“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜ARTURIA V Collection 8〜
『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開!
古今東西の電子楽器を独自の技術で再現
名器のサウンドを駆使した音楽制作が可能に
注目Point:音作りに役立つさまざまな機能を付加
ソフトウェア音源の雄アートリアからリリースされたVCollection 8は、歴史的なアナログ・シンセ、デジタル・シンセ、ビンテージ・キーボード類をソフトウェア上で再現し、現代的な新機能や複合音色プリセットまでを追加した28音源からなるパッケージだ。同社独自のアナログ・モデリング技術(TAE)、フィジカル・モデリング技術(Phi)によるそのサウンドは、デジタル処理につきもののエイリアス・ノイズとは無縁で滑らかなもの。基音はしっかり、倍音は密度感たっぷりなので、EQやエフェクトの効きもいいし、EQやエフェクトなしのむき出しの音でも存在感があり、弾いていてとても楽しいものだ。それでは、パッケージの中からいくつかピックアップしてチェックしていこう。
まずは「ARP 2600 V」。オリジナル機はあらかじめ内部配線がされていて、さらにパッチ・コードで端子間をつなぐことで、より自由に音作りができるセミ・モジュラー型シンセサイザー。音の太さのモーグ、安定度のアープという印象があるが、いやいや今聴くとアープの音もかなりの太さだ。ソフト音源化に伴いポリフォニック化され、MIDI機能、“トラッキング・ジェネレーター”によるモジュレーション機能の付加がなされている。
「Mini V」のオリジナルは言わずと知れたシンセ・ベースの王者Minimoog。ライブ・パフォーマンスのためにコンパクトにまとめられたモノフォニック・シンセにして、歴史的な名機だ。ベースやリードの比類なき太さ、フィルターのキレ具合にはやはり唸らされる。ポリフォニック化やユニゾン効果、オシレーター・シンク、モジュレーション用LFO、エフェクトなどの機能が追加されている。
オーバーハイムの3機種を再現したものが、「SEM V」「OB-Xa V」「Matrix-12 V」。オーバーハイム製品のサウンドを特徴づけた、ハイパス、ローパス、バンドパスまたはノッチフィルターというモードを切り替え可能なマルチモード・フィルターはもちろん装備。減衰特性が-24dBのモーグ・フィルターよりなだらかな-12dBの特性は逆に広がりのあるサウンドを出すことができる。
「Prophet V」は、オリジナルのシーケンシャル・サーキットProphet-5のように、太い音(モーグほどではないにせよ)から繊細な音まで幅広い音作りができ、“ポリモジュレーション”など特徴的な機能も備えている。そしてProphet V内ではもう1機、4基のオシレーター波形のミックスを二次元的にコントロール可能な“ベクトル・シンセシス”を備えた Prophet VSの再現もされている。フィルターだけでは実現不可能な音色の時間的変化が可能になっている点も見逃せない。
注目Point:超高級機の美しく滑らかな音色を堪能できる
Jupiter-8はそのスピード感とツヤ、広がりのある音色で人気を得て、ローランドの名を不動のものにした8音ポリフォニックのハイエンド機だが、「Jup-8 V」ではそのサウンドしっかり再現。“ギャラクシー・モジュール”による複数パラメーターの同時モジュレーションや、VCO/VCF/VCAの間に挟めるエフェクト、32ステップ・シーケンサーなどが追加されている。Juno-6はパラメーターがシンプルで音作りしやすいマシンだったが、内蔵コーラスの音の豊かさこそがその鍵であった。「Jun-6 V」はもちろんこのコーラスも再現(コーラス単体製品としてもリリースしている)。36音ポリ、追加エンベロープとLFO、ベロシティ/アフタータッチ対応などの機能強化がなされている。
「CMI V」が再現するFairlight CMI IIxは、35000ドル(当時のレートで換算すると800万円)の超高級機。音楽シーンに登場した初のハイエンド・サンプラー/デジタル・シンセだ。「Synclavier V」のオリジナルSynclavierは、倍音加算/FM/サンプラー(のちに初のHDDレコーディング・システムも搭載)。価格は1億円だったとも言われる。「Emulator II V」のオリジナルEmulator IIは当時298万円のサンプラー。80年代初期に登場したこれらハイエンド機が、機能を付加されて現代に再現された。その音色を聴くと、当時搭載されていたであろう高級なD/A変換やアナログ出力部分の良さもあり、サンプリングされたボイス系やストリングス系の音色はローファイ(8bit)ながらも味わい深い。ベル系の音色などに聴かれる倍音加算や、FM合成による高音域はかなりの美しさだ。
FMシンセの決定版であるヤマハDX7を再現したのが「DX7 V」だ。そしてDX7が発売された翌年の1984年以降、もう1つの純粋なデジタル合成方式であるPD音源を積んだカシオCZシリーズも登場した。その再現版が「CZ V」。この時期はまだレゾナンス付きのデジタル・フィルターが開発される前であり、両者に共通するのは、他機種がフィルターの動きで作っていた音色変化を、フィルターを使わず完全にデジタルの領域でプログラミングしていたことだ。逆にそれが特徴的なものになっていたし、フル・デジタル方式で生まれたベル系の音色などの倍音感や、フィルターを通過しないことで生まれた美しい高音域は、完全に時代の音となってポップ・シーンに広がっていった。この音色の美しさは、アートリアのTAE技術による再現版ならではの太く滑らかな低音域・中音域と一緒になり、ひょっとしたら当時よりも魅力的になっているのではないかとさえ思わされる。
以上、28音源の中のいくつかをピックアップして見てきたが、ビンテージ・キーボード類の再現音源も、適したエフェクトがかけられていることもあってかなりの出来だし、「Analog Lab V」という音源では、他のすべての音源の音色や、複数音源によるレイヤー/スプリット音色を自由自在に検索して演奏したりエディットをすることができる。特にこの中のPATCHWORKSという音色バンクは現代的なセンスでプログラミングされており、非常にオススメだ。
アートリアV Collection 8によって、僕らは古今東西の電子楽器の音色に触れ、音楽制作に使っていくことができる。ずっと夢に描いてきた幸せな時代に僕らはいま生きているのではないかとさえ思わせてくれるのだ。(文:堀越昭宏)
製品情報
ARTURIA V Collection 8
価格●オープンプライス(市場予想価格:59,400円)
Specifications
●収録ソフト:Jun-6 V、Vocoder V、OB-Xa V、Jup-8 V、Synthi V、Buchla Easel V、Mini V、Matrix-12 V、Prophet V、CS-80 V、SEM V、ARP 2600 V、Modular V、Emulator II V、CZ V、DX7 V、Synclavier V、CMI V、Stage-73 V、Mellotron V、Piano V、Solina V、ClavinetV、Farfisa V、Wurli V、VOX Continental V、B-3 V、Analog Lab V●Windows:Windows 8.1以降(64ビット)●Mac : Mac OS X:10.13 以降●RAM:4GB ●CPU:2.5GHz●HDD容量:20GB以上の空き容量●OpenGL2.0対応GPU●動作環境:スタンドアローン、VST、AAX、Audio Unit、NKS(64ビットDAWのみ)
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