FM/ウェーブテーブルの現在〜YAMAHA MONTAGE6

『FILTER Volume.02』掲載企画“FM/ウェーブテーブルの現在”では、シンセ・シーンで再び注目を集めているFM/ウェーブテーブル・シンセサイザーを特集。各メーカーからリリースされている最新のFM/ウェーブテーブル・シンセのレビューをWebでも公開! 

最先端のFM-X音源と
モーション・コントロール機能で
これまでにない多彩な表現が可能に

ヤマハのフラッグシップ機として2000年代に15年ものあいだ君臨したMOTIFの後継として登場したMONTAGE。音源部には圧倒的な容量のPCM波形が収録されたAWM2音源に加えて、同社の名機FS1RのFM音源を継承し、動的な自由度と表現力を兼ね備えたFM-Xが搭載されている。今回はこのFM-X音源部を掘り下げようではないか。

早速、FM-Xでの音色エディットのおおまかなワークフローを見ていこう。まず、8個のオペレーター(以降オペ)の組み合わせ方をアルゴリズムから選び、オペごとに波形を選択し周波数とレベルを決めるところから始まる。オペで使える波形は7種あり、さらにそのバリエーションが選択できる。この波形がいずれも非常に端正でいて音が良く、単純に8オペをすべてキャリアとして並べただけの加算合成シンセとしても使い勝手が良い。

次に、Freq EGとLev EGを設定する。オペをキャリアとして使うならLev EGは音量の時間変化として、モジュレーターとして使う時にはこのLev EGが変調の深さ、すなわち倍音の時間変化となる。Lev EGはADSRではなく、Holdと2つのDecayを持つHADDRなので、より繊細な時間変化を生み出せる。ただし、同社SYシリーズにあったEGループがないのはいささか残念ではある。

Freq EGをうまく使うと、Prophetのポリモジュレーション的な音色も作れる。例えばオペ2段積み以上のアルゴリズムを選択し、モジュレーター側の周波数Ratioを任意の小数点値にしてFreqEGで動きをつけると良い感じになる。

オペレーターのLev EGの設定画面。右上は現在選択されているアルゴリズム

こうした一連の設定は大型液晶に表示されるFM部のパラメーターを見ながら行うのだが、画面のページ数としてはわずか2ページのみですべての設定が見通せるので非常にわかりやすい。

ここまでで音のアウトラインがほぼ出来上がるので、Commonページに戻ってLFOや全体のピッチEG、全オペ共通となるフィルターを設定し、エフェクトで整え、これにて音色も一件落着と思いきや、実はここからがFM-Xの真骨頂となる。FM-Xでは、多彩なモーション・コントロール機能によって、FM音源のパラメーターや内蔵エフェクト2基の任意のパラメーターを動的に変化させられるだけでなく、こうしたパラメーターを演奏中にも変幻自在かつ大胆に操ることができるのだ。

モーション・コントロールには従来のアフタータッチやモジュレーション・ホイールなどに加えて、モーション・シーケンス、8個のノブ、ひときわ派手に光るSuper Knobといったコントローラーが備わっている。各コントローラーにはそれぞれ最大16種ものパラメーターをアサインできる上に、Super Knobに至っては最大128種のパラメーターを一括で変化させることができるので、体操競技でいうところの“前方かかえ込み2回宙返り1回半ひねり”という難易度Gクラスの音色変化を、Super Knobを回すだけで繰り出せると言えよう。しかも、その動きを次のモーション・シーケンスで自動化することもできる。

モーション・コントロールでは、8個のノブやスライダー、Super Knobなどによる変幻自在な操作ができる

モーション・シーケンスとは、16ステップ×4レーンのシーケンサーなのだが、これは1ステップごとにさまざまな波形を1周期指定できる高機能LFOが独立4系統あるとイメージするとわかりやすいのではと思う。これらの出力をオペの各パラメーターにアサインすれば、西海岸系シンセのヘンテコなシーケンスなども簡単に作り出せてかなり面白い。

もともとFM音源というのは、ベロシティやブレス・コントローラーなどによるダイナミックな音色変化が可能で、表現力豊かな音源方式だったわけだが、FM-Xではさらに進化を極め、モーション・コントロール機能を駆使すれば音色の大胆なモーフィーングまでも可能になっており、これには驚かされた。そして、タッチパネル式のディスプレイが備わり、8個のノブは演奏時のみならず音色エディット時にもパラメーターに直接対応するなど、視認性も操作性も素晴らしい。

近年、FMシンセは音作りが難解なシンセではなく強烈な倍音生成マシンと位置付けられ、名前のある楽器音ではなく個性的かつ独創的な音色を生み出す使い方へと意識が広がっている。こうした時代の中において、多彩な表現力を発揮するFM-Xはひと味違ったインスピレーションを掻き立ててくれるシンセとして、とても面白い存在ではないだろうか。腰を据えてゆっくり向き合いたくなるシンセだ。(文:西田彩ゾンビ)

最大8+1系統(パート用8系統+Super Knob用1系統)の設定・再生が可能なモーション・シーケンサー

製品情報

YAMAHA MONTAGE6

価格●オープンプライス(市場予想価格:352,000円)

Specifications

●鍵盤:61鍵FSX鍵盤(イニシャルタッチ/アフタータッチ付)●音源方式:Motion Control Synthesis Engine(AWM2=8エレメント、FM-X=8オペレーター、88アルゴリズム)●最大同時発音数:AWM2=128音、FM-X=128音●マルチティンバー数:内蔵音源16パート、オーディオ入力パート●パフォーマンス数:約1,800●フィルター:18タイプ●エフェクター:リバーブ×12、バリエーション×76、インサーション(A、B)×76(A/Dパート・インサーションは71)、マスター・エフェクト×15、マスターEQ(5バンド)、1stパートEQ(3バンド)、2ndパートEQ(2バンド)●シーケンサー:容量=約130,000音、曲数=64曲、トラック=シーケンサー・トラック×16/テンポ・トラック/シーン・トラック●アルペジエーター:最大8パート同時オン可●モーション・シーケンサー:レーン=最大8+1系統●ライブセット数:プリセット=128以上、ユーザー=2,048●接続端子:アウトプット(L/MONO、R)、アサイナブル・アウトプット(L、R)、PHONES、A/D インプット(L/MONO、R)、USB TO DEVICE、USB TO HOST、MIDI(IN、OUT、THRU)、フット・コントローラー×2、フット・スウィッチ(アサイナブル、サステイン)●外形寸法:1,037(W)×131(H)×396(D)mm●重量:15kg

お問い合わせ

ヤマハお客様コミュニケーションセンター シンセサイザー・デジタル楽器ご相談窓口 TEL.0570-015-808 つながらない場合は TEL.053-460-1666