“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜u-he Repro〜
『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開!
ソフトウェアの利点を活かし名器のサウンドを再現
オリジナルにはない実用的な機能も装備
注目Point:アナログ回路の揺らぎや歪みもシミュレート
u-he(ユーヒー)社のソフトシンセReproは、Repro-1とRepro-5という2つの製品をセットにしたもので、Repro-5に関してはシーケンシャル・サーキットProphet-5(以降P-5)、Repro-1はPro-One(以降P-1)を参考にしてソフトウェア化している。実機の詳細に関しては本誌の他のページを見てもらうとして、ここではソフトシンセならではの特徴を中心に紹介していきたいと思う。
まず、ソフトシンセの魅力の1つは価格が安いということだろう。1台数十万円するようなアナログ・シンセも数万円で購入することができるので、手軽に使用することができる。機種によってはデモ版もあり、購入前に確認できるのも魅力だろう。また、古い機種の場合、本体のパーツの劣化などもあり、個体によって音が違ったり、メンテナンスが必要だったりするが、ソフトウェア化してしまえばそんな心配もなくなって安心だ。
とはいえ、じゃあ本物と全く同じ音がするのか?という話になってくると、どんなオーディオ・インターフェースで鳴らすのかなども関係してくるので各自の判断に任せる。しかし最近はコンピューターのスペックが上がり、複雑な計算にも耐えられるようになったおかげで、アナログ回路で電気がどんな風に変化しているか?を揺らぎや歪みなども含めてシミュレーションすることで、かなり実機の再現ができている。そんな中、ユーヒー社は“コンポーネント・レベル・モデリング”という方式により、P-1のベースやリード向きな音の強さ、P-5のシンクやユニゾンを使用した独特な音色など、それぞれの機種の特長を活かした良い音が再現できていると言えるだろう。実際筆者も、この記事とは関係なく以前からReproを所有して使用している。
そしてソフトウェア化するということは、本機にはない機能を追加できるということも大きなメリットだ。Reproに関しては、それぞれ左上にTWEAKSというボタンがあり、これを押すことでシンセのパネルを開いたようなマニア心をくすぐる基盤のグラフィックになり、Repro-1は13種類、Repro-5は16種類のちょっとマニアックな(改造的な?)パラメーターを設定することができる。これがかなり実用的な機能満載なのでいくつか紹介しよう。
Repro-5ではモジュレーション・ホイールで変調する波形としてLFOとノイズをミックスして使用するが、ノイズをサンプル&ホールドに切り替えることができる。トリガーするLFOはもちろんホスト・シーケンサーと同期させられるので、16分音符でランダムにカットオフが動くシーケンス・フレーズなども簡単に作れる。また、P-5では5音をユニゾンさせることによる(演奏的にはモノになるが)独特のデチューン感を持った音色が特徴的だったが、Repro-5に関してはポリ数が8音まで増えているので、8音をユニゾンした分厚いベースやリードを作成可能。さらにTWEAKSではその1音ずつのパン(定位)を別々に細かく設定できるので、4音ずつ左右に分けたり、8音を順々に左から右に振るなど、ユニゾン時のステレオ感もさまざまに演出できる。この独特のステレオ感はかなりオススメなので、ぜひ試してみてほしい。
注目Point:音作り初心者にも嬉しいプリセットが充実
また、2機種とも各オシレーターの波形をP-1タイプとP-5タイプに切り替えたり、ユーヒー社お勧めの、Idealという独特のパワー感がある波形に切り替えたりもできる。さらに、ノイズ波形の代わりに出力した音をフィードバックさせられるので、昔アナログ・シンセでよく行っていた、セルフ・フィードバックで音を太くするという効果も再現可能だ。他にもエンベロープやLFO、オシレーターの波形を位相反転させたり、マイクロ・チューニングを使用したりと、まさに痒いところに手が届く機能が満載なのでぜひ活用してほしい。
エフェクトも充実している。リバーブやディレイ、EQなど基本的なエフェクトに関してはもちろん、Repro-1にはJAWSという名のウェーブフォルダーが入っていて、これがウェーブ・シェイパーを使った西海岸スタイル的な音作りができ、イニシャライズしたノコギリ波とJAWSだけでもいい音を作ることができる。そしてRepro-5にはポリフォニック・ディストーションが用意されている。通常のディストーションの場合は和音を弾いてレベルが上がると歪みが強くなるが、こちらは各ボイスに別々のディストーションが使えるので、和音で演奏しても歪みの印象は変わらない。
音作り初心者でも使えるようプリセット音色も豊富で、Repro-1は500、Repro-5は950を超えるプリセットが用意されている。お気に入りを登録したり、Bass、Leadsなどのカテゴリーや、Bright、Acousticなどキャラクターのタグを掛け合わせて検索することができるので、大量のプリセットがあっても思った音にたどり着きやすいだろう。また、ネイティブ・インストゥルメンツ社が提唱するNKSにも対応しているので、NKS対応のコントローラーなどを使用している場合はパラメーターや試聴などが連携し、ストレスなくコントロールできる。こんなところもソフトであることの恩恵だと言えるだろう。
また各パラメーター上で右クリックしLockを選択することで、鍵の絵が表示され、そのパラメーターは音色を切り替えても値が変更されなくなるので、ユニゾン時の各ボイスのパンやエフェクトなど気に入ったパラメーターは固定しておいて、他の音色を聴いてみるということも簡単にできる。
いかがだっただろうか? かなり駆け足で紹介したが、オリジナル機種の良さを大切にしつつ、ソフトウェアならではの機能や使いやすさを追加することで、Reproは良い進化をしているなと改めて感じた。もちろんデモ版もあるので、気になった方はぜひ試してみてほしい!(文:守尾崇)
製品情報
u-he Repro
価格●18,260円
Specifications
●Windows:Windows 7/8/10、VST2/3、AAX、NKS ●Mac:Mac OS X 10.7 以降、VST2/3、AU、AAX、NKS●CPU:マルチコアCPU(Sandy Bridgeマイクロアーキテクチャを推奨)●RAM:1GB以上推奨●HDD容量:50MB以上の空き容量●ディスプレイ解像度:1000×600以上推奨●32/64bitのプラグインフォーマットに対応
お問い合わせ
銀座十字屋ディリゲント事業部
TEL.03-6264-7820