開発者インタビュー〜エリック・パーシング/SPECTRASONICS

ソフトウェア音源メーカー、スペクトラソニックス(SPECTRASONICS)の創業者でありサウンド・デザイナーのエリック・パーシング氏。シンセサイザー奏者としての一面も持ち、かつてはローランドに在籍し数多くのプリセット・パッチ制作を行っていた。スペクトラソニックスはこれまでTrilian、Omnisphere、Stylus、Keyscapeをはじめとしたさまざまな製品を送り出しミュージシャン/クリエイターの音楽活動をサポートしてきたが、そのスタートはベース音源からだった。そこで今回は、パーシング氏にベース・サウンドを中心に、同社の設立の経緯やビジョンについて話を伺った。(『FILTER Volume.03』より転載)

世界で有数のベース・プレイヤーたちと
ベースのライブラリーを一緒に作ることを思いついたんです

シンセ・ベースのサウンドに興味を持ったのはいつでしたか?

Eric とても早いですね。子供の頃に、例えばゲイリー・ライトの「夢織り人(Dream Weaver)」、スティーヴィー・ワンダーの「レゲ・ウーマン(Boogie On Reggae Woman)」、チャカ・カーンのビートルズ・カバー「恋を抱きしめよう(We Can Work It Out)」などを聴いてからだと思います。「恋を抱きしめよう」には、私の素晴らしい友人、グレッグ・フィリンゲインズのシンセがフィーチャーされていましたね。もちろん、他にもインスピレーションを与えてくれた曲は何百とあります。

アナログ・シンセをはじめいろいろなハードウェア・シンセに触れてきたと思いますが、一番好きな機種というと?

Eric ヤマハCS-80です。今もMIDI仕様にしたものを持っています。個人的な意見ですが、間違いなくこれまでに作られた中で最高のシンセです。

エリックさんはローランドで働いていた当時、シンセ・ベースのサウンドが優れていると思ったシンセサイザーはありましたか?

Eric ローランドのシンセには、ベース用に使えるものがたくさんありました。例えば、SH-101やJuno-60は今でも素晴らしいと思います。ですが、歴代の最高傑作は間違いなくSystem-700。あのモジュラー・シンセには度肝を抜かれました。

ローランドのどのシンセのプリセットを制作していたのでしょうか?

Eric 1982年に発売されたJuno-106から始まって、Jupiter-6、Super Jupiter MKS-80、D-50、JD-800、JVシリーズまで、歴代のローランド・シンセのベース・パッチの大半は私が作ったんですよ。

特に思い出に残っているプリセットを教えてください。

Eric 私がこれまでに作ったパッチで最も有名で影響力のあるものは、αJunoのために作った音色で、“Hoover”サウンドと呼ばれる“What The?”というパッチです。これは、1990年代からのUKエレクトロニック・ミュージックのジャンルで多用されました。その他、D-50のパッチである“Digital Native Dance”“Soundtrack”“Glass Voices”や、JD-800に収録されているオリジナル・サウンドもすべてよく知られていると思います。1982年から2002年までローランドのチーフ・サウンド・デザイナーを務めたので、その黄金時代に作った音は本当にたくさんありますよ。シンセの歴史の中で重要な時期に立ち会えたことは、とても光栄であり幸せでした。

スペクトラソニックスを立ち上げた経緯を教えてください。のちにリリースされることになるBass Legendsのアイディアから始まったそうですが、なぜベースだったのでしょうか。

Eric 当時、私はローランドのオフィシャル・サンプル・ライブラリーをすべて作成していましたが、ベース・ライブラリーが存在しなかったのです。ある時、マーカス・ミラー、ジョン・パティトゥッチ、エイブラハム・ラボリエルという私の良き友人で、世界で有数のベース・プレイヤーたちとそのライブラリーを一緒に作ることを思いつきました。1994年のことです。しかし、ローランドのような企業が引き受けるべきプロジェクトとは思えなかったので、妻と2人で“スペクトラソニックス”という名前の小さな会社を作り、ベースのサンプル・ライブラリー、Bass Legendsを販売することにしました。それから28年、今、私たちはどうなっているでしょう? あの小さなアイディアがこんなにも大きくなるとは思ってもみませんでした。

その後、スペクトラソニックスは最初のバーチャル・インストゥルメントのベース音源として、Trilogyをリリースしました。開発にあたってのコンセプトは?

Eric 誰だってベースは必要ですからね(笑)。当時はベース用のプロフェッショナルなバーチャル・インストゥルメントが存在しなかったので、それを作ることはとても意味のあることでした。私たちはBass Legendsですでにベース・サウンドの専門知識を得ていたので、Trilogyでそれをさらに発展させることは自然な流れでした。アコースティックとエレキ、さらにシンセのベースを同じインストゥルメントに統合するというアイディアはユニークでしたし、今でもそうだと思います。

TrilogyはTrilianへと発展していきます。どんなふうに進化したか、そこに採用された技術はどんなものなのかを教えてください。

Eric まずTrilogyは、フランスのディストリビューターと共同開発した初期バージョンのUVIエンジンをベースにしています。RAMしか使わずストリーミングもないので、容量が軽いことが利点でした。ただ、エフェクトは装備していません。Trilianは、自社開発のパワフルなSTEAMエンジンをベースにしているので、高度なストリーミング技術を使用し、レガートなどのアーティキュレーション、リリース・ノイズなど、マルチチャンネルで表現の細部までをサンプリングしており、またパワフルなシンセシスも行えます。もちろん、Trilianには幅広いエフェクトも搭載しています。これらの機能を使って、今までより多彩なサウンドを作成することができるようになりました。TrilianとOmnisphereのライブラリーが完璧に統合されているところも大きなメリットです。

Trilianに収録されているプリセットで特にユーザーに勧めたいものはありますか?

Eric 素晴らしいサウンドがたくさんあるので、選ぶのは難しいですが、Acoustic Bassは、20,000を超える個別のサンプルからなる、これまでに作成した中で最も難しく複雑なサウンドの1つですね。そのクオリティは、非常に誇りに思っています。

ベース・サウンドの音作りのポイントを教えてもらえますか?

Eric 音作りの哲学は何年もかけて大きく進化してきました。例えばBass Legendsでは、サンプルの録音時に使ったEQとコンプレッサーはビンテージの機材でした。その結果、これらのサウンドは現在でも素晴らしいものですが、エフェクトがかけ録りされているため、サウンド的にはそれほど柔軟ではありません。そこで、Trilianでは、EQやコンプレッサーを使わずに録音するようにしました。Trilian自体にそういったエフェクトが組み込まれているので、ユーザーが好みや必要に応じてその加減をコントロールすることができ、より目的の音に近づけやすくなります。このアプローチによって、サウンドは将来にわたって利用できるようになり、DSPテクノロジーが向上するにつれて、サウンド自体も時間の経過とともに向上し、最新性と柔軟性が維持されるのです。

MPE、NKSなど、プレイヤーの感情を表現する能力を引き上げるような新しい規格がありますが、そのようなフォーマットに対応する計画はありますか?

Eric ええ。実際、現在MPEをどうサポートするかに取り組んでいます。期待していてください。

シンセ・ベースを使う際のお勧めのハードウェア・コントローラーはありますか?

Eric Omnisphereには、非常に優れたハードウェア・シンセ統合機能があります。モーグMinimoog Voyagerを使ってそのOmnisphereのベース・サウンドをコントロールするのが大好きです。とてもオールドスクールなスタイルで、楽しい気分になります!

エリックさんの好みのベース・サウンドはどのようなものですか?
 
Eric 個人的にはフレットレス・ベースが大好物なので、キーボードで弾くととても楽しいです。

これから開発したいと考えている製品や将来のビジョンについて教えてください。

Eric 私たちは、常に新しいものに懸命に取り組んでいます。既存のすべての楽器にも、これから出てくる新しい楽器にも、エキサイティングなことが起こるということを約束しておきます。

日本のシンセ・ファンにメッセージをお願いします。

Eric Trilianの世界一のファンである日本のユーザーに感謝します! 皆さん、ありがとうございます。感受性を豊かにして、創造し続け、学ぶために柔軟な心を持つことを決してやめないでください。世界はとても広く、無限のインスピレーションの源なのですから。

製品情報

SPECTRASONICS Trilian

価格●38,200円(税込)

REQUIREMENTS

●CPU:2.0GHz以上のプロセッサー
●RAM:8GB以上を推奨
●ドライブ:36 GB以上の空きドライブ容量 (ダウンロードインストーラーでは72GB以上)
●OS:【Mac】macOS 10.13 - 12(64bit Intel/M1チップ)【Windows】Windows 7-11(64bit)
●フォーマット:AU(Macのみ)、VST3、VST 2.4、AAX 対応64bitホスト、スタンドアローン

お問い合わせ

メディア・インテグレーション MI事業部 TEL.03-3477-1493