ノイズの音作りに使いたい個性が光るシンセサイザー 〜 BUCHLA Music Easel(Modern)

『FILTER Volume.07』掲載特集“ノイズ研究”では、ノイズを使った効果的な音作りができるシンセサイザーをピックアップ。それぞれの機種の個性や特徴に着目しレビューした記事をWebでも公開!

ノイズの音作りでも独特の存在感を放つ
伝説のポータブル・シンセの復刻版

ブックラMusic Easel(Modern)は、伝説のポータブル・シンセMusic EaselにMIDI、USB、CV/GATE、MIXなどをまとめたEMBIOモジュールを備える現代版として復刻されたセミモジュラー・シンセだ。専用ケースもかっこいいぞ。

さて、モジュラー系のシンセに馴染みがないと、パネルを一見しても何がなんだかわからないものだ。特にブックラのような独特のシンセならなおさらだろう。なので、まず最初にモジュラー・シンセの基本である信号のインとアウトを確認しておきたい。

パネルを見渡すと、上部や左側のスイッチやスライダーには個々に名称や機能が印字されている。しかし、中段の入出力端子では最小限の印字にとどめられており、その代わりにカラーリングによって信号の種類が表現されている。色付きの端子はそれぞれ青(SEQ)、紫(PRESSURE)、白(RANDOM)、黄色(PULSER)、オレンジ(EG)からの出力だ。同じ色の端子が複数存在するが、それらはすべて同じソースからのCV信号を出力しているため、全体の信号の流れを把握しやすく、頭の中もすっきりする。その結果、パッチ・ケーブルの取り回しもスムーズになり、操作性の向上にもつながっている。

黒の端子はCV入力だ。さらに、PULSERやオシレーター、ローパス・ゲートの各端子にはアッテネーター・スライダーが付いている。つまり、カラフルな端子から黒の端子にパッチ・ケーブルを接続し、アッテネーター・スライダーを上げるとソースに応じた変調がスライダーの量だけ得られる。この仕様は、誰にとっても扱いやすい設計だ。

トリガーは内部接続されており、ソースをトグルスイッチで選択する。トリガーを受けたときの挙動にはSustained(ADSR)タイプとパーカッシブなTransient(AD)タイプがあり、こちらもスイッチで切り替え可能となっている。よって、実に簡潔かつ柔軟にルーティングを行える。

それでは今回の本題、音作りを眺めていこう。モーグに代表される東海岸系の減算式アナログ・シンセの音作りはOSC→VCF→VCAという音声信号の流れの中でLFOやEGを使って音作りをしていくが、西海岸系シンセのブックラはオシレーター波形そのものをWaveshapeで変化させたり、オシレーターの掛け合わせや複数のソースを多重に入力し変調させることでノイジーな音色や複雑な倍音の音色を生み出すことができる。オシレーターの後ろにはルーティングが変更可能な2系統のローパスゲートも備わっており、内蔵シーケンサーとエンベロープを組み合わせてパーカッシブな音のリズムを生み出すのもお手の物だ。

オシレーターはTimbre付きのCOMPLEX OSCと、周波数レンジが広くFM/AMソースとなるMODULATION OSCで構成されている。両方ともにWaveshapeを備える。前者のTimbreは自然な倍音を付加することができるので使い勝手が良いし、両者をFMやAM変調したときにはマイルドかつ劇的に複雑な倍音を生成してくれる。もちろん、これらのパラメーターはほかのCVソースで変調できるので有機的な音色を生みだせる。

ここではPULSERを変調ソースにしてよりノイジーにしてみたい。PULSERをトリガー・ソースとして使わず変調に使用するのだ。PULSERの出力波形はノコギリ波で周波数レンジも広い。これを高速でオシレーターのPitchやModulationへ入力すると骨太なノイズ・サウンドとなる。このように音作りをしていて最高に素晴らしいと感じるところは、複雑な変調を深くかけていっても音痩せすることなく、とにかく芯の通った音が出てくるところだ。パッチング次第ではより奇抜な倍音変化やノイズの塊を生むことができる。しかし、音が潰れたり暴れるなどして破綻することもなく出力も安定しており、何よりもCV入力のアッテネーターが個別に備わっていることで、微妙な匙加減をイメージしながらコントロールすることが容易である点が素晴らしい。こうした部分は即興ライブの流れをまとめていく上でも扱いやすいので、演奏することがさらに楽しくなるだろう。

昨今の円安で手軽に買える価格ではなくなってきたものの、触ってみてわかる納得のシンセである。ああ……ブックラ欲しすぎる。(文:西田彩ゾンビ)

▲Music Easel (Retro)

製品情報

BUCHLA Music Easel(Modern)

価格●オープン・プライス(市場予想価格:848,430円/税込)

Specifications

【Stored Program Sound Source Model 208C】●それぞれ独立して切り替え可能な波形を持つコンプレックス・オシレーターとモジュレーション・オシレーター(別のボイスとしても機能)、ノイズ・ジェネレーターを搭載●5ステージのシーケンサー、エンベロープ・ジェネレーター、パルサー、切り替えが可能なトリガーを備えたモジュレーション・ソースを搭載●デュアル・ローパス・ゲート●ランダム・ボルテージ・ジェネレーター、エンベロープ・ジェネレーター、モジュレーション・オシレーター、エンベロープ・ディテクターなどのモジュレーション・ソースを内蔵●スプリング・リバーブ付きのミキサー・セクションを搭載
【Touch Activated Voltage Source Model 218e (v3)】●軽いタッチでもトリガーとコントロール電圧を生成できるタッチ・パッド●センサーの感度を調整可能●MIDI 機能はベロシティ、複数のノート、チャンネル・プレッシャーなどを出力使用可能●ポルタメントとアルペジエーターを搭載●パッチの電圧を変更でき、アルペジエーション・モードやオクターブ・シフトもコントロールできるプリセット・ボルテージ・ノブを装備●既存のMIDI機器やソフトウェア・シンセサイザーを操作可能
【Electric Music Box Input/Output (EMBIO)】●218eからのMIDI出力(ミニジャックおよびUSB)とCV 出力、208CへのMIDI入力、208Cからのオーディオ出力を装備●他のBuchlaモジュールやシステムとの統合を可能にするオーディオ・ミキサー●Slew コントロール、アッテネーター、クロスフェーダー、パルス・コンバーター、LFOを搭載

福産起業 TEL.03-3746-0864