【製品レビュー】YAMAHA SEQTRAK

リミックス感覚とグルーブ・マシンのような操作性が楽しめる
スピーカー内蔵のスタイリッシュな小型シンセサイザー

製品発表をご存じなければ、このオシャレ北欧雑貨店に置かれていても何の違和感もないガジェットが、あのヤマハ製だと気づかない人もいるかもしれません。フィンガー・ドラムパッドのFGDP-50、30の時も驚きましたが、まさに突如としか言いようのない、しかし中身は電子楽器を知り尽くしたすごい製品だったSEQTRAKについて詳しく見ていきましょう。

本機のプラスティックな質感は非常に軽量なこともあり、“チープさを感じない” と表現をすると若干嘘になりますが、これがカラーリングとの絶妙なバランスもあってとにかくかわいいのです。あえて本体にはYAMAHAロゴを入れず、アパレル製品のタグのような素材でさりげなく入っているところも最高。四角いボタンは、パッド系ではなくカチカチと押せるタイプ。ノブは回すとカリカリとクリック感があり、すべてがボタンも兼ねています。本体の側面には小さなボタンや端子類がいくつも並んでおり、右上にはスピーカーとマイク、バッテリーも内蔵されていて、本体だけでそこそこ大きな音を出すことができます。

音源部はドラムが7トラック、合計128音ポリのPCMシンセ(AWM2 音源)が2トラック、8音ポリ4オペレーターのFMシンセと、本体のマイクや外部入力からのサンプリングも可能なサンプラーの合計11トラックで構成されています。最大128ステップ×6パターンのシーケンサーを各トラックに搭載していて、それぞれを異なるステップ数でのLOOP再生も可能。各ドラム用を含むすべてのトラックにインサート・エフェクト、そしてパフォーマンスにも使用できるマスター・エフェクトと、いつでも操作できる専用タッチ・スライダーを備えたハイパス・フィルターとリピーターもパネル右下に常時スタンバイという充実ぶり。PCMメインですが、太さも十分にあり、エフェクトの系統数が多いこともあって完成品の音に近づけやすい印象があります。さらに本機のUSB-C端子は、24bitのオーディオ・インターフェースを兼ねていて、PCやスマホなどと直接音声信号のやり取りが可能です。

音源部はドラム×7トラック、PCMシンセ(AWM2 音源)×2トラック、8音ポリ4オペレーターのFMシンセ、
サンプラーの合計11トラックで構成

各トラックのノブはシーケンサー停止時に押すと発音し、それと同時にトラックの選択も行われるので、ドラム・パートはそのまま下の四角い16個のドラム・キーをステップ・ボタンにして打ち込むことができます。リズム・マシンやグルーブ・マシン系に慣れた方でしたら、そのままスネア、ハイハットとドラム・パートを瞬時に完成させることができるでしょう。ステップ・ボタンは2秒ほど長押しすることで、SUBSTEP(ドラム・ロール)を2〜4分割まで指定可能。ちなみにドラム・パートには、KICK、SNAREなどの表示がありますが、ドラム波形はどのトラックでもすべてのバリエーションを選択できます。シンセ、サンプラー・トラックは四角い7個のシンセ・キーでのリアルタイム入力がメインですが、モードを切り替えればステップ入力やドラムのステップ・ボタンを1オクターブ分のキーボードにしての演奏も可能。アルペジエーターやキー、スケールの設定やコード・メモリーも使用できます。付属のアダプターでMIDI入出力端子も利用可能。

SEQTRAKの性格を象徴するのが、各トラックのノブをそのまま回した時の動作で、音色や音量ではなくパターンのバリエーションが切り替わります。1つのプロジェクト内に各トラック6つのパターン・バリエーションを待機させておき、それらを両手でガシガシとリミックスするように組み合わせることができますし、Aメロ、Bメロと進行していくような曲にも対応可能。さらに左上のALLノブでは、一斉に全トラックのバリエーションを切り替えることができます。最初にノブで直接選択できるバリエーションは各パート3つまでですが、ノブを長押しするとステップ・ボタンの上部6個が点灯し、1〜6までのバリエーションが選択できます。ここで1トラックでも4〜6個目のバリエーションを使用すると、他のトラックもツマミを回すだけで1〜6個目まで選択できるようになります。

各トラックのノブをそのまま回した時の動作で、音色や音量ではなく
パターンのバリエーションが切り替わる

このように、本機ではパトラックごとのパターン切り替えによる演奏がメインになっており、エイブルトンLiveのセッションビューやノベーションLaunchpadのようなリミックス感覚と、ダイレクトにステップを打ち込めるグルーブ・マシンが融合したような新鮮な感覚が楽しめます。グルーブ・マシンは音色を変化させてこそですが、それもパネル右側の色が違うセクションに用意された4つのノブで好きなだけグリグリできます。ノブ4つの役割はパネル前面に用意されたボタンで変更でき、アサイン状況もパネル上のパラメーター名が光って教えてくれます。Recordボタンを押さえながらパラメーターを変更することで、モーションの記録再生も可能。

本機には専用のSEQTRAKアプリが用意されており、PC/Macはもちろん、iOS/Androidでも使用できます。BluetoothやUSBで接続すると、FM音源のアルゴリズム選択まで可能な詳細な音色エディットやピアノロールでのトラックの詳細なエディットも可能。実機で触ったノブやボタンの使い方を即座に教えてくれるマニュアル機能なども用意され、操作自体は本体で行いながら、アプリを拡張ディスプレイのように使うこともできます。さらにビジュアライザーという楽しい機能も用意されていて、本機の好きなパートと3Dオブジェクトを自由に紐づけて効果的に映像を動かせるので、プロジェクターに接続してVJ映像として利用することもできますし、スマホなどのカメラを利用したARモードでは、現実世界の本体に3Dオブジェクトを合成して動画撮影も可能で、動きのある楽しい映像をSNSに投稿することができます。(文:Yasushi.K)

製品情報

YAMAHA SEQTRAK

メーカー希望小売価格 ● 55,000円(税込)

Specifications

●音源方式:AWM2、FM=4 オペレーター●最大同時発音数:AWM2=128 音、FM=8音●波形メモリー:プリセット=800MB相当(16-bit リニア換算)、ユーザー=500MB ●エフェクト:リバーブ×12、ディレイ×9、マスターエフェクト×85、シングルエフェクト×85、マスターEQ5バンド、トラックごとのLP-HP フィルター●トラックタイプ:ドラム、シンセ、DX、サンプラー●トラック数:11 ●サウンド数:プリセット2,032個、プリセットサンプラー392個(専用アプリから追加可能)●シーケンサー:最大128ステップ●プロジェクト数:8(専用アプリに保存可能)●接続端子:USB-C、PHONES、AUDIO IN、MIDI(IN/OUT)※同梱の専用MIDI変換ケーブルのみ使用可●外形寸法:343(W)×97(D)×38(H)mm ●重量:0.5kg

お問い合わせ

ヤマハお客様コミュニケーションセンター シンセサイザー・デジタル楽器ご相談窓口 TEL.0570-015-808 つながらない場合は TEL.053-460-1666