“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜KORG opsix〜
『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開!
MS-20やPolysixのフィルターを装備し
直感的操作を重視した新たなFMシンセの形
注目Point:表現の幅を広げる5つの変調方式
1983年の春に発売されたFM音源方式によるデジタル・シンセサイザーDX7。それまでのアナログ・シンセに比べると佇まいもサウンドも一新され、打楽器や金属的な音を得意とし、ベロシティの表現も豊かで同時発音数16音、MIDI機能も搭載され、新時代のシンセとして爆発的に普及した。きらびやかなエレピに代表される音色の出現により世界のサウンド・プロダクションを根本から変革させたと言っても過言ではない。
ただ、それまでのツマミをたくさん搭載したアナログ・シンセと方式も操作性も異なるため、音色のエディットに関しては困難を極めた。まずは音源の仕組みを理解しなければならないし、例えば音をこもらせようと思っても、6つあるオペレーターにアサインされたいくつもの数値を小さい液晶表示を見ながら変えていかなければならず、まったく直感的ではなかった。シンセというものは演奏しながらツマミをいじって音色変化させられるものであったはずが、あらかじめ仕込んだ音色パレットから選ぶ方式に切り替わってしまう側面もあった。逆に著名アーティストがエディターを駆使して作成した音色カートリッジが商品として価値を持っていた時代である。
前置きが長くなったが、このたびコルグから、往年のFM音源が直感的にエディットしやすい形に改良され、現代に相応しい新機能も搭載したシンセサイザーopsixが発売された。opsixは音源となるオペレーターが6つあり(opsixの名前の由来であろう)、発音の基盤となるキャリアと、変調させるためのモジュレーターという2つの役割に使用される。それら6つの組み合わせをアルゴリズムと呼び、opsixでは40種類用意されている上にユーザー設定もできる。さらにFMだけでなくパネル上部にプリントされている5つの発振(変調)方式をセレクトできるなど表現の幅が広がっている。
opsixのパネルで最も目を引くのが、この6つのオペレーターを操作できるLEVELフェーダーとRATIOツマミ。アルゴリズムに沿ってキャリアは赤、モジュレーターは紫に光るので、赤い方で基本の音量とピッチを調節し、紫の方で音色や変調具合(エグさ!)を調節するというわかりやすさ。ここを直感的にいじれることで、FM音源ならではの音色変化を楽しむことができる。当時の小さい液晶表示での操作を思い出すと信じられない進化だが、アナログに比べて聴感上可変域が広いので動かしすぎに注意!
注目Point:未知のサウンドを生み出すモジュレーション
この楽器は基本、ディスプレイの右にある家マークのALGOボタンを押した状態で演奏する。その状態だと右側にあるA〜Fまでの6つのノブは、アルゴリズム・セレクト、アタック、ディケイ、エフェクターの3つのパラメーターにアサインされているが、モードを変えるとディスプレイに表示される位置に対応してさまざまな機能を果たす。
大きなポイントとしてアナログ的な11種類のフィルターが搭載されている。その中にはMS-20やPolysixをシミュレートしたものも用意されているのがさすがコルグ。かつてのFMシンセ・ユーザーにとって喉から手が出るほど欲しかったフィルターが簡単にかけられるわけだが、ノン・フィルターで音色を作ってから最後の手段としてかける方がありがたみがある。
さらにモジュレーションのルーティングは実に多彩だ。例えばLFOはPROCESSORSのMODで選ぶのだが、23種もの波形が用意されており、LFO1はOPERATORSセクションのPITCHで、LFO2はFILTERセクションでモジュレーションする。OPERATORSの方は6つ分調節しなければいけないが、有機的な音の動きを生成させられる。この辺り根気がいるが、機能の関係性を把握すれば、未知のサウンドに足を踏み込むことができるだろう。
また、近年のシンセには不可欠なエフェクター(24種類)、アルペジエーター、最大16ステップのポリフォニック・シーケンサー(リアルタイムでもステップでも録音可)も搭載されている。
ありがたいのは、225音色&25テンプレートある音色の中から、ABCDの4BANK×16=64音色分のFAVORITE音色を登録でき、呼び出すためのパッチ選択スイッチが用意されていること(モードを変えてシーケンサーの操作にも使用)。
筆者なりの要望も記しておこう。オペレーターのセレクトが+/−ボタンになっているが、オペレーター・ミキサーのフェーダーのところに6つ欲しかった。軽量化を図っているせいか鍵盤のタッチが軽く、弾き応えという点では物足りない。また、シフト・ボタンによる使い分けや階層に入ってゆくデジタル・シンセならではの煩わしさは生じる。直感的になったとは言え、このシンセに慣れるには、アナログ・シンセよりはやや繊細な心持ちでパネルに向かう必要があるだろう。
opsixは、遊び心のある機能として、右上にあるサイコロマークのボタンを押すとパラメーター値をランダムにし予想不可能な音色を生成できるランダマイズ機能を備えている。こういった名実ともにチャンス・オペレート的な機能はとても面白く、偶然生成された音をきっかけに自分の好みにエディットしてゆく楽しさもある。この辺は開発者の“すべての機能を生かしてほしい”という機材愛の賜物であり、opsixの大きな個性となるだろう。(文:坪口昌恭)
製品情報
KORG opsix
価格●97,500円
Specifications
●鍵盤:37鍵(ベロシティおよびリリース・ベロシティ対応)●音源システム:オルタードFM音源●最大同時発音数:32ボイス(設定によっては最大24ボイス)●構成:6オペレーター、1フィルター、3EG、3LFO、3エフェクト、ステップ・シーケンサー、アルペジエーター●アルゴリズム:プリセット40 種類+ユーザー(プログラムごとに設定)●オペレーター:モード5種類 (FM、Ring Mod、Filter、Filter FM、Wave Folder)●オシレーター波形:21種類●フィルター:11種類(LPF 12、LPF 24、LPF MS-20、LPF POLY6、HPF 12、HPF 24、HPF MS-20、BPF 6、BPF 12、 BRF 6、BRF 12)×1系統●EG:ADSR●LFO:23波形×3系統●V.Patch:12系統●エフェクト:30種類×3系統●シーケンサー:ステップ・シーケンサー(最大16ステップ、1ステップあたり最大6ノート)●モーション・シーケンサー(最大6レーン)●アルペジエーター:パターン7種類(MANUAL、UP、DOWN、ALT1、ALT2、RANDOM、TRIGGER)●プログラム:500(工場出荷時は250 プリセット・プログラム、250ユーザー ・プログラム)、フェイバリット:64(16スロット×4バンク)●入出力:ヘッドホン、オーディオ出力(L/MONO、R)、DAMPER(ハーフ・ダンパー非対応)、 MIDI IN/OUT、USB B 端子●外形寸法:565(W)× 338(D)× 90(H) mm ●重量:2.9kg
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