ロック・サウンドの中で活用できるシンセサイザー ~ BEHRINGER MS-1 MK-Ⅱ RD
『FILTER Volume.09』掲載“ロック・サウンドの中で活用できるシンセサイザー・レビュー”では、ロックというジャンルでもポテンシャルを発揮するシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開!
ギター・サウンドと対峙できる
キレの良さ抜群のモノシンセ

唐突だが、あなたがシンセ好きなら、ベリンガーMS-1 MK-Ⅱ RDは、ビンテージ市場で人気の80sモノシンセの名機、ローランドSH-101を現代的に多少ブラッシュアップしたシンセだとお考えではないだろうか? あの線の細いサウンドは、今回の企画のようなロックなサウンドの中では到底埋もれるだろうとお恥ずかしながら筆者も思っていた。実際に音を出して触ってみるまでは。しかしMS-1 MKⅡは、まったくもってその心配は無用だった。モジュレーションの多彩さとクリアかつ攻撃的なスピード感のあるサウンド、スピーカーを揺らすほどの音の図太さにおいて、ロックでラウドな音場の中でも十分に輝きを放つシンセと言えそうだ。ふーん、復刻版か?などとノホホンと考えていたシンセ・ファンは、筆者も含めて今すぐ考えを改めた方がいい。
MS-1 MK-Ⅱの構成は、1VCO、1SUB OSC、1VCF、1ENVと、基本中の基本だ。この構成は、シンセ初心者が音作りやシンセの構造を体に叩き込むのに一番適しているのは確かである。構成こそシンプルだが、本機は3340チップを使ったVCOからVCF、VCAまでがピュア・アナログ・シグナルパスとなっていて、基本の出音が素晴らしい。耳に張り付いてくる、アナログ特有のざらついた存在感のあるサウンドは、デジタル・シンセやモデリング・シンセ、ソフトのシンセ音源では到底出せないサウンドだ。筆者もロックな現場でソフト音源やモデリング音源を使ってきたが、ギターやドラム・サウンドに音が埋もれてしまうし、フラストレーションが溜まる一方だった。しかし本機なら、ギター・サウンドにも負けない抜けのいい音を出すことができる。VCFは自己発振もできるくらい強力で、とにかく音のキレが抜群だ。筆者が持っているSH-101と比べてみたが、サウンドの傾向は似ているものの、ソリッドさやクリアさ、太さでは本機が段違いに良かった。
本機は4つの波形(ノコギリ、トライアングル、スクエア/PWM、オクターブ調節可能なサブ・オシレーター)をスライダーでミックスして多彩なサウンドを作ることが可能(SH-101は波形が3つだった)。もともとSH-101はVCFが多彩(カットオフ・フリーケンシー、レゾナンス、エンベロープ、モジュレーション・デプス、キーボード・フォロー)だったが、本機はこれに加えて6種のFM SOURCEでさらに複雑な変調が可能。かなりアバンギャルドな音が出る。FM AMOUNTツマミでグリグリすればかなりのマッド・シンセ、これはクセになりそうだ。EDMの要素が入ったロック・ミュージックにも似合いそうである。その場合、本機にはエフェクトがないのでディレイを用意すればバッチリはまるだろう。付属のストラップとグリップを付ければショルダー・キーボードにもなるので、ステージを歩き回りながらぜひマッド・キーボーディストになってギタリストよりも目立ってもらいたい。
ここからは、筆者からの勝手な提案である。筆者は楽曲制作とレコーディングも行うのだが、そこでいつも思うのが役割と周波数の棲み分けである。同じ周波数帯域でいくら鳴らしても、サウンドは打ち消し合うものだ。ギター・サウンドとの被りを考えるならば、筆者ならあえて本機のサブ・オシレーターを切るか下げて、フレージングもギター・サウンドよりも上で弾くであろう。本機はマッチョでもっさりとしたモーグなどのシンセとは違ったキレのいいスピード感のあるサウンドが売りである。ギターとの対比を出すにはもってこいの1台と言えるだろう。棲み分けができた時にすべてのサウンドが綺麗に響くものだ。また、バンドの場合、ギターやドラムはどちらかと言うと肉体的な演奏フィーリングが前面に出るものだ。ならばキーボードはあえて無機質にいくのはどうだろうか? ロック・バンドの中にテクノっぽい無機質なアルペジオが入れば効果的ではないだろうか? 本機は無機質な感じも得意な1台だ。ぜひいろいろ試してほしい。とにかく筆者が感じたように、本機は復刻ではなく新たな使い方ができるビビッドなシンセである。機会があれば、皆さんもぜひ実機で音を鳴らしてキレの良さを体感してみてほしい。
文:YANCY

製品情報
BEHRINGER MS-1 MK-Ⅱ RD
希望小売価格●49,800円(税込)
Specifications
●鍵盤:32鍵セミウェイテッドフルサイズ●VCO:ソー、トライアングル、スクエア/ PWM、オクターブ分割スクエアサブオシレーター●VCF:ADSR、LFO、キーボード・トラッキング、ベンダー・コントローラーでモジュレーション可能●FM SOURCE:6種類、VCFモジュレーションとフィルター・エフェクトが可能●エンベロープ・ジェネレーター:ADSR●シーケンサー/アルペジエーター:各パターン最大32ステップ、パターン数最大64パターン、メモリー可能数:8パターン×8バンク●ハンドグリップ:ピッチベンド・ホイールとピッチ・モジュレーション・トリガーを装備●接続端子:アウトプット(1/4" TS)、 ヘッドフォン(1/4" TRS)、外部オーディオ入力(1/4" TS)、フットスイッチ(オプション)、シーケンサーホールド(1/4" TS)、VCF CV入力、CV/GATE入力、CV/GATE出力、ベロシティ出力、MIDI IN/OUT/THRU、USB2.0(タイプB)、ハンドル・コネクター(Mod、グリップ)、DC入力●外形寸法:569(W)×267(D)×85(H)mm●重量:4.6kg
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サウンドハウス TEL.0476-89-1111

