード・メモリー=16●エフェクト:コーラス2種類、ディレイ●ステップ・シーケンサー:16ステップ、1音(モノフォニック)●接続端子:EXT CLOCK IN 端子(モノ・ミニ・タイプ)、PHONES端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、OUTPUT 端子(ステレオ・ミニ・タイプ)、MIX IN 端子(ステレオ・ミニ・タイプ)MIDI(IN、OUT)端子、USB 端子:USB マイクロBタイプ(オーディオ、MIDI 対応)●電源:ニッケル水素電池(単3形)×4またはアルカリ電池(単3形)×4またはUSBバス電源●別売品:キーボード・ユニットK-25m、BoutiqueドックDK-01●外形寸法:300(W)×128(D)×49(H)mm●重量:995g(電池含む)

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