ライブで輝くシンセサイザー 〜 MODAL ELECTRONICS Cobalt8

現在、ライブ向けのシンセサイザーとして多種多様なモデルがリリースされています。『FILTER Volume.05』掲載企画“シンセサイザーとライブ”では、独自のキャラクターを持つ注目機種をピックアップ。“ライブで使用する”という視点でそれぞれをレビューした記事をWebでも公開!

イマジネーションと操作を
3つのツマミで直感的に結ぶことができる
新次元のバーチャル・アナログ

英モーダル・エレクトロニクス社のバーチャル・アナログ・シンセ、Cobalt 8。実は今回のレビューで初めて触りました。本機が届き、ひとまずプリセットを順次試し弾きしてみると、秀逸なテクスチャーの音色が次々と飛び出てきてかなりびっくりしたというのが第一印象です。恥ずかしながら、これほどまでに卓越した音源を備えたシンセだったとは思いもよりませんで、原稿のことも忘れてしばらくシンセいじりに没入してしまいました。

さて、本機はファタール社製37鍵フルサイズ鍵盤を備えた一見コンパクトでシンプルな外観のシンセですが、冒頭で述べたとおりその見た目とは裏腹に、出音は非常にゴージャスかつ繊細な音です。特にパッド系の音色が奏でる有機的なテクスチャーが素晴らしいと思います。となると、やはりアンビエントや音響系のライブで積極的に使いたくなりますね。

ではここからは、ライブ使用を前提に見ていきます。まず本機を触ってみて特徴的だなと思ったのが、やはりOSC部。分類的にバーチャル・アナログ・シンセということなのですが、波形選択のツマミやボタンが見当たりません。あるのは“algorithm(アルゴリズム)”と書かれたツマミと、A、Bという2つのツマミ。計3つのツマミがセットで、これが2系統備わっています。そしてこの3つのツマミを適当にいじるだけで驚くほど複雑かつ多彩な音色変化やテクスチャーを生み出すことができます。

OSC部をより詳しく見てみます。本機はこの2系統それぞれに最大4基のオシレーターを隠し持っており、この4基によるさまざまな合成や変調方法が34種類のアルゴリズムとしてまとめられているのです。つまりOSC部1系統だけで、最大4オシレーターのシンセ1台に相当しているというわけですね。アルゴリズムごとに生み出される複雑な音色変化を聴くと、単なるアナログ・シンセをリプレースしたバーチャル・アナログではない、デジタルならではの多元性・柔軟性を活かした新次元のシンセ・エンジンというのも頷けます。

音作りに徹底してこだわる方なら、モジュレーション・マトリクスを1つ1つ設定し、丁寧に音色を作り込むことも可能ですが、ライブ現場でリアルタイムにどれだけの表現を紡ぎ出せるのかを考えると、algorithm+A+Bの3つのツマミで音色の深部や表皮を“直接触ることができる”ところに本機のアドバンテージとなる部分が見えてきます。algorithmを選び、Aで大胆な変調・変化、Bで微妙な味付けという役割分担がわかると、イマジネーションと操作を直感のまま結ぶことができます。そしてこのO S Cが2系統備わっているので、より多様な使い方へと展開できます。例えば、両者の間にはM I Xのツマミがありますが、1系統でシンセ1台に相当する本機では、従来のシンセのような個々のOSCのミックスを越えた意味が付加されています。つまり2台のシンセをDJミキサーのクロス・フェーダーのような感覚でミックスできるというとらえ方もできるわけですね。

フィルターやL F O、E Gは一般的なシンセと同じ扱いができるので、特に操作方法に迷ったり、イメージを反映させるのに悩むこともありません。2系統のOSC部で音を触り、フィルターで整え、そしてエンベロープを調整するという簡潔な流れで、リアルタイムに独特の世界観を生み出すテクスチャーを作り出せます。そしてシンセに造詣が深くなくても、ここまでの操作をノーマニュアルでできてしまえるのも優れた点です。

本機を簡潔に紹介するなら、“万人の欲求に応えるようなシンセではない、しかし高次元のテクスチャーを生み出す力を持つシンセを欲している人にはまさに最適解のシンセになるかもしれない”といったところでしょうか。最低限の操作で音を直接触って音色の有機的な変化を縦横無尽に操ることができる本機は、特にアンビエント系や音響系のライブでかなり重宝するのではないかなと思います。(文:西田彩ゾンビ)

製品情報

MODAL ELECTRONICS Cobalt8

価格●105,500円(税込)

Specifications

【同時発音数】8ボイス・ポリフォニック、ポリチェイン機能で2台のCOBALTシリーズを使用し16ボイスに拡張可能【オシレーター】2つの独立したオシレーター・グループ/クロスモジュレーション(SYNC、RMなど)、PWM、VAウェーブ間のスムーズなモーフィング、ビット・クラッシング、フィルター処理されたノイズなど、複雑なアナログ・シンセシス技術を含んだ34のアルゴリズム【フィルター】4ポール・モーフィング・ラダー・フィルター【モジュレーション】アンプ、モジュレーション、フィルターそれぞれに専用エンベロープ・ジェネレーター/割り当て可能な3つのLFO/12のモジュレーション・ソースと55のモジュレーション・デスティネーション【シーケンサー/アルペジエーター】512ノートのポリフォニック・リアルタイム・シーケンサーとステップ・シーケンサー/ステップ・シーケンサーは、最大64ステップ、1ステップあたり8ノート、4レーンのパラメーターロック・アニメーション、ステップ入力モード、ゲート・モードとレスト機能を含む複数の再生モードを搭載/レストとランダム機能を搭載した、高度なプログラムが可能な32ステップのアルペジエーターを内蔵【MPE】MPE対応のMIDIコントローラーに対応【エフェクト】3つの独立したFXエンジン:コーラス、フェイザー、フランジャー(Pos)、フランジャー(Neg)、トレモロ、LoFi、ロータリー、ステレオ・ディレイ、ピンポン・ディレイ、Xオーバー・ディレイ、リバーブなど、任意の順番に入れ替え可能【鍵盤】37 鍵FATARキーボード【入出力】デュアルモノ・ライン出力、ヘッドホン出力、ステレオ・オーディオ入力、MIDIDIN入出力、アナログ・クロック・シンク入出力、USBクラス・コンプライアントに対応したMIDI、エクスプレッション・ペダル入力、サスティン・ペダル入力【外形寸法】555(W)×300(D)×100(H)mm【重量】5.6Kg

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