ライブで輝くシンセサイザー 〜 Expressive E Osmose
現在、ライブ向けのシンセサイザーとして多種多様なモデルがリリースされています。『FILTER Volume.05』掲載企画“シンセサイザーとライブ”では、独自のキャラクターを持つ注目機種をピックアップ。“ライブで使用する”という視点でそれぞれをレビューした記事をWebでも公開!
新感覚の鍵盤と圧倒的な表現力を持つ音源が
プレイヤーの意欲を掻き立て
他とは一線を画すパフォーマンスが可能に
かねてからその特異な存在感で注目を集めていた、エクスプレッシブ・イーOsmose。だいたいすべてが謎に包まれている(発売前の2023年5月時点)。全体がボディの上に浮き彫りになっているような鍵盤、音源の方式、そして名前すらコレはなんて発音すればいいのだろう?(どうやらオスモス、と読むらしい)
結論から言うと、コレはかなり恐ろしい楽器である。“シンセ”と単純に言ってしまうのが憚られるほど、新しい楽器としての表現力が別次元なのだ。
まずその特殊な鍵盤だが、押鍵して“左右”に動かすことで音程のコントロールができる。つまり“揺らす”とビブラートがかかるのだ。そして、いわゆるアフタータッチ、押鍵後の押し込みのコントロールの幅が異様に大きい。ポリフォニック・アフタータッチ(各鍵盤独立)なのはもちろん、物理的な押し込み幅が感覚的に今までのものの10倍くらいに感じる。また、そのプレッシャーに対する反発力の設定が絶妙で、本当に弾いていて楽しい。実際に弾くとわかるが、鍵盤の仮想支点が実際の鍵盤メカニズムの根元よりも相当奥に設定されており、それによって“長くて絶妙に上下左右にしなる鍵盤を弾いている”感覚なのだ。さらにポリフォニック・ポルタメントのかかり具合が最高で、フレーズで“ココに欲しい”ところにキチンとかかるのはどういうアルゴリズムで処理してるのだろう……? また、恐らく筆者の経験では初めてだが、リリース・ベロシティが非常に効果的に設定されているようだ。
そしてこの鍵盤と絶妙なコンビネーションを見せる音源だが、詳しいアナウンスは(試奏時点で)されていないものの、おそらく物理モデリング、アナログ・モデリング、F Mを持ち、何と言っても物理モデルの完成度がすごい! 弾いているうちに本当のアコースティック楽器を弾いている錯覚に陥るほどなのだ。また、FM音源でもさまざまなパラメーターが鍵盤のコントロールに絶妙にアサインされており、単にフレーズを弾いているだけで表現力の差は圧倒的。実際に触るまでは、もっとコントロールの幅がシビアで、特殊な練習が必要かなと少々緊張していたのだが、杞憂だった。実際には、鍵盤によるコントロールのセンシティビティを細かく設定するページに1発で飛べるので、細かいニュアンスを詰めることももちろん可能。それももちろん音色ごとにメモリーできる(この左手側に集中しているディスプレイ、コントローラー、ノブ類の質感の高さも非常に印象的)。
なので、この楽器の場合は、ライブでは普通の“バンド・アンサンブル内での鍵盤奏者の役割”みたいなところから離れて、全然違う新しい楽器奏者としての立ち居振る舞いをした方が圧倒的に楽しいと思う。突っ込んで言うと、ギター、ベース、ドラム、キーボードみたいな普通の4リズム編成よりも、パーカッションとギターのトリオとか、管楽器とのデュオみたいな生々しいユニットでインプロをやる、などの方が本領を発揮できるかもしれない。また、もちろん完全なソロ・アクトでも十分いけると思う。もっとも、いわゆる普通のシンセの真似事みたいなことも充分こなせる実力があるので、普段はシレっとバッキングに使っていて、いざソロ、という時に飛び道具的に使うのももちろんアリ!
弾いている方の気分としては、もはや新種のアコースティック楽器なのだが、もちろんマイク録りのセッティングをする必要はないし、ハウリングの心配もない。エフェクトもレベルの高いものが内蔵されているので、これ1台でかなりの幅のパフォーマンスが自由自在になるはず。また、嬉しかったのは、複雑な機構の鍵盤を持つ割に軽かったこと(8.3k g)。鍵盤の上側全体が剥き出しになっているので取り扱いには注意したいが、なんとか歩いて持って歩けるレベルだと思う。昨今のキャンプ・ブームのおかげで高性能化が著しいポータブル・バッテリーなどと組み合わせて、野外で演奏しても気持ち良さそうだ。何にせよ、今までとはちょっと違ったパフォーマンスが楽しみな楽器である。(文:飯野竜彦)
製品情報
Expressive E Osmose
価格●オープン・プライス(市場予想価格:330,000円/税込)
Specifications
●鍵盤:3軸方向の操作が可能なフルサイズ49鍵盤●機器構成:スタンドアロン・シンセサイザー、MPE MIDI コントローラー、クラシック MIDI コントローラー●サウンド・エンジン:EaganMatrix(Haken Audio によるデジタルモジュラーエンジン)●最大同時発音数:24音●インターフェイス:カラーLCDスクリーン、ピッチ&モジュレーション・スライダー●ペダル入力:サステインまたはシンセ・パラメーターを割り当て可能な2つのコンティニュアス・ペダル入力●MIDI:MIDI IN、MIDI OUT / THRU(DIN)、USB(Type-B)●オーディオ出力:2つの1/4インチTSアンバランスライン出力、1/4インチTRS ヘッドフォン出力●ソフトウェア:ファームウェアやライブラリ更新用のアップデーター、サウンドを作成・編集するための Mac / PC 用エディター●外形寸法:894(W)×316(D)× 87.5(H) mm●重量:8.3 kg
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