【製品レビュー】 BEHRINGER Syncussion SY-1

70年代の名機をもとに現代的な機能を追加した
6つのオシレーター・モード搭載のドラム・シンセ

多くのビンテージ・シンセを現代に蘇らせているベリンガーから、今度は70年代に発売されていたドラム・シンセサイザーをもとに設計したSyncussion SY-1というなんともマニアックな製品がリリースされた。

まず当時のシンセ・ドラム、電子ドラムについて振り返ってみると、70年代後半、世界初のシンセ・ドラム、ポラード社のSyndrumが発売され、YMOやフランク・ザッパのドラマー、テリー・ボジオなども演奏していた。他にも同じくアメリカのスター・インストゥルメンツ社のThe Synare、日本では80年代に東洋楽器のUlt Soundが発売され、これらはテクノポップ、ニューウェーブなどのジャンルで多用されている。その後発売されたイギリスのシモンズ社の製品は、電子音的なドラムではなく、キック、スネア、タムの太い芯のあるサウンド、ドラム・セットすべてが電子ドラムという形に変わっていく。その狭間で、1979年にパール楽器のSY-1は発売された。

Syncussion SY-1は、全く同じシンセ・ドラム音源が2つ独立して用意されている。オリジナルは縦に2つ並んでいたが、今回のSY-1はユーロラック・タイプの音源と同じスタイルにするため、横に2つが並んだ形に。

まずは豊富なオシレーターに注目してみよう。各チャンネルの左側にオシレーター・タイプの選択ツマミがある。シングル・オシレーター、2オシレーターFM、2オシレーター・ミックス、トリガーの強さに対応してスウィープする2オシレーター、2オシレーターFM+ホワイトノイズ、ホワイトノイズのみの6種類をA〜Fという名前で切り替える。Aのシングル・オシレーターは、シンプルなサイン波に近いサウンド(わずかに奇数倍音が含まれる)。B、DのFM 系サウンドは、複雑で金属系の音作りに向いている。Fのホワイトノイズは、打楽器音をノイズで作るのに非常に使いやすいサウンド。シンセサイザーの原理的にはホワイトノイズはTUNE ツマミでピッチは変わらないはずだが、そこは使い勝手を考えて、ホワイトノイズの時はTUNEツマミでレゾナンス入りでカットオフが変化する形になっている。そのため、ホワイトノイズでありながら、ピッチ感の調整が可能だ。

その他のパラメーターは、オシレーター切り替えボタンの横に縦スライダーが並んでおり、左からオシレーターのピッチ、下にはFINE の小さいツマミも用意。次が音量の減衰を設定するDECAYタイム、フィルターのカットオフを設定するWIDTH、ピッチが上昇/下降するSWEEPのスピード、幅(変化量)を設定するRANGE、下にはSWEEPが上昇か下降かオフの切り替えスイッチ。ピッチをLFO変化させるSPEEDとDEPTH、下にはLFOの波形とオフの切り替えスイッチ。そしてピッチにサンプル&ホールドのオン/オフ、アウトプット・レベルが並んでいる。適当にツマミを動かしていても面白いサウンドが出せるが、やはりSWEEPをオンにして上昇/下降するサウンドが当時のシンセ・ドラムらしい雰囲気を出す。

▲シングル・オシレーター、2オシレーターFM、2オシレーター・ミックス、トリガーの強さに対応してスウィープする2オシレーター、
2オシレーターFM+ホワイトノイズ、ホワイトノイズという6種類のオシレーターを各チャンネルに搭載。

音の出し方にはいくつかの方法がある。各チャンネル左下にあるトリガー・ボタンが一番シンプル。ドラム・パッドやモジュラー・シンセなどでトリガー情報を各トリガー入力に入れる方法は当時のシンセ・ドラム本来の使い方だが、この時ドラム・パッドの演奏の強さで反応を調整するSENSEツマミも重要な役割となる。そしてもう1つの方法がMIDIによるもの。パネル右上のMIDI IN、または背面のUSB端子を使用する。MIDIの場合は2つのモードがあり、1つはシンプルに同一MIDIチャンネルで、ノート36(C1)がCh1の音、ノート38(D1)がCh2の音をトリガーする。もう1つのモードは、シンセ・ドラムの領域を超え、オリジナルより高性能で特筆すべき点で、全鍵盤で音程のある演奏ができるというものだ。これはシンセ・ドラムというより鍵盤のシンセそのもので、シーケンス・パターンをDAWから送って演奏させながら、ツマミで音を変化させていくといった使い方ができる。しかも2系統も。この場合、2つの音源はMIDIチャンネルで区別して演奏させる形になる。

背面のパネルに各チャンネルの出力があるが、パネル上部にもモジュラー・シンセとの接続を考えたミニの出力がある。パネル上部には、その他にフット・ペダルなどでTUNE の値を調整できるTUNE 入力、ドラム・パッドなどのトリガー(TRIG)入力、トリガーのセンシティビティ(SENSE)・ツマミ、ヘッドフォン出力を装備。そしてこちらも面白い機能で、フット・ペダルを使ってディケイを止める機能のMUTE。これは完全に音がミュートされるという意味ではなく、DECAYの値を0にすることで、短いディケイ、長いディケイをペダルで切り替えられるというもの。ハイハットのオープン/クローズの切り替えを想像してもらうとよい。右端にはMIDI入力端子が用意されている。

音楽制作において、リアルなドラムのプラグインは今では簡単に手に入るし、リズム・マシンやリズム・ボックスなどの音もサンプリングで手に入る。しかしこういったシンセ・ドラム・サウンドの場合、シンセサイザーで作ることも可能だが、やはりドラム・シンセに特化したパラメーターが使いやすい形で用意されていて、個性的なサウンドを提供してくれるのはなかなかないタイプの製品と言えるだろう。また、MIDIで楽器としても演奏できるし、テーブルの上でトリガー・ボタンだけでも演奏できる点でも、用途の幅は昔のドラム・シンセとは比べものにならないほど広がったものになっている。

文:松前公高

製品情報

BEHRINGER Syncussion SY-1

希望小売価格●34,800円(税込)

Specifications

●ボイス:2●音源:アナログ●VCO:2●LFO:2●VCF:2(LPF)●ENV:Decay のみ●入出力端子(リアパネル):CH1/2 OUT、MIDI THRU、USB/(フロントパネル):OUTPUT、TUNE、TRIG、SENSE、MUTE、MIDI IN、ヘッドフォン●外形寸法:424(W)×95(H)×134(D)mm ●重量:1.9kg

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サウンドハウス TEL.0476-89-1111