シンセ・ベースの名器〜CASIO CT-S1000V

『FILTER Volume.03』掲載企画“シンセ・ベースの名器”では、ハードウェアからソフトウェア、さらにモジュールまで、強力なシンセ・ベースを生み出す現行機種をピックアップしました。そのレビューをWebでも公開！

エフェクトやモジュレーションで
素早く感覚的にシンセ・ベースを作成できる
Vocal Synthesis搭載のカシオトーン

独自の音源技術Vocal Synthesisにより、“楽器で歌声を演奏する”という新しい表現を提案するカシオCT-S1000V。スマートフォンやタブレットを使い、アプリ上で入力した歌詞データを本体に転送することで、口ずさむような感覚で歌詞とメロディ、ハーモニーを生み出すことができます。AiX音源の臨場感溢れる多彩な楽器音色とともに、22種類の歌声の音色バリエーション（年齢や性別、ビブラートやポルタメントなども細かく設定可能）は、演奏する楽しさはもちろん、作詞作曲という楽曲制作の出発点において、今までにない発想やインスピレーションを与えてくれるツールとなるでしょう。

シンセ・ベース・カテゴリとしてプリセットされている13個の音色と、EDM SYNTHカテゴリーの各音色は、そのままシンベとして使えるものも多いです。クリアで真っ直ぐなのにどこかクセがあって、印象に残ってしまう“カシオらしいサウンド”がいっぱい。INSTRUMENTモードのとき、K1ノブはカットオフ、K2ノブはレゾナンス、K3ノブはモジュレーションとして機能しているのですが、シンベ以外にも、たとえば#547 CZ BASSや#556 VZ BASSといった“これぞカシオのベース”なサウンドを、カットオフを上げていくことでどんどんブライトで硬い音にしていったり、モジュレーションを大袈裟にかけてチョーキングのようなニュアンスをシンセサイズできたりして、カシオトーンで本気で遊んでる！という感覚を思い出せるのが楽しいです。

さらに100種類のバリエーションを持つDSPエフェクトは、単なる色付けを超え、出音の処理を細かく吟味、調整できるセクションとなっています。例えばDrive、Tone Control、Amp Cabをモジュールに持つ“Drive Amp1〜6”は、それぞれ4つめのモジュールがPhaserやFlangerやPitch Shifterなど個性が光っていて面白いし、“Re-Amp1〜6”はどんな音色のシンベもきれいにコンプがかかり、DTMでベース・アンプをシミュレートしているような感覚で選べるので使いやすいです。ほかにも“AmbiEnh1〜6”はDriveやDelayを含むエンハンサー・エフェクト（低域や高域の輪郭を際立たせてくれる）として、シンセ・ベースの迫力を保ちながらしっかりキャラクターのある音に仕上げたいときに重宝します。そしてDrive系エフェクトが全般的にゴツくて最高。ギターやベースにコンパクト・エフェクターをかませ、足で踏んでオンにしたときのようなダイナミックな豪快さを持っているので、ソロ・パートのときだけオンにしてブーストさせるような使い方も馴染みます。ぜひバンド・アンサンブルにも試してみてください。

また、K1〜3の3つのノブはそれぞれ独自のパラメーターをアサインできるので、例えばスウィングしたリズムの楽曲で、ディケイ短め、リリース長めのコントラバスのようなシンセ・ベースを弾く際、K1はリリース、K2はモジュレーションやビブラート・デプス、K3はコーラス・レベルにしてみたら、リアルタイムでの表現力がぐっと増しました。EQもLow、Mid1、Mid2、High Gainを設定できるので、3つのノブを音域ごとにアサインしてしまえば、ひとまずキックに合わせてローの音圧感やハイのアタック感など輪郭を定めたいときに感覚的な操作で音作りができてとてもスムーズです。MENU内のEQUALIZERでも、“Loudness”や“Bass+”、“Dance”といったEQパターンを設定可能なので、ざっくりとした音作りのヒントを得やすいですよ。

複雑な歌詞を伴うボーカルが表現可能になっているカシオCT-S1000V。“Bong Bong”や“Dum Dum”な
ど、アカペラのベース・パートによく合う歌詞を入力して、低音域をベース音色として使用するのもグッド。音節の数や区切り方によって独特のリズム感を伴う言葉を入力して、フレーズ自体がリズムであり、シーケンスであるようなオリジナルのシンベ・サウンドもぜひ作ってみてくださいね！（文：AZUMA HITOMI）