“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜ROLAND JUPITER-X

『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開! 

フラッグシップの象徴“JUPITER”の名を冠し
歴代シンセのサウンドを高精度でモデリング

注目Point:音作りのイメージが湧くインターフェース

ツマミがデカい! ストロークが長い! 近年、往年の名器が小型化され、最新のテクノロジーを使い限りなく忠実な音源を搭載したリイシュー電子楽器が多く発売されている。しかし、そのあまりの小型化に、私たちはまるでガリバーになったような気分だ。住宅事情や運搬を考えれば仕方のないことではあるのだが、この堂々と鎮座するJUPITER-Xを目の前にして、まずは操作子の大きさに感嘆するとともに、“一見しただけで音作りのイメージが湧く”ユーザーフレンドリーな構成のユーザー・インターフェースとストレス皆無の距離感のコントローラー配置に驚いた。いや、よく考えてみれば、このサイズ感こそが“楽器”としての本来の形なのではないだろうか。

ローランドがアナログ・ポリフォニック・シンセサイザー黎明期に発表したフラッグシップ・モデル“JUPITER-8”という名前に、数学で未知数を意味する“X”を掛け合わせたネーミングは、本機の拡張性やポテンシャルを如実に表している。JUPITER-8と言えば、80年代に起こった2ndブリティッシュ・インベイジョンで多くのアーティストが使用し、その音色をメガヒット曲の随所で聴くことができるが、アメリカ製のアナログ・シンセサイザーとはひと味違う“繊細”で“ダーク”、そして“ソフト”な日本製ならではの“電子音”が世界中の音楽家、そしてミュージック・ファンの心を鷲掴みにした。本機JUPITER-Xにもそのローランドの十八番がふんだんに踏襲され、さらには懐古主義にとどまらない挑戦も見て取れる。

JUPITER-Xには、歴代のローランド・シンセ4機種(JUPITER-8、JUNO-106、JX-8P、SH-101)、デジタル・シンセXV-5080、ステージ・ピアノRD-700GXという6機種のモデリング音源と最新音源ZEN-Coreを内蔵している。冒頭にも触れたが、何よりそのサイズ感はユーザーに安心感を与え、音作りに集中し、演奏のトラブルのリスクを最大限に軽減させるデザインが施されている。これは筆者の主観かもしれな
いが、デザインの良いシンセサイザーはたいてい音が良く、操作性も良いということを、長年シンセサイザーを触ってきた者として断言する。さらにサイドの銀パネがメーカーの姿勢を示している。

注目Point:創造力を刺激する新しいアルペジエーター

JUPITER-Xは減算式シンセサイザーの基本構成にしたがって、左から右へと音作りのストラクチャーがわかりやすく配置されている。JUPITERシリーズの最大の魅力の1つとも言えるアルペジエーター“I-ARPEGGIO”が搭載されているが、これが相当な進化を遂げている。“アップ”“アップダウン”“ランダム”といった一般的なアルペジエーターは馴染み深いが、ユークリッド挙動を搭載し、その時の演奏形態によって、予想外のフレーズを叩き出してくれる。とは言え、音楽的に破綻することがないため、常に奏者に刺激をフィードバックしてくれる優秀な全く新しいアルペジオ機能と言っていいだろう。正直、単体で出してほしいほど魅力的なアルペジエーターだ。

サウンドは言うまでもなく、ザ・ローランドとも言うべき“シンセサイザー”の音がする。特に大きな2基のエンベロープで、タイトなシーケンスから絹のような繊細なパッド・サウンドまで自由自在に作り出せる。フィルターを使わず、エンベロープで音色をここまで自由に変化させられるのがローランド・シンセサイザーの最も楽しく魅力的な部分である。もちろんオシレーターにはアノ有名なクロス・モジュレーションが搭載され、複雑で過激な音作りを容易に行える。

そして特筆すべきは3つの特性を備えたフィルター・セクションだ。この“R”“M”“S”というフィルター特性の頭文字を見れば、シンセサイザー好きならば言わずもがなおわかりだろう。ハイパス・フィルターが独立ノブとして用意されているのもローランドの伝統作法が守られている。さらに“PRELOADED MODELS”ではローランドの歴史的名機が一瞬にして呼び出せる。“JUPITER”“JUNO”“JX”“SH”“XV”“RD”。この並びだけを見ただけで垂涎ものだ。

JUPITER、総じてローランドの特徴的なシンセサイザー・サウンドを司るセクションの中でも、“エフェクター”は欠かせないものとなっている。高品位なMFXはもとより、ローランド・エフェクターの顔とも言うべきコーラス・アンサンブルも、名機SDD320と同様にデチューンにも近い強力な効果をもたらす。またそれらのエフェクター操作子が8つ、階層をなくして独立して搭載されているのも有難い。

さて、ここでパネルの1番左上を見てみよう。実は、このディスプレイには本体で操作したエンベロープなどの値がグラフィカルにリアルタイムで視覚化され表示される。その中でも最も驚いたのは“温度”と“経年変化”による音色の不安定感を再現できるのだ。皮肉にも、オリジナルのJUPITER-8が発売された当時は、温度により、アナログ・オシレーターが不安定になってしまい、ポリフォニック分の複数のオシレーター・チューニングを完全に合わせこむことができなかった。しかし、デジタル・シンセサイザーが登場すると、完全に一致し、安定したピッチが実現したことで音の揺らぎがなくなってしまい、いわゆる“冷たい音”になってしまった。そこで、あえて温度差や経年劣化による音色変化を再現する機能を搭載したのだ。

そして、JUPITER-Xにはボコーダーまでもが搭載されている。大名機ローランドVP330のサウンドがJUPITERから鳴るというのは驚くべきことだ。マイクインにはコンボジャックが用意されているのも嬉しい。パソコンとの親和性も高く、MIDIジャックは当然のこと、USBオーディオMIDIインターフェースとしても使用できる。まさに“JUPITER”の名が相応しい現代の万能機だ。(文:齋藤久師)

製品情報

ROLAND JUPITER-X

価格●オープンプライス(市場予想価格:275,000円)

Specifications

●鍵盤:61鍵(セミウェイテッド鍵盤、アフタータッチ対応)●音源:ZEN-Core、各モデル音源●パート数5:パート(プレイ・パート:4、リズム・パート:1)●音色:プリセット・トーン4,000 以上、ユーザー・トーン256、ドラム・キット90 以上●シーン:256●エフェクト:マルチエフェクト4系統90種類、パートEQ 5系統 、オーバードライブ、リバーブ:7種類、コーラス:4種類、ディレイ:5種類、マイク・ノイズサプレッサー/コンプレッサー、マスター・EQ / コンプレッサー● アルペジエーター:I-ARPEGGIO(演奏感知型マルチ・パート・アルペジエーター)●アルペジオ・パート数5:パート●スピーカーアンプ出力:4W× 2●スピーカー:フルレンジ (3.5 × 8cm)× 2、ツイーター2cm×2●接続端子:PHONES端子(ステレオ・ミニ・タイプ/ステレオ標準タイプ)、MAIN OUT 端子(L/MONO、R/標準タイプ)、MAIN OUT 端子(L、R/XLRタイプ)、MIC INPUT 端子(XLR / 標準タイプ)、AUX INPUT 端子、HOLD PEDAL端子、CONTROL PEDAL端子、MIDI(IN、OUT)端子、USB COMPUTER 端子(AUDIO/MIDI)、USB MEMORY 端子●外形寸法: 1,090(W)×447 (D)×119
(H)mm●重量:16.9 kg(電池含む)

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