シンセ・ベースの名器〜NORD Nord Lead A1

『FILTER Volume.03』掲載企画“シンセ・ベースの名器”では、ハードウェアからソフトウェア、さらにモジュールまで、強力なシンセ・ベースを生み出す現行機種をピックアップしました。そのレビューをWebでも公開!

初心者にもわかりやすい操作性ながら
高度な音作りのシンセ・ベースを追求できる
ロングセラーのアナログ・モデリング・シンセ

Nord Lead A1は2014年の発売で、ロングセラーと言っていい機種です。移り変わりの激しい電子楽器の世界でロングセラーとなるにはそれ相応の理由がある……ということで、今回の特集であるシンセ・ベースに絡めてその魅力を見ていこうと思います。

基本構成は、オシレーター、フィルター、アンプの各セクションと、それらに時間的な変化を与えるエンベロープと周期的な変化を与えるLFOがあり、音の仕上げをするエフェクトがあるというシンプルなもの。ツマミはほぼ表に出ているので、どこを触れば求める効果が得られるのか?がとても理解しやすいシンセです。

このシンセの操作上で特徴的だなと思うのはオシレーターです。基本的な構成は2オシレーターのシンセに準じますが、2オシレーター分のパラメーターが表に出ているわけではなく、“1オシレーターのみ使う?”“2オシレーターを使ってデチューンをかける?”“オクターブ違いにする?”シンクをかける?”“FMやAM変調にする?”といったように、2オシレーターの使い方を選んでその度合いを決める、というスタイルになっています。個人的にこれは非常にうまいまとめ方だと思いました。特にFM、AM変調は複雑な倍音を持つ音色を作る上では必須のテクニックですが、初心者には音のイメージがつかみにくいところもあるかと思います。複雑な設定をしなくてもツマミ1つでその効果を聴いて、“こうなるのか!”と素早く耳で判断できるのはいいですね。

ベースとしてビシッとフォーカスの定まった低域が欲しければ1オシレーターで。より充実したローが欲しければ2オシレーターにして、1オクターブ下げたサイン波を加えてもいいでしょう。また、積極的に2オシレーターを生かしてチューニングをずらし、滲ませた壁のような音によるベースはシンセ・ベースならではの音作りです。

フィルターは、切れ味の違うローパスにハイパス、バンドパスの6タイプが装備されています。特筆すべきは、LPM、LP TBと名付けられたラダー・フィルターのシミュレーション。どちらもシンセ・ベースの名機とされたシンセに装備されていたフィルターを“音楽的な歪み”など回路的な特性も含め再現したものです。セッティングを同じにしてLP 24とLP Mを聴き比べると、確かに後者の方が低域の存在感があります。また、フィルターの“音楽的な歪み”に関してはDRIVEツマミが秀逸。上げていくことで音にムチッとした飽和感が足されていくので、音の太さが欲しいシンセ・ベースにはうまく使えばとても効果的でしょう。

アンプ部分はエンベロープがADRタイプで、D(ディケイ)を最大にすると持続音になるタイプです。しかしサステイン・レベルを低くして、アタックにプチッとクリック感のあるシンセ・ベースはどう作れば良いのでしょう? ここに関しては、VOICE MODEの選択が鍵です。LEGATOモードにしてシングル・トリガー(レガートで弾くと最初に弾いた音にだけエンベロープがトリガーされる)にすると、ディケイを生かしたまま音が伸びるので、ディケイを0にすればOK。LEGATOモードは、シンセ・ベースらしいグリッサンドには必須のモードなので、まさにシンセ・ベース向きのセッティングです。

では、マルチトリガー(常にエンベロープがトリガーされる)でそういう音はどう作るか? このA1には、スロットと呼ばれるパートが4つあり、シンセが4台入っているのと同様の構造になっています。スロット間でコピー&ペーストも可能なので、別スロットでプチッというアタック部分とサスティン部分を作り、組み合わせれば良いのです。この4スロットを組み合わせた音作りができることによって、A1は初心者に優しいだけではなく、高度な音作りも可能になります。アウトも4つあるので、シンセ・ベースとパッドなどのシンセ音を分けて出力することも可能です。シンセとしての基本構造はわかりやすく、それを組み合わせることで上級者も納得の音作りの可能性を持たせるという作りは非常にうまく、定評あるNord Leadサウンドと相まってロングセラーも納得のシンセでした。(文:高橋利光)

製品情報

NORD Nord Lead A1

メーカー希望小売価格●253,000円(税込)

Specifications

●キーボード:49鍵、ベロシティ・センス、オクターブ・シフト・ボタン(±2オクターブ)付き●同時発音数:26ボイス●オシレーター:マルチプル・ウェーブフォームによるオシレーター・モデル(トラディショナル・アナログ、エクステンデッド・アナログ、パルス・ウェーブフォーム、リアルタイム・アルゴリズミカル・ウェーブフォーム=アディティブ、FM、フォルマント・シンセシス、オシレーター・コンフィギュレーション・ノブ=11カテゴリー(ピッチ、シェイプ、オシレーター・シンク、ノイズ・ミックス、オシレーター2デチューン、サイン波ミックス、三角波ミックス、鋸歯状波ミックス、矩形波ミックス、FM、AM)●フィルター:マルチモード・フィルター:12dB(2ポール)ローパス、24dB(4ポール)ローパス、バンドパス、ハイパス、Ladder M、Ladder TB●LFO:波形=三角波、矩形波、ノコギリ波、反転ノコギリ波(ランプ波)、サンプル&ホールド、フィルターのカットオフ・フリケンシー及びオシレーターのモジュレーションに使用可能●アルペジエイター:レンジ=1〜4オクターブ、モード=アップ、ダウン、アップ/ダウン、ランダム●エンベロープ:ADR/ASRタイプ、ベロシティ・コントロール(オン/オフ)、エンベロープ反転(オン/オフ)●エフェクト:フランジャー、フェイザー、リング・モジュレーション、コーラス、アンサンブル、ドライブ●ディレイ:タップ・テンポ、フィードバック(4段階)、ピンポン・モード、ドライ/ウェット・ミックス●リバーブ:5アルゴリズム(ルーム、ステージ1、ステージ2、ホール1、ホール2)●メモリー:プログラム=400、パフォーマンス=200●接続端子:オーディオ・アウト4系統、ヘッドフォン・アウト、MIDI(IN、OUT)、サスティン・ペダル、コントロール・ペダル、エクスプレッション・ペダル、USBポート(USB-MIDI機能使用可能)●外形寸法:864 (W) x 272 (D) x 94 (H) mm●重量:4.85kg

お問い合わせ

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