“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”を検証 〜YAMAHA MODX7〜

『FILTER Volume.01』掲載企画“DNAを受け継ぎ活躍する現代のシンセサイザー”では、現在の音楽シーンで実力を発揮しているシンセサイザーを検証。歴代の名器の機能やサウンドはどのように継承され進化したのかに注目し、各機種に迫った本記事をWebでも公開! 

DX7とともに音楽シーンを席巻したFM音源が
最新テクノロジーでパワフルに進化して搭載

注目Point:新パラメーターを搭載し操作性が向上

ヤマハMODXシリーズ(デモ機は76鍵盤タイプ~以下本機)は、同社のフラッグシップ・モデルであるMONTAGEシリーズと同等の“Motion Control Synthesis Engine”(AWM2&FM-Xのハイブリッド音源)を搭載しつつ、可搬性とスピーディーな操作性&独創性に優れたシンセサイザーだ。今回はその中でも最新鋭の“FM-X”音源に焦点を当ててレビューしてみよう。
 
代表的なFM音源の歩みは、初代ヤマハDX7の“6オペレーター&32アルゴリズム&16音ポリ”から、音源モジュールFS1Rの“8オペレーター&88アルゴリズム&32音ポリ”を経て、MONTAGEで新開発されたFM-X音源の“8オペレーター&88アルゴリズム& 128音ポリ”にて飛躍的なプレイアビリティの拡大を遂げた。その革新的なFM-X音源を本機は16パート分も内蔵している。なお本機のFM-X部は64音ポリとなる。この点がMONTAGEのFM-X部との唯一の差異点だが、4レイヤーでも16音ポリと余裕でDXエレピ演奏もOK。本格的なDTMとともにライブ使用など機動性&ワイドなキーレンジを求めるならば、76鍵&7.4kg!という超軽量MODX7で間違いない。なお、61鍵のMODX6、88鍵ピアノ・タッチ鍵盤のMODX8も用意されている。

FM音源で難しいのが“キャリア&モジュレーター”というアルゴリズムの上下左右にあるオペレーターの調整。実際に、それが“FMエディットは難しい”というイメージを抱かせるわけだが、本機では全く杞憂だ。タッチパネル&高解像度のカラー液晶にて、フリケンシー、レシオ、EGなど、ほとんどの数値がストレスなく設定可能な上、8オペレーターの選択やレベル調整も、4ボタン&4スライダー(1~4&5~8切替)を使用して行えるなど、楽しく快適な操作性が約束されている。

FM-Xの新パラメーター“Spectral”“Skirt”“Resonance”は、いわゆるVCO~VCFのイメージをFM流に再構築したもので、従来難関であったレゾナンス風サウンドを簡単に作ることができる。併せて液晶部の各オペレーターのミュート&ソロも活用してみよう。各オペレーターの役割やアルゴリズムの積み方によるサウンドの変化など、FMの独特な“クセ”を見抜けば、より速くより確実に求めるイメージを具現化できるはずだ。オルガンのドローバーが2本増えるのと同じように、アルゴリズムに2オペレーターがプラスされることで、超高域や金属的変調など繊細なフレーバーを専門的&シームレスに調理できるなど、そのメリットは計りしれない。

注目Point:Motion Controlと生み出す未来的サウンド

後半は、筆者が気に入ったFM-Xプリセットを数種紹介してみよう。いずれも全パートがFM-Xのみで構成されている。この音源のポテンシャルがわかってもらえるはずだ。

[Expande DX Bells]
1パートの普通のベル・サウンドだが、Super Knobを回せば合計5パートのステレオ感満載のマレット系サウンドへ変幻。FM-X独特のレイヤー&揺らぎ感に高揚するが、モジュレーション系エフェクトには一切頼っていない。リリースを短くすれば実にラウンジ風のエレピ・サウンドに。この令和的な“アンサンブルとトレモロ”感は、同社の隠れた逸品“GS-1”や、DX 7Ⅱの“Unison”サウンドが好きな方には堪らないのではないだろうか。

[FM MotionSeq Ld DA]
ファットなリード・シンセを、Motion ControlによるFM的レゾナンス&フランジング効果によって強烈に演出。その世界観は超派手で眩いばかり。試しに2パート目に同じ音色を1オクターブ下でレイヤーしてみると、ヤバいほどにエグい。バン!とC1の音を弾くだけで会場総立ち!ポルタメントが効いたパラディドルで弾き倒す怒涛の渦!……そんな映像が目に浮かぶ。これはProphet-5のシンク・リードを超えたかもしれない?!

[FM Landscapes]
Motion Sequenceによるシーケンス系SFサウンドだが、心臓音、ピコピコ音やウィンド・ノイズなど定番の効果音が懐古的というより、むしろ斬新に聴こえる。グラニュラー&スタッター&リバース感を演出するFMエディット、リバーブ&クロス・ディレイ、テンポの急激な上昇によるタイム・スタンプ効果、リリース後のインダストリアルな音風景など、さまざまなテクスチャーの変貌をMotion Controlに一存させている凝りに凝ったプログラミング。配信イベントのオープニングSEなどにも重宝するだろう。

今回はFM-Xに焦点を当てたが、もちろん5GB相当の膨大な波形メモリーを持つAWM2音源も素晴らしい。アコースティック・ピアノ系はピアニッシモでも存在感が伝わり、強く弾いた時にタッチが天に届くような抜け感も秀逸である。エレピ系はローズ特有の転がし感が心地よく、“Dyno”の表記があるメカニカル・サウンドはまさに“ダイノマイ”。往年の名演奏を彷彿させるような、ローズ・マニアも納得の出来栄えだ。

MODXシリーズはAWM2が128音ポリ、FM-Xが64音ポリと独自で発音するので、壮大なレイヤーでダンパーを使用しても余裕あるピアノ・プレイが満喫できる。そしてMotion Control&Super Knobによって、唯一無二な表現力のFM-Xをレイヤーしていくことで舞い降りるエッジーで未来的なプレミアム・サウンドは想像力を刺激してくれるだろう。閃きの瞬間、MODXはいつでもどこでも貴方のベスト・パートナーになってくれるはずだ。(文:近藤昭雄)

製品情報

YAMAHA MODX7

価格●163,350円

Specifications

●鍵盤:76鍵セミウェイテッド鍵盤(イニシャルタッチ付)●音源方式:Motion Control Synthesis Engine(AWM2=8エレメント、FM-X=8オペレーター、88アルゴリズム) ●最大同時発音数:AWM2=128音、FM-X=64音 ●マルチティンバー数:内蔵音源16パート、オーディオ入力パート、ステレオパート ●パフォーマンス数:約2,000 ●フィルター:18タイプ ●エフェクター:リバーブ×12、バリエーション×85、インサーション(A、B)×85(A/Dパート・インサーションは80)、マスターEQ(5バンド)、1stパートEQ(3バンド)、2ndパートEQ(2バンド) ●シーケンサー:容量=約130,000音、曲数=128曲、トラック=シーケンサー・トラック×16/テンポ・トラック/シーン・トラック ●アルペジエーター:最大8パート同時オン可 ●モーション・シーケンサー:レーン=最大8+1系統 ●ライブセット数:プリセット=256、ユーザー=2,048 ●接続端子:アウトプット(L/MONO、R)、PHONES、A/Dインプット(L/MONO、R)、USBTO DEVICE、USB TO HOST、MIDI(IN、OUT)、フット・コントローラー×2、フット・スイッチ(アサイナブル、サステイン) ●外形寸法:1,144(W)×134(H)×331(D)mm●重量:7.4kg

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