シンセ・ベースの名器〜MOOG Subharmonicon

『FILTER Volume.03』掲載企画“シンセ・ベースの名器”では、ハードウェアからソフトウェア、さらにモジュールまで、強力なシンセ・ベースを生み出す現行機種をピックアップしました。そのレビューをWebでも公開!

サブハーモニック・オシレーターを搭載し
骨太で即戦力のベース・サウンドを生成
幅広い表現ができるセミモジュラー・シンセ

今回はシンセ・ベースとしてのSubharmoniconということで、単なる機材レビューとは異なるアプローチで本機を見ていきたいと思う。さて、このSubharmoniconというシンセ、そもそも独特な設計の4ステップ×2列からなるポリリズム・シーケンサー、そして2つのサブハーモニック・オシレーターを備えたVCOを2基搭載という、非常にマニアックな位置付けのセミモジュラー・シンセである。なのでベース音源として使用するために購入するという人はほとんどいないのではないだろうか。しかしながら、このような異色の機種ではあるが、出音の太さと存在感はモーグの血統をしっかりと受け継いでいるので、ベース音源としてのポテンシャルも高そうだ。

まず、シンセとしての機能面から確認していこう。本機には独立したLFOやグライドも備わっていないし、VCFもVCAもエンべロープはATTACKとDECAYのみなので、単体使用においてはアーティキュレーションに限界があることは否めない。では、どこに本機ならではのアドバンテージがあるのか?となるわけだが、やはり前述のVCOごとに2つ備わっているサブハーモニック・オシレーターによる重厚な音とファットなVCF、そしてセミモジュラー仕様にあると言える。

このサブハーモニック・オシレーター、あまり馴染みがない読者もいらっしゃるだろうから、どのようなものなのか簡単に説明しておく。これはVCOの周波数を整数で割り算したときに得られるアンダートーン(分数調波)によるオシレーターで、結果として5度下やオクターブ下などの周波数を出力できるのだ。よって本機のOSCは3VCOを2系統、計6個ものVCOを持つシンセと見なすことができるわけだ。

次に演奏の点から眺めてみる。本機は内蔵のシーケンサーによる演奏だけでなく、TRS仕様のMIDI端子が備わっているので、当然ながらMIDI音源としても使用できる。MIDI音源として使用するときは、本体中央のQUANTIZEボタンを12-ET(平均律)か12-JI(純正律)にしておく。これによってMIDIノートナンバーと本体の音律が一致する。

また、MIDI演奏時には、EGの挙動が内蔵シーケンサーからトリガーするときとは違ってDECAYがリリース・タイムとして機能し、ノートオンを続ける限りSUSTAINレベルが最大値を保つようになる。ここで外部のEGをCVでCUTOFF INへパッチすると、本機のEGではできないVCFの時間変化にも対応できる。このあたりはセミモジュラーならではの自由度だろう。これはアイディア次第でさらにアグレッシブな音色も作り出せることを意味している。

シンセ・ベースのセッティング例を見ていこう。OSCの波形は任意、VCO1のピッチのみ1オクターブ上に、Sub1をベースにふさわしいピッチ、Sub2をその1オクターブ下に設定、VCO2はSub1を1オクターブ下、Sub2は2オクターブ下にする。このセッティングのポイントは、VCO1の周波数を倍音成分扱いにしてオケの中でのヌケ感を調整できるようにし、ほかの5つの出力レベルで重厚さをコントロールできる点にある。また、各ボリュームを最大にすれば、内部でサチュレーションがかかって出力されるので、ガツンと攻めたいときは迷わず最大にしておきたいところだ。VCFのCUTOFFは10時方向あたりにしておき、外部のEGからCUTOFFにパッチし、時間変化をコントロールすれば、レゾナンスを効かせた音色でも幅広い表現力を発揮できる。

ここまで駆け足で見てきたが、本機は6VCOによる骨太で“使える”ベース音色を生み出せることがわかった。シンセ・ベースの音が決まらないときはぜひ試してほしい。かなり重宝するのではないだろうか。最後に、2022年3月に公開されたFirmware v1.1.0では、MIDIによるピッチベンド対応になったことも付記しておきたい。(文:西田彩ゾンビ)

製品情報

MOOG Subharmonicon

メーカー希望小売価格●126,500円(税込)

Specifications

●音源:アナログ●ソース:VCO 1、SUB 1、SUB 2 / VCO 2、SUB 1、SUB 2●フィルター:セルフオシレーティング・ラダー・フィルター、ローパス、4ポール (-24 dB/オクターブ)●エンベロープ:VCA EG(アタック、ディケイ)、VCF EG (アタック、ディケイ)●シーケンサー:アナログ×2、シーケンサーあたり4ステップ、選択可能なクオンタイズ、クロック=あらゆるリズム・ジェネレーターで動作●リズム・ジェネレーター:4基、リズム=テンポを整数値(1〜16)で除算して導出、クロック=20BPMから3,000BPM(1分間あたりのビート数、1パルス/四分音符)、MIDIクロック、EXTクロック●パッチベイ:32パッチ・ポイント(3.5mmミニジャック)、17入力ジャック、15出力ジャック、3.5mm MIDI入力(Type Aドングルを含む)●オーディオ出力:1/4インチ(6.35mm)標準ジャック(ヘッドフォン出力と兼用)●外形寸法:106.7(H)x 319.3(W)x 133.1(D)mm●重量:1.58 kg

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