バーチャル・アナログの新音源AN-XとMONTAGE Mの進化した機能に迫る

ヤマハMONTAGEといえば、リアルなアコースティック楽器、荘厳なオーケストラからシンセ・サウンド、あらゆるサウンドを網羅し、モーション・コントロールやスーパーノブでの刺激的で新しい動的サウンドまで、とにかくなんでもできるヤマハ・シンセのフラッグシップ・モデルであるが、今回のMシリーズから従来のAWM2(PCM波形)、FM-X(FM音源)に加えて新たにAN-X(バーチャル・アナログ・シンセ音源)も加わり、トータルの同時最大発音数400音という弩級のモンスター・マシンとなった。しかし進化はそれだけではなかった。筆者も驚いた進化を順を追ってお伝えしていこう。(Text by YANCY/『FILTER Volume.06』より転載)

MONTAGE Mから搭載されたバーチャル・アナログの新音源

MONTAGE Mから新たに搭載された新音源、“AN-X音源” は多くのヤマハ・シンセ・ファンが待ち望んでいた音源である。AN音源といえば、かつて1997年に発売されたAN1xやreface CSにも採用されたバーチャル・アナログの音源である。では、MONTAGE MシリーズのAN-X音源を見てみよう。オシレーターは3つ、ノイズ・ジェネレーターが1つで、最大同時発音数16という構成。OSCの波形は5種から選択だが、各OSCにはPulth Width、OSC Self Sync、Wave Shaperによる波形コントロールが可能で自由度は高い。またOSC3はOSC1と2をFM方式あるいはリング・モジュレーション方式で変調できる。

さてイニシャル設定で鳴らしてみると、ローからハイまで非常にクリアで解像度が高く、濃密なサウンドがするのに驚く。オシレーター1つでも十分かと思うくらいの密度が濃くパワフルでエッジのある音。オシレーター2、3を重ねていくとリッチでとてつもなく太いサウンドになった。これは強力だ。アナログ・シンセ・ライクなサウンドであっても、純粋なアナログ・シンセとは違った現代的なニュアンスを感じる。サウンドのスピード感、パワフルさが現代の音楽シーンにぴったりと言えるだろう。

▲MONTAGE Mに新搭載されたバーチャル・アナログ音源の“AN-X”。
さまざまなプリセットが用意されているほか、
イニシャル波形からエディットをすることも可能だ。

パラメーター解像度アップがもたらす滑らかな操作性

本機のAWM2音源は1パートあたり128エレメントと驚異的な進化を遂げた。バイオリンやチェロといったサウンドを弾いてみると実に瑞々しい音がする。目をつぶれば目の前で弾いているかのようなリアリティのあるサウンドだ。それに加え、本機ではパラメーターの解像度が128からなんと1024に上がっている。128段階で表現するのと1024段階で表現する違いを想像してほしい。驚異的な進化とはこのことだ。キーボード、フェーダー、スーパーノブ、サステイン・ペダルまでが解像度が128から1024になったということで、演奏性、表現力の進化だけではなく、シンセの動作自体も非常にスムーズに感じる。シンセ・サウンドの音作りをしている時もとにかくパラメーター調節が滑らかで、アナログを操作しているかのような感覚。恐れ入った。

Pure Analog Circuit 2が実力を発揮

前モデルにも搭載されていた、デジタルをアナログに変換して出力する段のPure Analog Circuitだが、MONTAGE Mでは格段に進化しており、余分なノイズの低減、ダイナミックレンジの向上、低域位相の良さなどが出音を格段に向上させている。AN-X音源も中域の濃密さと恐ろしくクリアに響く低域に驚かされた。特筆すべきは低域の輪郭が一切ぼやけないことだ。思わずグレードの高いヘッドフォンで鬼聴きしながら他社現行シンセとも聴き比べしたが、低音の聴こえ方と輪郭は圧倒的である。気になる方がいればAnalogue BassやMonster Subなどのシンセ・ベースのプリセットを聴いてみるといいだろう。筆者の言っていることに納得していただけると思う。ベースだけではなくシネマティックなオーケストラ・サウンドの打楽器のアタック感なども見事。聴き慣れたOB Power Synth Brassのようなクラシックなシンセ・サウンドもダイナミックな低域で新鮮さを感じることができた。

▲出力段がPure Analog Circuit 2へと進化。AN-Xのアナログ・サウンドのポテンシャルを最大限に引き出してくれる。

ビンテージの挙動を再現可能なVoltage DriftとAgeing

AN-X 音源は現代的なスピード感にあふれたエッジの効いたサウンドだとお伝えしたが、エディット画面の中のAN-X Settingsという項目の中にあるVoltage DriftとAgeingというパラメーターを用いて、ビンテージ・アナログ・シンセの挙動をも再現可能だ。ビンテージ・シンセの人間的な温かい感じは、回路の中の電圧が安定しないために起きる、オシレーター・ピッチの揺らぎやフィルターあるいはLFOなどの動作が安定しないことによるものであるが、2つのパラメーターでこの感じが見事に再現される。ビンテージ・シンセのニュアンスが合う、懐かしめの楽曲であれば揺れやピッチの甘さを活かしたローファイ感たっぷりなサウンドに、そして現代的な楽曲であればカチッとしたソリッドなシンセとして使用できるのは嬉しい。

2つのディスプレイ連携による操作性の向上

MONTAGE Mシリーズからメイン・ディスプレイに加え、サブ・ディスプレイが本体左に搭載された。サブ・ディスプレイはとにかく視認性が良く作業効率アップに貢献するだろう。実際AN-X音源でエディットしてみたが、とにかく早い。しかも詳細に詰めたいときはPAGE JUMPボタンを押せば、サブ・ディスプレイで表示していた項目がメイン・ディスプレイの大画面に詳細に表示されるので、そこでさまざまな設定を詰めていけばいい。SHIFTボタンを押しながらもう一度PAGE JUMPボタンを押すと、メイン・ディスプレイで表示していた項目へサブ・ディスプレイも連動。ディスプレイが2つあり連携しているのがとにかく使い勝手が良い。演奏中にパラメーターをいじるのも良いだろう。

▲パネル左上に搭載されたサブ・ディスプレイに、AN-Xのパラメーターを表示、
画面上下の8つのボタンやツマミ、スライダーで調整が可能。

本機をスムーズに使いこなすためのNAVIGATION

超高機能な本機、普通なら操作に慣れるのに時間が必要だと思うが、NAVIGATIONボタンを押せば、最初に触った時から迷うことなく使いこなせるであろう。車のナビのように自分が今MONTAGE Mのどこのセクションにいるのかが俯瞰で見えるのだ。例えばAN-X音源でフィルターをいじっているときにNAVIGATIONボタンを押すと、メイン・ディスプレイにAN-X音源の音の流れが俯瞰で表示され、フィルターのところにピンが立っている。“今あなたはフィルター・セクションにいますよ” と教えてくれるのだ。画面の中にはシンセシスの流れだけでなく、エフェクト、アルペジエーター、モーション・シーケンス、スーパーノブなどすべての行き先も表示されているので、ワンタッチするだけでその項目に行って音作りや設定ができる。作業をするために項目ボタンを探し、階層に入っていくのはもはや過去の作業である。すべてワンタッチでやりたい作業の項目に行き着くのである。ちなみにSHIFTボタンを押しながらNAVIGATIONボタンを押すと、FX Overviewという画面が表示される。こちらは各パートのエフェクトの状況を一括表示して瞬時に調整できるので、パートの多い本機では非常に助かる機能だ。

◀︎操作に迷った際はNAVIGATIONボタンを押すことで、現在地が表示される。
次にエディットしたい項目にも、同画面から進んでいくことができる。

ポリフォニック・アフタータッチに対応

MONTAGE M8xのみであるが、初めてポリフォニック・アフタータッチに対応。チャンネル・アフタータッチとは全く別次元の表現力を実現している。両手で弾きながら、メロディだけアフタータッチで表現をつけたり、左手だけピッチを変えたりと何でもできてしまう。AN-X音源の場合、アフタータッチ変化させられるディスティネーションもピッチのほかに21項目もあり、アイディア次第で新たな表現ができるだろう。伝統あるアナログ・シンセのサウンドもアフタータッチで表現を加えるととても新鮮だ。

またポルタメント・ボタンとタイムの調整ツマミが左手のコントローラー・セクションにあるのもいい。最近では、チルミュージックなどではベンドを多用するので、ここもポイントが高い。またキーボード・ホールド・ボタンで両手が自由になれば、フィルターなどをいじりながらスーパーノブを動かしたりと、とにかくサウンドを変化させ続けるパフォーマンスも可能だ。

ライブ・パフォーマンスを次なる世界へ導く

MONTAGE M8xのプリセットをいろいろ弾いてみて筆者が感じたのは、ヤマハは今、そしてこれからのシンセを作っているのだということ。世の中シネマティックなサウンドがもてはやされているが、今まではこういったサウンドは、クリエイターたちがソフト音源を駆使して作り上げていたように思う。その複雑でダイナミクスの幅が半端ないサウンドをMONTAGE Mシリーズは1台のハードでいとも簡単に鳴らしてしまうのだ。いや、いとも簡単にというのは適切ではない気がする。とんでもない解像度と恐ろしく高音質なアナログ変換、チップの向上、すべての点で手を抜かない追求があってこその到達点だと思う。

とてつもなく高音質で複雑に重ねたサウンドを、モーション・シーケンスやスーパーノブで動的に表現できるのだからこれはモンスター・マシンである。今後このサウンド・クオリティと表現力を兼ね備えたモンスター・マシンを駆使してライブ・パフォーマンスも次なる世界へ進化していくことが楽しみでならない。2024年にはMONTAGE MがソフトシンセExpanded Softsynth Plugin(ESP)としてプラグイン化され(使えるのはMONTAGE M正規ユーザーのみ)、今後スタジオとライブ会場でシームレスに活躍する機種になるだろう。

MONTAGE M開発者・マーケティング担当者のインタビューはこちら!

製品情報

YAMAHA MONTAGE M

メーカー希望小売価格●MONTAGE M6:440,000円、MONTAGE M7:473,000円、MONTAGE M8x:517,000円

Specifications

【鍵盤】61鍵FSX 鍵盤(イニシャルタッチ/ アフタータッチ付)、76鍵FSX 鍵盤(イニシャルタッチ/ アフタータッチ付)、88鍵GEX鍵盤(イニシャルタッチ/ポリフォニックアフタータッチ付)【音源部】●音源方式:Motion Control Synthesis Engine/AMW2:最大128 エレメント、FM-X:8 オペレーター、88アルゴリズム、AN-X:3オシレーター、1ノイズ●最大同時発音数:AWM2=256音(ステレオ/モノ波形いずれも)、FM-X=128音、AN-X=16音●マルチティンバー数:内蔵音源16パート、オーディオ入力パート(A/D、USB)●波形メモリー:プリセット=10GB 相当(16bit リニア換算)、ユーザー=3.7GB●パフォーマンス数:3,369●フィルター:18 タイプ●エフェクト:リバーブ×12タイプ、バリエーション×88タイプ、インサーションA×88タイプ、インサーションB×89タイプ、マスターエフェクト×26タイプ、A/Dパートインサーションは83タイプ、マスターEQ(5バンド)、1stパートEQ(3 バンド)、2ndパートEQ(2 バンド)【シーケンサー】●容量:1パターン/ソング=約 130,000音●音符分解能:四分音符/480●パターン:パターン数=128、トラック=16シーケンサートラック、テンポトラック、シーントラック●アルペジエーター:最大8パート同時オン可、プリセット=10,922タイプ以上、ユーザー=256タイプ【その他】●ライブセット数:プリセット=128以上、ユーザー=2,048●接続端子:USB TO DEVICE [1] / [2]、[USB TO HOST]、MIDI [IN] / [OUT] / [THRU]、FOOT CONTROLLER [1] / [2]、FOOT SWITCH [SUSTAIN] / [ASSIGNABLE]、OUTPUT(BALANCED) [L/MONO] / [R](TRSバランス出力端子)、ASSIGNABLE OUTPUT(BALANCED)[L] / [R](TRSバランス出力端子)、[PHONES](ステレオ標準フォーンジャック)、A/D INPUT [L/MONO] / [R](標準フォーンジャック)●寸法:61鍵=1,037(W)×396(D)×131(H)mm、76鍵=1,244(W)× 396(D)×131(H)mm、88鍵=1,446(W)× 460(D)× 170(H)mm ●重量:61鍵=15.3kg、76鍵=17.6kg、88鍵=28.1kg

お問い合わせ

ヤマハお客様コミュニケーションセンター シンセサイザー・デジタル楽器ご相談窓口 TEL.0570-015-808 つながらない場合は TEL.053-460-1666