【製品レビュー】DREADBOX Artemis

優れた設計でアナログ回路と極上エフェクトを融合した
ギリシャ発の6ボイス・テーブルトップ・シンセ

今回紹介するのは、ギリシャ発で新進気鋭のドレッドボックス社からリリースされたテーブルトップ・アナログ・シンセ“Artemis”だ。このドレッドボックス社は、2012年創業の小さなガレージ・メーカーではあるが、これまでもErebus、Typhonといったシンセで世界的に成功しており、現在では高品位のエフェクト・ペダル、テーブルトップ・シンセ、ユーロラック・モジュールをラインナップし、それぞれに高い評価を得ている。俄然注目のシンセ・メーカーの1つだろう。余談だが、同社のリバーブ・ペダル“Darkness(暗闇)” は、廉価ながら高品位なリバーブが得られるのでおすすめだ。

それでは、本機を見ていこう。上半分に12個のツマミ、真ん中に20個のボタン、下半分に22本のスライダーと、変則的かつシンプルにまとめられたルックスではあるが、VCO部が独特の面構えをしていたりと、随所に気になるポイントがある。どのような音が飛び出すシンセなのか、興味をそそられるではないか。

電源を入れて、まずプリセットを順に聴いてみたのだが、なんとも繊細で美しい音色が次々と出てくる。コルグのシンセやNTS-3にも採用されているサインバイブス社の極上エフェクトと相まって、心地良い響きに包まれ没入してしまった。

VCOは2基備わっており、それらにSUB OSC/NOISEが加わるという構成である。VCO波形はどちらもノコギリ波〜矩形波〜三角波まで滑らかに連続変化するタイプなのだが、特徴的なのが1個のノブで2基の波形を同時に可変させる仕様である。試奏した当初は、VCO波形を自由に組み合わせたかったが、例えばミニマルなシーケンスを走らせながら波形を微妙に変化させていく時に、この1ノブ仕様の方が非常に滑らかな音色変化を生み出せるなど、とても扱いやすいことに気付かされた。これはアリだな。

LFOも2基用意されており、それぞれ0.1Hz 〜25kHz のレンジを持ち、BPMシンクも可能だ。2基とも6種類の波形を選択でき、さらにLFO1はRise&Fall型のエンベロープとしても使用することができる。この時、FADE INノブがRiseとFallの動き、RATEでそのサイクル時間を制御する。LFO2ではFall型のエンベロープが選択でき、RATEでサイクル時間を制御する。もちろん、これらのエンベロープは極性を反転することも可能だ。VCF・VCA用のADSRに加えてこれらのエンベロープも使えるので、音作りの幅はかなり広がるだろう。

また、ユニークなのは、LFO2でLFO1のRATE値を変調できるXMOD機能が付いている点だ。これにより、LFO1のRATE 値を動的に可変させられるので、ラチェット効果や複雑な動きのLFO やエンベロープも生み出すことができる。シンプルな見た目のLFO 部ではあるが、このように気の利いた機能が盛り込まれており、しかも簡潔な操作で扱えるので使い勝手が良く、その設計に思わず唸った。

▲VCOは1個のノブで2基の波形を同時に可変させる仕様で、滑らかな音色変化を生み出せる。
また、LFO2でLFO1のRATE値を変調できるXMOD機能が付いている点も特徴的かつ効果的。

次にVCFをチェックしよう。滑らかで上品なLPF(24dB/12dB)と、エフェクト部の直前段にはHPFも備わっている。LPFのカットオフ周波数はFM変調も可能で、変調ソースはVCO2あるいはノイズだ。カットオフ全開でさらにザラザラな音色にしたい時はもちろんのこと、カットオフを閉じてモコモコにしつつも、オケの中で音抜けを良くしながら音を馴染ませたい!という無理難題な欲求を満たしたい時にも、このFM変調での味付けが本当に重宝する。まさに、ひとつまみの塩である。レゾナンスは発振音が非常にシルキーで、制御不能なほど音が暴れることもないので、発振音をサイン波オシレーターとして使うこともたやすい。ここでもFM変調をひとつまみ付加すると、ニューロマの耽美的で退廃的な世界観を醸し出す音色と化すので、個人的にニヤニヤする。皆さんもぜひニヤニヤしてほしいぞ。

Artemisには64ステップ・シーケンサーとアルペジエーターも搭載されている。双方ともプロバビリティ(発音確率)付きだ。主要パラメーターが5本のスライダーに割り当てられているので、設定をリアルタイムに変えることがサクサクとできて小気味良い。

入出力部をチェックすると、最近は標準化されてきたCV/GATE入出力は省かれている。しかしながら、近年のモジュラー環境ではMIDI周りが充実してきており、連携させること自体の障壁は低いだろう。本機には鍵盤に相当するものがないので、発音させるにはSEQ/ARPを走らせるか、外部MIDI鍵盤を接続する必要がある点は注意が必要だ。

最後に、試奏していて強く感じた本機の最大のアドバンテージを2つ挙げたい。まず、シンセ部のパラメーターをノブとスライダーに分けていること。スライダーにはパラメーターの現在値を視覚的に把握できるという利点がある。ただし、すべてスライダーにすると逆に全体の視認性が悪くなる。そこで、各部の基本的なパラメーター設定はノブで行い、変調やエンベロープはスライダーで操作するという形にすれば視認性を確保し、演奏しながらでも自在に音色調整ができる──大変実用的だ。次に、音を変調するための機能と手段が簡潔に実装されている点が秀逸だ。ノイズや倍音をいかに生み出して手なずけるのかがアナログ・シンセの音作りの肝でもあり、音色に個性と色気を醸し出すエッセンスでもある。上品さの中に毒を加味するための裏技テクニックとして、積極的に活用できるだろう。

本機は、優れた設計によってシンセの醍醐味が凝縮され、サインバイブス社の極上エフェクトによって出音が彩られる、完成度の高いピュア・アナログのポリシンセである。設計者、天才かよ……。

文:西田彩ゾンビ

製品情報

DREADBOX Artemis

価格●オープン・プライス(市場予想価格:207,900円前後/税込)

Specifications

●ボイス数:6●3波形を連続可変するVCO:2基●レゾナンス付きローパス・フィルター(12db /24db)●レゾナンス付きハイパス・フィルター(12db)●ADSRエンベロープ・ジェネレーター:2基●シンクおよびクロスモジュレーション機能付きLFO:2基●エフェクト:4カテゴリー●可変ステレオ・パンニング●512プリセット・スロット●入出力端子:USB または DIN5経由のMIDI IN/OUT、1/4モノラルTS ジャック出力(L、R)、1/4ヘッドフォン出力●外形寸法:375(W)×55(H)×185(D)mm ●重量:2.3kg

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