【製品レビュー】OBERHEIM OB-X8

歴代の機種を統合し“あのサウンド”を徹底追及
オリジナルにはない音作りも可能な
8ボイス・ポリフォニック・アナログ・シンセサイザー

プライベート・スタジオにやってきたOB-X8。実際に目のあたりにすると、堂々とした存在感に圧倒されます。しっかりした手ごたえのある大ぶりなスイッチとツマミ、過酷なツアーにも耐えられるボディと、まさに70年代の高級シンセサイザーそのものです。カラーリングとデザインから、1979年発売のOB-Xを思い出すシンセサイザー・ファンも多いでしょう。

本機OB-X8は、そのOB-Xだけでなく、後継のOB-XaやOB-8、さらには白パネルで有名な初代オーバーハイム・シンセサイザーのSEM(2/4/8-Voice)など、歴代のビンテージ・オーバーハイム・シンセサイザーを統合した超ド級のモデルです。なんとプリセットには、OB-Xaオリジナルのほか、OB-X、OB-Xa、OB-8、OB-SX(OB-8のプリセット・タイプ)のファクトリー・プリセットをすべて搭載。さらにそれらをスプリットやデュアルで演奏可能と、まさに“OBシリーズ全部載せ”シンセサイザーと言えるでしょう。

と言っても、70年代の製品をそのまま復刻しただけではありません。ファタール製の鍵盤は弾きやすく、USBやMIDI端子も装備、音源も併せてベロシティ対応ですから、システムの中心としての使用も可能です。さらに音作りでは、PAGE2ボタンを押してパネルのスイッチでは手の届かないパラメーターにアクセスし、ディスプレイを見ながらより柔軟な音作りが可能です。ディスプレイを見ながらエディットというと、“え〜なんだか面倒臭そう”と思われるかもしれませんが、そこはよく考えられています。複雑な階層構造はないので、左のScrollツマミでパラメーターを表示させ、Valueツマミで値を変えるだけ。パラメーターもアナログ・シンセサイザーではお馴染みのものばかりなので、簡単に操作できるでしょう。

オシレーターは2基。いずれも近年主流のICチップ(集積回路)ではなく、1つずつ電子部品を組み合わせるディスクリート方式で、初期オーバーハイム・サウンドを再現しています。ザックリと明るい音色、キメ細かい粒子感と厚みのある中高域、弾力のある低域と、まさに高級アナログ・シンセサイザーです。本機全体に言えることですが、不要なノイズがほとんど感じられないのも、オーディオ的な素性の良さを感じます。

オシレーターは完全にアナログですから、電源投入直後はピッチが不ぞろいですがTuneボタンを押せば自動的にピッチをそろえてくれます。また、Vintageツマミを回すと、アナログらしいバラつきが加わります。本機は6ボイスをユニゾンにするユニゾン・モードを装備していますが、適度にバラつきを加えるといい感じの厚みが加わり、12オシレーターによるド迫力のサウンドを堪能できます。

また、初代SEM以来オーバーハイムのトレードマークとも言える、オシレーターシンクも強烈です。サウンドに説得力があるので、ヤン・ハマーのようにディストーション・ギターに対抗できるリード・サウンドを素早く作成できてしまいます。ベンド・レバーをシンク先のオシレーター2にだけかけて、ギュインギュインさせながらの演奏も簡単です。

パネルのスイッチでは手の届かないパラメーターにアクセスして、柔軟な音作りが可能。
ディスプレイ左のScrollツマミでパラメーターを表示し、Valueツマミで値を変える

フィルター・セクションは、なんとディスクリートとICの2種類を実装。これによって、SEMタイプの-12dB/octのローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチのフィルター・タイプと、OB-Xa以後の-12dB/oct、-24dB/octのローパス・フィルターという贅沢な仕様を実現しています。このdB/octというのは、オクターブあたりどれだけ高域が削られるか、つまりフィルターの効き具合を示していて、マイナスの数値が大きいほどよく切れることになります。ただしここで面白いのは、必ずしもよく切れる方が優れているとは限らないところです。筆者の経験では、シンセ・ブラスには-12dB/octの緩やかな効きのフィルターを使うと、明るくギラっとした華やかな音色が作れます。

カットオフやレゾナンスなどのパラメーターを同じ設定にしてフィルターのタイプを変えると、SEMタイプではワイルドに、OB-Xタイプではジェントルに、と驚くほど質感が変わるのがわかります。ジョー・ザヴィヌルの「バードランド」からヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」まで、これぞオーバーハイムというサウンドが楽しめるでしょう。

フィルターとアンプそれぞれに装備されたエンベロープは、アタック・タイムをゼロにすると弾いた瞬間にパツンと立ち上がります。この食いつきの良さも、高級アナログ機ならではと言えます。しかもスロープのカーブをOB-X、OB-Xa、OB-8の3タイプに切り替え可能というのも、本機ならではの凝った構成です。LFOも同様の切り替えが可能で、ビンテージ・サウンド再現の執念すら感じられますね。なお汎用のLFOとは別に、モジュレーション・ホイール用のビブラートLFOも装備していて、素早く設定できるようになっています。

ビンテージ・オーバーハイムの魅力の1つが、ライバル機にはないポリフォニックのポルタメントでした。OB-X8でも、歴代のポルタメントの挙動をエミュレート。重低音がコードに収束していく独特なフレージングや、コード・メモリー・モードでのポルタメント・プレイもこの機種ならでは。さらにポルタメントを階段状にクオンタイズしてグリッサンドにすることもでき、弾いているとさまざまなアイディアが思い浮かんできます。

OB-X8には、シンプルながら使いやすいアルペジエーターも装備。操作はいたって簡単で、コードを押さえた順、押さえたのとは逆順、それらを交互、ランダムといったアルペジオが、たった2つのボタンで切り替えられます。速度の変更やホールドも簡単ですし、もちろんUSBやMIDIで外部DAWなどに同期することも可能です。この辺りは、現代的にリファインされているところですね。

こういったアルペジエーターや、ベンドやホイールのレバーなど鍵盤左側のコントローラーは、とてもよく考えられていて確実なライブ・プレイが可能です。なお、ベンドレバーはオーバーハイムの伝統に従って、手前に引くとピッチが上がる仕様ですが、これも慣れるとギターライクでかえって合理的に感じられます。さらにパネル上のツマミやスイッチも機能が固定されているので、演奏中のエディットも簡単です。使い込むほどに体が操作を覚え、フィットしてくる感じがします。

OB-X8は、伝統的なオーバーハイムのサウンドを丁寧に蘇らせています。デジタル・シンセサイザーのような膨大なパラメーターはありませんし、エフェクターも装備していません。しかしサウンドには高級感があり、これでしか得られないサウンドがあります。まさに素の音の良さと音作りのしやすさが魅力、直球勝負のシンセサイザーと言えるでしょう。(文:高山博)

SEMタイプの-12dB/octのローパス/ハイパス/バンドパス/ノッチのフィルター・タイプと
OB-Xa以後の-12dB/oct、-24dB/octのローパス・フィルターを装備

製品情報

UDO AuOBERHEIM OB-X8

価格●799,800円

Specifications

●鍵盤:61鍵(ファタール社製 ベロシティ&タッチセンシティブ・キーボード)●主なモジュール:2VCO、VCF、2ENV、LFO、VCA ?ボイス数:8●オシレーター:ノコギリ、パルス、三角波●フィルター:6種類(ローパス×3、ハイパス、バンドパス、ノッチ)●エンベロープ・ジェネレーター:フィルター・エンベロープ×1基、ボリューム・エンベロープ×1基(いずれもADSR)●LFO:1基、サイン/矩形/サンプル&ホールド/ノコギリ波●入出力端子:ステレオとモノ出力、ボリューム入力、サステイン入力、フィルター入力、アルペジエーター・クロック入力、MIDI(IN/OUT/THRU)、USB●外形寸法:1,028(W)×423(W)×149(H)mm●重量:14.7kg

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