【製品レビュー】EXPRESSIVE E Osmose 61

3方向の動きに対応した独自の鍵盤機構で
今までにない演奏表現ができるシンセの61鍵モデル

楽器というものは、既成のものを練習して習得する、というふうに思いがちだが、いやいや鍵盤楽器ひとつとっても、その昔パイプオルガンやチェンバロしかなかったバッハの時代から、モーツァルト〜ベートーヴェンと進むにつれピアノフォルテへと進化し、演奏上も作曲上も変革が起こった。その段階でクラビコードなどでは可能であったベーブング(ビブラート効果)がオルガンやピアノでは封印されたが、長い時を経て1970年代アナログ・シンセサイザーの登場時にピッチベンドやモジュレーション・ホイールにより克服された。さらに鍵盤を押し込むことによるアフタータッチ、リボン・コントローラー、エクスプレッション・ペダルやブレス・コントロールによって表現力が拡張されてきた。その過程でアナログからデジタルへ移行していき、サンプラー、物理モデル、バーチャル・アナログからリアル・アナログの復刻まで、その歩みを享受してきたにもかかわらず、つい楽器の仕様は出尽くしたと思いがちだ。近年モジュラー・シンセの発展には目覚ましいものがあるが、鍵盤付きのシンセとなると、モノフォニックかポリフォニックか、アナログかデジタルかどっちかでしょ、みたいに。

前置きが長くなったが、そんな今、鍵盤付きシンセに新たな改革が起こっている。今回紹介するフランスのメーカー、エクスプレッシブ・イーの製品Osmoseによって、鍵盤での表現が格段に拡張された。鍵盤上での指のジェスチャーだけで複雑な音色変化をダイナミックに表現できるようになったのはOsmoseが初めて。似た発想のコントローラーとしてローリーSeaboardがあるが、鍵盤とは言っても波打った形状であり、ピアノ的な鍵盤テクニックで演奏しきれるものではない。その点、Osmoseはピアノやオルガンで習得したテクニックを生かした上で、新たな表現領域に足を(手を)踏み入れることができる。“EXPRESSIVE”というメーカー名に続く“Osmose” はエストニア語で“ 浸透”を意味し、鍵盤の沈み具合とそれに反応する音色変化はまさに“ 表現力豊かな浸透”という描写がふさわしい。このたび49鍵タイプに加え、新たに61鍵タイプがリリースとなる。黒に統一されたデザインは精悍さとエレガントさを併せ持ち、バンド系に限らず、クラシックや現代音楽系のステージでもしっくり馴染むことだろう。

実際に鍵盤に触れてみると、初心者向けよりは重さがあるため、しっかりとしたタッチを要する。ところが通常“ 底”である1cm下がった位置からさらに押し込める余地が2cmのところまで(つまり倍)あることに驚く。ピアノ鍵盤なら床に着地、アフタータッチ鍵盤なら絨毯に着地だとすると、Osmoseは座布団3枚重ね?または高級ソファの上に飛び降りる感じだろうか。その押し込み余地の部分でさまざまな音色変化が起こる。フィルターや音量に限らず、倍音、刻みの細かさ、付加パッド音や低音成分が変化するパッチもある。さらに鍵盤は左右も可動でピッチを変化させられることが大きなアドバンテージであるほか、なんと離鍵のギリギリまで音色の変化が生じている。つまり鍵盤1つ1つがぐるんぐるん可変して音色変化する機構となっており、打鍵した後処理こそが本機の醍醐味であるため、ピアノ、オルガン、シンセの鍛錬を積んだ人にとっては衝撃的なタッチの意識変革、表現力の拡大が求められる。しかも完全ポリフォニック・アフタータッチ機構なので、単音弾きならともかく和音で弾いた時に思いもよらない変化をしてしまうことがあり、筆者も最初は戸惑った。例えばオクターブなど手を広げた際に真上から脱力してタッチしないと(黒鍵を小指で引っかけるように力んだりすると)ピッチが変化してしまう(そのバグが面白いとも言えるが)。最初は2音くらいから慣らしていくのがおすすめで、基本のタッチはメゾピアノ(mp)くらいの力感がOsmoseをうまく弾くコツではないだろうか。そんなこんなで、長時間Osmoseを弾いて随分と慣れ親しんだ後に生ピアノに戻ると、宇宙から帰還して重力のある地球上に降り立ったような感覚に陥る。

▲鍵盤を押し込んだ後の余地の部分でさまざまな音色変化が起こる。
また、鍵盤は左右も可動でピッチを変化させられるほか、離鍵のギリギリまで音色の変化は生じる。

本機は500種類ものプリセット音色を内蔵。音色名はアルファベット順に並んでおり、3つのバンク、14のタイプ、30のキャラクターにカテゴライズされているので、目的に応じて絞りやすい(ダブっている音もたくさん)。音源はFM/バーチャル・アナログ/フィジカル・モデリング、あるいはそれらの間に位置するハケン・オーディオ社によるEaganMatrixという方式だそうだが、生楽器のシミュレートを得意とするようだ。左側の視覚性の高い液晶表示を見ながら、Presetsでパッチを選び、Synthで音色(フィルターやエンベロープほかパッチごとに異なる)/エフェクト/EQなどのエディット、Sensitivityで各種エクスプレッションの度合いを調整、Playingでノーマル/多彩なアルペジエーター/グライドの表現を選べるようになっている。中でもグライドではテヌート(スラー)で弾いた時にセミトーンで変化する音程範囲や度合いを調整できるため、民族音楽的なニュアンスを表現することができ、Osmoseの独自性を際立たせている。パッチ・チェンジにタイムラグがあるのは大量の情報を処理しているからであろう。

生楽器やエレピ、オルガン、往年のシンセ系シミュレート(つまり馴染みのある音)もそれぞれ独特な弾き応えがあるが、むしろそのものに似ていないパッチの方が本機の個性を際立たせられるのではないか。筆者が特に気に入ったのは、リード系ではclasicana lead、dabka2022、nostalgia、キーボード(ポリ・シンセ)系のbeyond felt、classicana key、replicants dreams、パーカッション系のkick bass slide、resonant drum1、tablast、マレット系のbiquide bell、brightbank などであり、本機ならではの“ 浸透サウンド” に夢中になれる。

既出の49鍵ならば、サイズ的に単音楽器のシミュレートを極めたくなるだろうが、本機61鍵をフルに生かすなら、上質なアナログ・ポリシンセ系で複雑かつ美しいコード進行のジャズ・スタンダードやクラシックのピアノ曲などを、聴いたことのないニュアンスの動きをさせて演奏するのが楽しい。

文:坪口昌恭

製品情報

EXPRESSIVE E Osmose 61

Specifications

●鍵盤:3軸方向の操作が可能なフルサイズ61鍵盤●機器構成:スタンドアロン・シンセサイザー、MPE MIDI コントローラー、クラシック MIDIコントローラー●サウンド・エンジン:EaganMatrix(Haken Audioによるデジタルモジュラーエンジン)●最大同時発音数:24音●インターフェイス:カラーLCDスクリーン、ピッチ&モジュレーション・スライダー●ペダル入力:サステインまたはシンセ・パラメーターを割り当て可能な2つのコンティニュアス・ペダル入力● MIDI:MIDI IN、MIDI OUT/ THRU(DIN)、USB(Type-B)●オーディオ出力:2つの1/4インチTS アンバランスライン出力、1/4インチTRSヘッドフォン出力●ソフトウェア:ファームウェアやライブラリ更新用のアップデーター、サウンドを作成・編集するための Mac/ PC用エディター●外形寸法:1060(W)×310(D)×90(H)mm ●重量:9.5kg

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